110話 「思えば……出世したものですね」
「まったくヒリついた手紙が来たもんだぜ」
「この手紙、無視して焼いちゃダメなのですか?」
「パパが受け取っちゃってますから、ちょっと無理でしょうね……」
サルヴァトーレさん、カルラさん、ヴィクトリアさんの三者が王女の手紙についてを語っています。出来れば見なかった事にしたい。どうやら三名の感想は……そこに落ち着きそうですね。私も同意します。
「で……どうする? 行くべきか?」
「どうするって言っても……行く以外ないじゃない」
山田さんの問いかけにルカさんが答えました。他の人は黙っています。きっとルカさんに同感なのでしょうね。というか……行くより他の選択肢がありません。そうでなければ、山田さんが死んでしまいます。
「私はこれを恐れていたのだ。スカイハイが王都に呼ばれ、そのまま帰ってこない事態をな。これでは、何のために土地貸与を通したのかわからん…………」
区長は不機嫌に呟きました。それを見た山田さん…………
「安心してくれ。区長には土地も用意してもらったしな……俺達は必ず帰って来る、絶対にな」
そう言って区長を励ましています。その言質を得てでしょうか、区長は少し安心した表情で墓地を去るのでした。
「しかしなあ、この話が無ければ……次は地方興行も含めたシリーズを開催して人間 VS 魔物をやろうと思ってたのにな。スケさん、申し訳ない。正直スマンかった」
そうなんですよね。急に王都に呼ばれたことで、スカイハイは本来の予定を破棄しなければなりません。これでは、魔物バトルロイヤルや山田魔物が打った布石が無駄になってしまいます。山田さんは悔しそうに、スケルトンさんに謝罪するのでした。
「いっそ山田も死刑になって……ワテらの仲間になるスケ?」
対してスケルトンさんは山田さんを死の世界へと誘いました。その発言で笑いを誘うと……それを山田さんへの慰めとしたのですね。多分、王女よりもスケさん達の方が人間性に勝ってるんじゃないでしょうか。
「しかし、王都……フライ・トルメンタって言ったっけか? 俺は行ったことがないから知らんのだが、どうやって行けばいんだ?」
そういえば山田さん、こちらの世界に来てからはずっと……セパラドス近郊で生活してましたもんね。王都どころか他の街すら知りません。
「セパラドスから王都なら、概ね……徒歩か馬車でしょうか」
流石はヴィクトリアさん。こういう時には頼りになりますね。お酒が入っていない限り、常識的な質問は大抵……ヴィクトリアさんが解決してくれています。
「まあ、移動手段と言えば……そんなもんだよな。当然、選手バスとかあるはずないし……」
「選手バスって何よ? 今度は人食い黒バスでも釣ってこいっていうわけ?」
ルカさん、山田さんから出た選手バスという言葉に食いつきました。釣りだけに……食いつきました。
「いや、魚の話ではなくてだな……選手バスとは選手を乗せるバスなんだ」
この中途半端な説明に、皆さんは……巨大人食い黒バスに乗って海路を移動する、といった謎の構図を想像するのでした。
「それでフライ・トルメンタまでは……徒歩だと十日。馬車なら七日くいらいでしょうか。それとカルラさんが使う風属性魔法を考慮すれば……もう少し早く到着できるかもしれませんね」
人食い黒バスに話題と想像力が持っていかれてしまいましたが……ヴィクトリアさんは力尽くで引き戻します。そして王都への移動日数の説明をしてくれました。
「ですが……第三王女様はプロレスをご所望されているんですよね。そうするとリングを持参しないといけません。そうなると我々だけで運ぶのは難しいですし……もっと時間がかかるのではないかと」
「あ……そっか。うーん……どうしたらいいと思う?」
山田さん、長い説明を聞くのに疲れたのでしょうか……バカ面を下げて聞いています。そして、バカ面を下げて質問しました。
「大丈夫です。私に任せてください」
どうやら、この一件も……頼りになるのはヴィクトリアさんのようですね。
***
「受付二号さん、今日はギルドに依頼を出したいんだが……」
冒険者ギルド、いつもの受付で……山田さんは初めて依頼をする側になりました。思えば……出世したものですね。
「早く動きなさいな、依頼者様を待たせるのが受付の仕事なの? ホント使えない子ね」
山田さんの広い肩幅の向こう、ヴィクトリアさんは受付二号さんに毒を吐いています。どうやら……ヴィクトリアさんと二号さんは不仲なんでしょうか。まったく、スケルトン一号二号さんを見習ってくださいよ。
「チッ……す、すいません。書類をお持ちしますので……少々お待ちを」
なんだか……舌打ちが聞こえましたね。まあ、聞こえなかったことにしましょう。受付二号さんは顔に血管を浮き上がらせながら……書類を取りに奥へと下がるのでした。
「王都まで馬車を五台ほど。それと護衛の冒険者を適当な数……用意してほしい」
「はい。それですと一週間程頂きますが……よろしいでしょうか?」
山田さんは受付二号さんに依頼内容を伝えると、彼女は依頼内容を書類に筆記しながら、準備期間を確認をしました。
「一週間も? そんなの三日で用意出来るでしょ。アンタ、どこまで無能なのよ?」
すると背後から、ヴィクトリアさんが口を挟んできました。これには受付二号さんも黙っていません。
「いえ……最近、唐突にプロレスラーになるとかで退職なされたドアホのせいで……皆、忙しく仕事させて頂いております」
「あぁん? 今……なんつった?」
「前任がドアホだったって言ってんだよ!」
まあ、予想はしてましたけど……乱闘勃発です。
ヴィクトリアさん、ペンを凶器に受付二号さんに殴りかかりますが……受付二号さんは画鋲で牽制すると接近を防いでいます。どうやら受付二号さんにも凶器攻撃のセンスがあるようですね。あのヴィクトリアさん相手に怯まないどころか……凶器攻撃で互角に戦っています。
今度は受付二号さんの定規ソードを……バインダーシールドでガードするヴィクトリアさん。この二人、いつかスカイハイのリング上……いえ、場外で戦わせてみたいですね。きっと盛り上がることでしょう。
ほら、現に……冒険者ギルド内の冒険者達や職員の皆さんは大盛り上がりしてるじゃないですか
「あの、お金は相場の倍額払うから……なるべく早く頼みたいんだけど……。誰か聞いてる?」
そんな喧騒の中、山田さんの依頼は……延々と放置されるのでした。




