10話 「必殺……山田アイだ!」
「喰らえっ! スライムのミリオンダラーをドリームする……必殺のミリオンダラードリームだ!」
【スライムさん、ついに億万長者になれたんですね】
山田さんは……まだまだスライムへの攻撃を続けています。とは言っても、攻撃側が相手にダメージを与えているわけではありません。スライムさんは無傷です。引き換え……山田さんの方が高所から落下したりしてダメージを受けているように見えますね。あ……山田さん、そろそろ疲れてきたんでしょうか。攻撃の手が止まりました。
「ちくしょう……俺の技が全然通用しない」
俺は肩で息をする。大技を連発してきたのだ、それも無理はないだろう。しかしスライムのタフさには、俺も驚嘆せざるを得ない。なにせ……呼吸が乱れたままの俺に対し、スライムは息一つ乱さずピンピンとしてやがるからな。
【スライムって呼吸するんです?】
「知らない」
ようやく呼吸の乱れが落ち着くと、すーさんに即答する俺。しかし……この世界の神様でも知らない事があるんだな。そう考えるとスライムも可哀想な存在だ。神様に知ってもらえていないんだから。
ん……待てよ。神様ですら、スライムという存在のことをよく知らないのか。ならば……今、俺が知ってやればいいんじゃないだろうか。そう思うと、急に……神から見放されたこの液体の塊に興味が湧いてきた。待っていろ、スライム。今から俺がお前の理解者になってやるからな。そして、お前を詳しく知ることで……この闘いの決着をつけてやる!
「行くぞ、スライム。必殺……山田アイだ!」
俺はスライムを凝視する。
【えっと、説明しますと……山田アイとは適当な感じで相手を見ることで、なんとなく弱点っぽい所を見つけることができる……細かいことは気にしない必殺技なのである……って感じで良かったですか?】
すーさんが俺に変わって、山田アイとは何であるかを説明してくれた。すーさん、ありがとう。
さて、山田アイでスライムの観察開始だ! 俺はスライムに鋭い眼光を飛ばす。
ふむふむ……山田アイによれば、あいつの体の構成要素は液体らしいな。
【今更ですか……】
その特性からして打撃技や投げ技、さらにはパワー技に耐性があるのは間違いない。おそらく飛び技もダメだし、その他の技も相性が悪い。すると、ヤツに効果があるのは……極め技しか残されていない。
ならば、極め技で仕留めるためには……ヤツの弱点となる関節を発見しなければならないだろう。
俺は山田アイで、より詳しく観察を続けた。
「山田アイによれば……このスライムという生物には手は生えていない。足も生えてない。肩や踵もない。首もなければ、何もない」
【何もないは失礼ですよ】
「何なんだ、コイツ。極められる関節が一つもないだと……ひょっとして究極生物か何かなのか!?」
【大仰に山田アイとか言っておいて、なんというか……締まらない結論ですね】
すーさんは冷静にツッコミを入れてくれていた。だって本当に何もないんだから仕方ないだろう、そりゃ究極生物に違いない。その結論を締まらないだなんて……
ん…………締まらないだと!?
締まらないなら……締めればいいじゃないか。そう……極められない相手には、締めてやればいい! すーさんの言葉は究極生物に対する究極の攻略法を教示してくれていたのだ。
【そんなつもり……ないです】
その時だ、スライムは俺に向かって体当たりを敢行しようとしていた。俺に向かって猫まっしぐら……ならぬ、スライムまっしぐら。最初の体当たり同様に、ヤツは俺の上半身を狙い飛び込んでくる。
ドスッ
ヤツの体当たりは俺の大胸筋に直撃した。しかしプロレスラーに同じ技は二度も通用しない。俺はスライムの体当たりを受け止めると……そのままヤツを捕らえていた。
俺はそうして捕まえたスライムを大胸筋と上腕二頭筋で挟み込む。そしてその筋肉に力を込めると……俺の大胸筋と上腕二頭筋は隆起し始めた。
スライム視点で語るならば、捕らえられたまま自身の生存スペースを筋肉で埋め尽くされ……そして己も筋肉に押しつぶされるのを待つのみだ。
【うわ……この世の地獄ですね】
「これぞベアをハッグする……必殺のベアハッグだ! 喰らえ、スライム!」
俺は筋肉の出力を上げた。さらに盛り上がる大胸筋と上腕二頭筋。スライムの生存欲求は筋肉に埋め尽くされる。
「ら、らめぇぇぇぇぇぇ。これ以上、締められたら……膜が破れて溢れちゃうスラぁぁぁぁああぁぁぁ」
スライムの遺言が聞こえた。
【最低の遺言ですね】
ぷっちん
スライムの膜が破れる音が聞こえた。俺は大胸筋と上腕二頭筋の力を抜くと……そこは大量の粘液性の液体にまみれている。そうか……これがスライムの亡骸ってヤツか。そう考えると、粘液に少し温かみも感じてしまう。
俺は右拳を高く掲げた。そうすることで周囲に自分こそが勝者であると示す。そして、右拳を挙げたまま……
「スライム、俺にとってお前は……強敵と書いて友と読む存在だった!」
弔いの言葉を送るのであった。
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