14話 「俺の人生にも一度くらいこんな日があってもいいだろう」
俺とメニュー表との死闘は……ようやく終わりの時を迎えようとしていた。
にわとり……ステーキか。要はチキンステーキだな。そうそう、こういうのでいいんだよ。馴染みがある食材に、ステーキという言葉が特別感を与えてくれている。それに鶏肉は筋肉にとっても優れた食材だ、俺の大胸筋や上腕二頭筋達も喜ぶだろう。そうだな、俺は筋肉達との相談の末……これに決めた。
十数分待った頃だ、俺の前にはバカでかいチキンステーキが運ばれてきた。俺は元の世界含め、ここまで巨大な鶏のモモ肉を見たことがない。ここまでデカいと火が通っているのか心配になるほどだ。
【その辺りは魔法で火力を出しますから平気ですよ】
「いやいや、どういう理屈だよ」
【要は炭火焼きと同じ感じです】
ふーん。俺には魔法が使えないからわからないけど……魔法って便利だな。まあいいや、そんな事より食事だ、食事。
俺はチキンステーキにナイフを入れる。すると透き通った脂と肉汁が溢れてきた。この脂と肉汁が塩と胡椒に絶妙に合うのだ。うん、やっぱりチキンステーキは塩と胡椒だけのシンプルな味付けに限る。俺は我を忘れたかのように目前のチキンステーキを切っては頬張り、切っては頬張りを繰り返す。
「俺の人生にも一度くらいこんな日があってもいいだろう」
気づけば……肉の塊かと思われたチキンステーキは、全てが俺の胃袋へと収められていた。
【やっぱりプロレスラーの食事量って半端ないですね】
「若手の時に食わされまくったからな、どうしても胃袋のサイズが大きくなっちまうんだ」
食後のひとときをすーさんと歓談して過ごす。流石の俺もこれだけ食えば、すぐには動けないからな。
「しかし、スライム狩りで今後の生活は安定するかもしれないが……余裕ってわけじゃないよな?」
【そうですね。今日くらいの稼ぎだと貯蓄が出来るには程遠いかと】
「二十枚くらいだと……そうなるよな」
俺もメニュー表を眺め、様々な物の値段を知ったことで……この世界の銅貨の価値ってやつがわかってきた。チキンステーキは銅貨八枚。ちなみにドラゴンステーキは時価だ。
【残りは宿泊代と明日の朝食で精一杯ですからね】
つまり……俺の状況はその日暮らしって訳だ。うーん、どうしよう。簡単なのはもっとスライムを討伐することだよな。
【より報酬が高い魔物を狙うのも手ですね】
より稼げる魔物か……どうなんだろう。スライムの倒し方は確立できたから安定するのは間違いない。しかし……一日の序盤に色違いのスライムなんかと出会ったらヤバいもんな。
ならば、他を狙うのはどうだ。最初は苦戦するかもしれないが……この俺なら勝てるに違いない。いずれは討伐法も確立できるだろう。それなら報酬が高いほうがいいよな。
「ちなみに……スライム以上の報酬が出る魔物って、どんなヤツなんだ?」
俺はスライム以上の魔物について尋ねた。話を聞いてみて勝てそうな相手なら……明日はそちらに挑戦してみるのもいいだろう。
【そうですね、この辺りだと……にわとりマンとかスケルトンがいるみたいです】
「ちょっとごめん……もう一回言ってもらっていい?」
【にわとりマンとかスケルトンがいますよ】
とてもではないが違和感しか覚えない魔物の名前に、俺の筋肉は理解を全力で拒んでいる。いやいや、スケルトンくらいはわかってるからな。問題はもう一つの方だ。
【にわとりマンってさっき食べたステーキですよ】
はあ? 絶品だと思ったチキンステーキの後味が急に苦く感じる。塩と胡椒で食うのが最高だとか思ってたのがバカみたいだ。何とも言えない微妙な表情になる俺。
【えっとですね、にわとりマンと言うのは……にわとりを八割、人間を二割くらいで混ぜた感じの生き物です】
俺の様子を察してか、すーさんはにわとりマンの説明をしてくれたが…………よくわからなかった。
***
俺は食事処を後にすると、夜道を宿に向けて歩み始める。
【で、明日はどうしますか?】
すーさんが明日の予定を聞いてきた。
「うーん、どうするべきか……正直迷っている」
にわとりマン。ちょっと対戦するのには気が引ける名前だ。生前の頃に、明日の対戦相手がにわとりマンと書いてあったら困惑しただろう。しかもにわとり八割、人間二割とかいう奇妙な設定のおまけ付きだ。
「すーさん的には、にわとりマンと俺なら……どっちが勝つと思う?」
困った時の神頼み。なにせ本当の神だ、少しくらい頼りにしてもバチは当たらないだろう。
【山田さんです】
即答してくれたすーさん。頼りにしてよかった。愛してる。
「そうか、それなら……人生はチャレンジだ! 迷わず行こう!」
俺はにわとりマンとの闘いを決意すると、宿への歩みを早めた。
【にわとりマンとかスケルトンって……スライムに次いで最弱との評判なので、流石に勝てると思うんですよね】
歩みを進める俺の頭に、すーさんの声が響いた。きっと照れ隠しだろう。
そうこうしているうちに簡素な造りをした宿が見えてきた。俺は宿で簡易な受付を済ますと部屋に入る。どうやら寝るだけの設備しかない安宿のようだな。だが、問題ない。俺がすべき事は、明日のにわとりマンとの決戦に向けて休息を取ることだけだからな。
俺は固いベッドに横たわる。すると、意識が溶けていくのであった。




