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冴えないプロレスラーの俺がツッコミの女神に転移させられたのは娯楽のない世界だったので、プロレス団体を設立して人々に娯楽と笑いを届けよう  作者: マスクドぷるこぎ
団体創成編

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11話 「1+1は2じゃないぞ」


 スライムとの激闘を制した俺はセパラドスの街へと引き返す途上にある。勝利の余韻に浸り、粘液まみれの胸を張ったまま凱旋するのだ。


 街が近づいてきた。街の人々も増えてくる。彼らは俺を一瞥すると、誰しもが仰天の表情を見せた。


 そこまで驚くほどのものなのだろうか? ひょっとしたら、この世界での冒険者とやらは生還率が低いのかもしれない。だからこそ、俺が無事に帰還できたことに驚きを見せたのだろう。


【ほぼ全裸の筋肉男が、上半身を粘液でテカテカさせて歩いてきたら……誰だって唖然としますよ】


 言葉にされてしまうと、確かにそうだ。でも、ボディビルディング大会の会場廊下だったら当然の光景かもしれないだろ? だから唖然とする必要なんてないと思うんだけどな。


【私の世界をそんな世界観で捉えるのはやめて頂きたい】




 すーさんと、そんなこんな会話をしている内に冒険者ギルドが見えてきた。俺は意気揚々と扉に手をかける。そうしてギルド内へと入ると……奥の方に知った顔が確認できた。受付のお姉さんだ。俺はそちらに向け、口を開く。


「スライム討伐してきました! お金ください!」


「うわ! プロレスラーが戻ってきた!」


 お姉さんは驚愕しながら言った。そして……見覚えのある無表情に固定される。それから、俺に向かって小走りで駆けてきた。


「そんな……粘液まみれで入ってこないでくださいね」


 お姉さんに怒られる俺。無表情で注意されるのって結構キツイな。だが俺にも事情ってヤツがあるんだ。俺は釈明に口を開く。


「正直、スマンかった。でも、お金をもらえないとお風呂に入ることができないし……」


 俺の釈明に耳を傾けていたお姉さんはポケットから何かを取り出す。そして、それを放りながら言う。


「銅貨二枚やるから……まずは風呂に行ってこい」


 無表情なはずのお姉さんが醸し出す異様な迫力に……俺はただ頷くしか出来なかった。




***




 すーさんから風呂屋の場所を教えてもらった俺はそこへ向かう途中、銅貨二枚を指で弾いたりして弄んでいた。


【銅貨二枚だと……お風呂代くらいにしかならないですね】


 なるほど、スライム一匹で銅貨二枚が相場なのか。そしてそれは風呂に入れる程度の金額にしかならない。俺はすーさんの発言から、それを察した。


「この世界で最低限生活していくには、一日で銅貨が何枚くらい必要になるんだ?」


【そうですね、寝床が確保されていれば……十枚あればなんとかでしょうか】


 ふむ、スライムを五匹か……今日の闘いを思えば、なかなかに骨が折れそうだ。


【それで、今日はどうしましょう。銅貨二枚はお風呂でなくなっちゃいますし……】


 それはその通り、今日の稼ぎは風呂代で全て消えてしまう。


【もう一度、スライムを倒しにいくには……今日はもう遅いですし】


 先程からすーさんは今日の俺の生活を心配してくれている。


 だが、俺はそんな心配を全くしてはいない! だから、ここは一つ……すーさんを安心させてやるとするか。


「ここに……銅貨が二枚ある」


【ありますね】


「銅貨を一枚ずつに分けてから……合わせると、何枚だ?」


【二枚ですけど】


 俺の意図に気づかないすーさんは口数少なく、会話の流れを理解できていないようだ。


「1+1は2じゃないぞ。1+1で200だ。10倍だぞ10倍。つまり銅貨は二百枚あると思えばいい」


 ふっ……俺の理論にすーさんは言葉を失っているようだ。何の返答もツッコミも来ない。勝ったな。


【…………ツッコミ所が多すぎて遅れました、申し訳ありません】


 そして俺は……すーさんの怒涛のツッコミを受けながら、風呂屋に向かうのであった。




***




【1+1=2です。200じゃありません】


【2が200になるのは10倍じゃありません。100倍です】


【山田さんが二百枚だと思うなら、それでいいですけど……現実を見ましょう。どう見ても二枚です】


 俺は風呂屋に到着すると、銅貨を二枚支払い……いざ、風呂場に足を踏み入れる。


 浴場に入ってみると、その光景はローマの公衆浴場のような場所だった。いや、入る前には少し不安に思ってたりもしていたんだ。何故かって、ほら……俺はこの世界の風呂場がどんな造りや仕組みなのか知らないからな。


【魔法でお湯が循環しているってくらいが大きな違いで、他は同じですよ】


 なるほど、あの辺りでスライムを洗い流して……あっちが湯船か。


 よく考えなくても当たり前か。どっちの世界であろうが風呂場の役割が同じであるなら、構造だって似たようなものになるに決まっている。




 俺は湯船の中、筋肉もリラックスした様子で緩んでいた。全身の疲労は嘘みたいに溶けていく。


「やはり風呂はいい。全身がサッパリだ」


【冒険者としてもサッパリでしたね】




***




【で、今日の食事と寝床はどうするんです?】


 湯上りの火照った肌で街を歩く上機嫌な俺に、すーさんから野暮な質問が飛んできた。


「食事は抜くしかないな」


【大丈夫なんです?】


「良くはないが……平気だ。成長中のレスラーと違って俺の体は完成しているからな。体の維持ができる程度の食事で大丈夫だし、胃腸を休ませる時間も重要なんだ。なにせ胃腸がぶっ壊れたら……これまでの筋トレの成果が水の泡になっちまう」


【ふーん、そんなものなんですね……で、寝床は?】


「それは……そろそろ着く頃だ」


 そして俺が足を止めたのは……衛兵さんが駐在していた守衛室。顔なじみの衛兵さんに挨拶をすると、俺は地下の牢屋に案内される。


【そう言えば……服はスライムと戦う前に破いちゃいましたもんね、また明日、用意しておきます】


 俺は牢屋の石床に寝転がる。火照った肌には気持ち良いくらいだ。明日はもっとスライムを倒せるだろうし、今日でこの牢屋とはお別れだと思うと寂しさも感じた。




 しばらくして、俺は……睡魔に魅入られたかのように眠りにつくのであった。


少しでも「面白い!」 「プロレスLOVE」 「平田だろ、お前!」


そう思っていただけましたら、ブックマークや☆等で評価して頂けますと


スライム討伐に五話もかけた、山田と私のモチベーションとなります。


なにとぞ、よろしくお願いいたします

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