17話 「スケルトンがいたら嫌な場所選手権」
これほど熟睡できたのは……いつ以来だろう。俺の目覚めはまどろみに覆われていた。それでも気合を入れ、体を起こす。そして体中の筋肉をゆっくりとほぐした。
【おはようございます】
ん? なんだろう、すーさんの声から不機嫌の感情が窺える。俺……何か悪いことしたかな。
【よく眠ってましたね。なんでそんなに寝れたのか……覚えてます?】
覚えて……ない。そもそも昨日の夜から、記憶がない。
【お財布……見ましょうか】
俺は指示されるまま、財布というよりズタ袋に近いそれの中身を見る。え?
「残り……五枚?」
どういうことだ。昨日の稼ぎは四八枚だぞ、食事は前と同じところで食べたし……宿だって変えていない。なのに何故、これほどに銅貨が減っているのだ。思い出そうにも……記憶がない。
【行ったところは一昨日と同じでしたけど…………山田さん、メニュー表を見て気づいちゃいましたよね。覚えてます?】
あ……そうだ、思い出した。俺はメニュー表を眺めるという至高の時間を過ごしていて……そして、見つけたんだ。エールの文字を。そしてエールについてすーさんに尋ねたら……ビールみたいな物って言われたから、とりあえずエール! って感じで注文しまくってた気がする。
【そういう事です。節制してれば今日なんかは休息日に出来たんですけどね……ということで、今日も頑張りましょうか】
なるほど……よく眠れたと思ったのはそういう事か。まあ、でもアルコールを摂取するのなんて久しぶりだったから仕方ないじゃないか。俺だって記憶がなくなるほど飲むとは思わなかったし。次は平気、平気。
俺は支度を整えると宿を後にする。今日のスウェットには獣臭と書かれていた。
「今日は……骨がある相手と戦いたいからな。スケルトンに行ってみようと思う」
【上手いこと言ったつもりです?】
俺はすーさんと会話しながら街を往く。
【まあ、強さはにわとりマンと同じくらいですし……いいんじゃないんですか】
セパラドスの街、その中央部に来ると人通りも増える。だが、俺の近くを歩く者はいなかった。抱きつき魔と書かれていた時同様に、周囲は噂を始める。
「臭いのは……ちょっと」
厳しい世評を耳にする俺。とても悲しい。居た堪れない気持ちになると俺は駆け出した。急いで街を出よう。そしてスケルトンにこの鬱憤を晴らすのだ。
「スケルトンのいる場所ってどこらへん?」
俺は今日の獲物の住処を尋ねた。
【常識的に考えましょうよ。墓場です】
それもそうか……確かに海水浴場にいたら嫌だもんな。
【肌を焼こうとして……オイル塗ってうつ伏せに寝てたりしたら面白いですもんね】
俺は墓場へ向かう足を早めるのであった。
***
【内科とかどうでしょう】
道中、スケルトンがいたら嫌な場所選手権をお題にして会話をする俺とすーさん。うん、確かに内科を受信してたら嫌だろうな。スケルトンの癖に風邪気味って言われても、医者は困る。しかし……まだ甘いな。
「消化器内科の方がよくない?」
より洗練された回答をする俺。ほら、スケルトンが胃が痛いとか言ったら面白いだろう。だって……そもそも胃がないんだからな。腸が辛いとか言われても同じだ。超面白いだろう……腸だけに。
【それなら……皮膚科だっていいですよね】
そんなこんなで墓場に到着した俺。やはりというべきか、空気がどんよりとしていた。
俺は辺りを窺う。まず目につくのは……手入れされないまま放置された西洋的な墓石だ。思わずツームストンパイルドライバーをしたくなる。
さらに観察すると十字に組まれた木なんかも地面に刺さっているな。これも墓標だろう。地面は草がまばらに生えているくらいで、荒地というのが相応しい。
俺は墓地のさらに奥へと進む。なんでだろうな、日は出ているはずなのに暗さを感じる。不気味だ。
【山田さん……囲まれてますよ】
そんな時だ、すーさんからの声が聞こえた。囲まれているだと! 俺は周囲を見渡す。すると……
コツッコツッ
そんな音が聞こえてきた。しかも俺の四方八方……全てからだ。音は近づいてくる。
そして……奴らの姿を目視できた。骸骨だ。俺、知ってるぞ。筋トレをするなら骨格も知る必要があるからな。例えば頭蓋骨ってあるじゃないか、あれは、とうがいこつと呼んだほうが学術的なんだそうだ。
そんなことはどうでもいいか。気づけば……俺は十体ほどのスケルトンに囲まれていた。
俺は筋肉に気合を入れ、いつものファイティングポーズを取る。
そして、俺のスケルトン達との死闘が……始まるのだ。




