108話 「オラ! よく覚えとけオラ! I am 山田魔物!」
さあ、リング上……カルラさんは山田魔物の起き上がりを待っているようですね。どうやらノータッチ・トペ・スイシーダを狙っている様子です。
しかし、その技は山田魔物も知っています。それだけは喰らってはいけない。そういった思考からでしょうか……頭をリングの高さまで上げると、リング上のカルラさんの様子を伺っていますね。セコい、やり方がセコすぎます。
そしてカルラさんがトペを狙い、走り出そうとすると……頭を引っ込めました。まるでモグラ叩きみたいですね。
「山田、ズルいのですよ! 顔を出すのです!」
〈それでもプロレスラーかー!〉
〈本気でやれよー!〉
【受けの美学は何処行ったんだー!】
お客さんからは山田さんへの罵声が飛んでいますね。私からも脳内に飛ばしてやりました。
「今の俺は……山田魔物だからな。受けの美学など…………ない!」
山田魔物からは、そんな返答がありました。受けの美学どころか人としての美学すら失っていますね。
〈Boo Boo Boo Boo !〉
遂に会場からは、山田魔物に対してのブーイングが始まりました。その声に居心地の悪さを感じたのでしょうか、山田魔物……なんとリング下、エプロンへと潜り込んでしまいます。簡単に説明すると……リングの土台部分のことですね。
〈山田ー、お前が出てこいやー!〉
〈そこ、入れるんか?〉
【そろそろ真面目にやらないと……暴動になっちゃいますよ】
少しの間、エプロンに潜り込んだ山田魔物。やっと出てきました。
「芸人が入り込んだわけでもないのに……暴動は困るな。それと、すーさん。俺……しばらく喋れないから、よろしく」
そんな事を声小さく口にした山田魔物。芸人っていったい何の事なんでしょうね、私にはわかりません。何か……喋れないほど重要な意味があったりするんですかね?
〈Boo Boo Boo Boo !〉
その後も……カルラさんがトペ・スイシーダを放とうとすると、山田魔物はエプロンに逃げ込む展開が続きました。次第にブーイングが強まっていきます。
〈Boo Boo Boo Boo ! Boo Boo Boo Boo !〉
この空気をマズいと判断したのでしょうか、遂にイクセントラさんが動きます。リング下の山田魔物に向け…………
「ワンツースリーフォーファイブシックスセブンエイト…………」
爆速のリングアウト・カウントを始めました。山田魔物も……これには大慌て。カウントがフィフティーンを数える頃にはリングに戻るのでした。
這うようにリングインした山田魔物。起き上がりをカルラさんに捕まります。カルラさん、山田魔物をロープに振ると……自身もロープの反動を受け速度を増し…………
「フライング・ニールキックなのです!」
バコッ!
〈いいぞー、カルラー! やっちまえー!〉
リング中央、フライング・ニールキックを受け……山田魔物は仰向けに倒れてしまいした。
「もう一回! 行くのですよー!」
カルラさん、山田魔物のダウン位置を調整すると……再びコーナーポスト最上段に駆け上がっていきました。これは再度のムーンサルトプレスを狙っていますね。
そして、カルラさんはコーナーポスト最上段から後方に高く身を投げ出すと……山田さんに体を浴びせ…………
プシャー! ドーーーーーン!
〈うおおおおおおおおおお!〉
〈なんだ、ありゃ……山田が緑色の液体を吹き出したぞ!〉
〈山田汁だわ!〉
なんと山田魔物、ムーンサルトプレスの着弾寸前に……カルラさんの顔面に毒霧を噴射しました。毒霧を浴びるカルラさん。ムーンサルトプレスを浴びる山田魔物。さあ、どっちがダメージが大きいのでしょう。
「ふふっ、俺はこの仕込みの為に……エプロンに隠れてたんだよ」
「臭い! ニンニク臭いのです!」
自慢げな声色と共に、山田魔物は起き上がりました。顔面を真緑にされたカルラさん、その悪臭に転げ回っていますね。
プシャー!
まだ、口内に液体が残っていたのでしょうか。山田魔物はそれを空中に吐き……お客さんにアピールしています。
〈やるじゃねえか、山田!〉
〈おじさん、すごーい!〉
〈山田汁は……白ではなくて緑色。メモメモ〉
気付けばお客さん達は手のひら返し。山田魔物に声援を送っていますね。それほど毒霧のインパクトが凄まじかったのでしょう。
そんな観客の皆さんに、山田さんは自身の右上腕二頭筋を指さし……アピールしていますね。これは……山田ラリアットの予告のようです。
そんなこととは露知らず、カルラさんは顔面を緑色に染めながら……ようやく起き上がります。そこに突撃してくるのは…………
「喰らえっ! これが山田魔物ラリアットだ!」
バチコーーーーーン!
哀れ、カルラさん。顔面を緑にされ、今度はラリアットで空中一回転……そしてマットに墜落するとダウンしてしまいました。山田魔物、カルラさんを両腕だけで抑え込むと……カウントを要求します。
「ワン…………」
〈ワン!〉
「ツー…………」
〈ツー!〉
「スリー!」
〈スリー!〉
〈うおおおおおおおおおお!〉
「十八分三十一秒…………勝者、山田魔物」
イクセントラさんは山田魔物の右腕を掲げると、場内に勝者であることを示しています。そして山田魔物は……左腕も高々と掲げると…………
「見たか、この興行…………完璧に魔物の勝利だ!」
そう宣言するのでした。
そして花道からは……本日の魔物バトルロイヤルに参加した魔物さん達がなだれ込んできます。するとリング上は……倒れてしまったたままのカルラさん以外、完全に魔物に占拠されてしまいました。
「魔物がこのスカイハイのど真中に立ったんだぞ、今!」
そう叫びながら、唯一の人間であるカルラさんを踏みつける山田魔物。
あ、ここで人間勢が花道から飛び出してきましたね。何とヴィクトリアさんは凶器を持参して……ブチキレながらリングインしています。スケルトンさんは酒瓶で殴られ、スライムさんは塩をかけられ……フライング・ヘッドさんはバットで見事にホームランされていますね。
ヴィクトリアさんの悪逆非道・縦横無尽っぷりに……魔物勢たまらず、リング下に逃げていきました。
「オラ! よく覚えとけオラ! I am 山田魔物!」
訳のわからないアピールをしつつ、魔物さん達と共に花道奥へと下がっていく山田魔物。リング上ではルカさんがカルラさんを助け、ヴィクトリアさんがブチギレながら……山田魔物を睨みつけています。
こうして、今回の興行は幕を下ろしました。
きっと、これが次回以降……人間 VS 魔物 の抗争に繋がっていくんじゃないかな?




