あなたの前世は?
新学期。
新しいクラスメイト達にはしゃぐ生徒が話す声が聞こえる。
「ねえ、あなたの前世はなんだったの?」
「大したもんじゃないよ、パン屋さんさ」
「へー! それじゃ、今でもパンを作るのは上手いの?」
「あぁ。感覚は覚えているよ。もう二百年も前のことなのに」
人々が前世のことが分かるようになったのはつい最近のことだ。
その詳しい理由は誰も知らないけれど、噂によれば誰かが『どうしても会いたい人を探すため』にとてつもなく大きなことをしたのだとか。
そんなこんなで様々な事に興味を持って仕方ない年頃――ちょうど、中高生なんかはクラス替えの度に皆でわいわいと互いの前世紹介をするわけだ。
「へー! それじゃ、お前は前世で大恋愛をしたのか!」
「すっごーい!」
「まぁ、そうなるな」
一際生徒達に囲まれた少年がうんざり顔で頷く。
彼からしたら毎年の行事だ。
「すげえな! 劇にもなってるくらいじゃん!」
「脚色されまくっているけどな」
「ねっ! 奥さんは今どこにいるの? もしかして離れ離れ?」
「……別のクラスにいるよ。きっと、向こうも質問攻めにあっているんじゃないかな」
このような光景も随分と見慣れたものだ。
だからこそ教師たちは毎度毎度必要以上に大きな音を立てて教室に入って来る。
「はい! そこまで! ほら! こっちを見なさい! 先生を見て! いい加減話すのをやめなさい!」
若い女性の教師の言葉に生徒達が席に戻りだす。
あとでもっと話そうね、なんて言いながら。
「よし! 席に着いたね。それじゃ、まず自己紹介から……」
「先生! いい加減、先生の前世を教えてよ!」
前年度も彼女の下に居た生徒が茶々を入れる。
すると彼女を知っている者も知らない者も口々に言い出す。
「そうだよ! まず先生の前世を教えてよ!」
笑みを引きつらせながら先生は言った。
「お・し・ず・か・に! 去年も同じクラスだった人は知っているだろうけど、先生は皆にそれを話すつもりはありません! そ・れ・に! 自己紹介と言っても『今世』の自己紹介だけ! 分かった!?」
生徒達が納得しなさそうに文句を言う。
またこの流れか。
教師はため息をつきながら頭を抱える。
いつの時代、どんな種族でも……若い内は大人の言うことなんて聞かないものだ。
教師は――前世で魔王だった先生はため息をついた。
前世では勇者と悲恋に終わっちゃったから、せめて来世で結ばれようなんて思って――皆に前世が分かるようにしたけれど。
あぁ、もう。
失敗したなぁ。
帰ったらまた叱られるよ。
――あなたに。
元魔王のやらかしと後悔を知る由もなく、前世を知る人々は今日もまた過去の記憶を楽し気に語り合うのだった。