13話 「腹が………………減った」
「やる前から負けること考えるバカがいるかよ!」
俺はすーさんの意見に抗うと、例のスライムとの闘いに備え始めた。頭、顔、上半身の粘液を手のひらで除去していく。しかし思った以上に粘度が高く、なかなか粘液が払い取れない。
【いやいや、勝ち負けの話じゃなくてですね……あのスライムをよく見てください!】
「んー。いつもと同じくらいのサイズのスライムに見えるが……強いて言えば色が違ってるな。緑色っぽい」
光の加減で青が緑っぽく見えたり、逆に見えたりすることってあるだろ。だから、そんなに違和感を感じなかったんだけど……あれは確かに緑色だな。しかも割と濃い緑色っぽい。俺……この色の名称、知ってるぞ。ビジリアングリーンって言うんだ。
【ビリジアンです】
え? ビジリアンはビリジアンでジビリアンがジリビアン……頭が混乱してきた。細けーことはいいんだよ。ビジリアンとビリジアンに大差なんてないだろ。ほら、アボカドとアボガドみたいなもんだ。
【馬鹿なこと言ってないで逃げたほうがいいですよ。あのビリジアンのスライムはアボカドと同様に毒を持ってますから、全身が粘液まみれになる戦いしか出来ない山田さんとは相性が最悪です】
「えっ……アボカドって毒あるの?」
【人間には無害みたいですが……小動物にはかなり危険な成分が含まれているらしいですよ】
なるほど、勉強になった。しかし毒持ちとは厄介なスライムだな。確かにすーさんの言う通りで、今の俺には毒を避ける術がない。ならば、闘いを挑むのは愚策だろう。俺は覚悟を決めると……逆方向へ一目散に逃げ始める。
「これは負けたわけじゃないぞ。勝った負けたそんな小さい事で俺はプロレスしてないからな!」
【立派な捨て台詞ですね】
***
脱兎のごとくセパラドスへ逃げ帰る俺。何度も言うが逃げたわけじゃないぞ。今の状況で毒なんかに感染してはいられないだけだ。ほら、アイツが持つ毒が……万が一にも牡蠣に当たった時のようになる毒だったりしたら、洒落にならないだろ。俺は、もう二度とあの苦しみは味わいたくない。
そうこうしているうちに、俺はセパラドスに戻ってくると……報酬をもらいに冒険者ギルドへと足を向けた。
「抱きつき魔さん。出来れば、もう少し粘液を落として……服を着てから来てください」
すっかり馴染みになった受付のお姉さんは、いつもの無表情で銅貨をくれた。なんとその数……二十四枚だ。ふふっ、今日の 1+1=24 だぞ、覚えておくといい。しかし、これだけ稼げたのなら……明日からは報酬を貰いに行く前に風呂に入れそうだ。
「明日からは大丈夫だ。安心してくれ」
俺はお姉さんに言い残すと、ギルドから立ち去った。
全身にこびりついた粘液を落とすため、リフレッシュをするために……俺はその足で風呂に向かった。そして番台に銅貨二枚を払うと、昨日と同じようにして風呂を満喫する。
「これで残りは二十二枚。二枚は報酬受領前に風呂用に取っておくとして……残り二十枚か」
俺は入浴しながら呟く。今、手持ちの二十枚で明日の報酬受領まで過ごせるのだろうか。
【贅沢しなければですが、それだけあれば今日の食事や宿泊は賄えると思いますよ】
俺の不安を解消させる言葉がすーさんから送られてきた。ありがとう。
その後、俺は急ぎ足で風呂を後にする。そしてすーさんに問いかけながら駆け出した。
「安くて美味い店、教えてくれっ!」
【昨日から食べてないですもんね。お腹空いてますよね……それじゃ、その道を左です】
***
なんだか居酒屋みたいな雰囲気の店に入った俺。しかし流石はすーさんが限られた予算から、美味さと量を勘案して勧めてきた店だ。入店客も多く、活気があり……商売も繁盛しているように見える。
俺はメニューを手に取ると、そこに書かれた文字に目を通した。文字には見覚えがないが、読めはするので気にしない。そういう細かいことを考えたい気分ではないのだ。なんにせよ、俺は……腹が………………減った。
メニューを見る俺。まずは……ドラゴンのステーキ(品切れ)。そうか……品切れか。なら仕方がない、諦めよう。だがドラゴンのステーキってのには憧れる。きっと味はガツーンとしてボリューミーなんだろう。多分だが、スパイスもメリハリが効いていて、量を食べても飽きさせない……そんな絶品に違いない。いずれ……食おう。
次は……ビーフシチューか。悪くない。何と言うか……安定の味だろう。しかし、今の俺には……あと一押しが足りない。今の空腹状態と、この世界での俺の初めての食事という記念感……こいつを両方満たすかどうかと言われたら、ビーフシチューはちょっと違うよな。そんな気がする。
次……ガーリックパンか。俺がこの世界に慣れた時には、確実にお世話になるであろう一品だ。漂うニンニクとバターの香りは常に食欲を刺激する。いや……本当に飽きないよな、ガーリックパンって。だが……今の俺には違うんだよ。何と言うか……主役級の一歩か二歩手前って感じだ。
【早く決めてくれませんか】
無粋だ。人がメニュー表を見て、その世界観を理解し……完璧な注文をしようとしている所に口を挟むのは感心しない。俺はすーさんを無視してメニューをさらに読み進める。
スライムゼリー……。うん、ない。流石にこの選択肢を選ぶことだけは絶対にない。そもそも、お前はデザートだろ。俺の空腹を満たせる可能性を感じない。それに俺はスライムの粘液……言わばゼリーまみれになって稼ぎを得てきたのだ。今更、それを想起させるような物を頼む気にはならない。
【まだですか~】
俺とメニュー表の激闘は……まだまだ続くのであった。
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