06 メインディッシュは銀皿の上に
自分の不死性をわかっていても、流石に首を切り落とされたらたまったものじゃないわけで。
あまりにショッキングな光景を目にしてしまったものだから、私はしばらく気を失ってしまっていたみたいだ。
瞬きを数回繰り返してから、霞む視界の焦点を合わせて、目の前の光景を理解しようと試みる。
「……?」
どうやらここは屋内で……随分と薄暗い部屋であるらしい。
月明かりに似た光は差し込んでいるし、狭苦しさは感じないから、棺の中ではなさそうだけど、何故か身体は動かせない。
いや、動かせないというよりは……感覚が無い。
凄く嫌な予感がして下を向いたら、状況がよく理解できた。
「生首かぁ……」
なんとなく感づいてはいたけれど、私は今首だけの状態であるらしい。
自分の声が聞こえる辺り、発声はできるようだけど……
やっぱり実感してみると、辛いな。
あれだけ必死に呼びかけても、誰も私の話を聞いてくれなかったし。
フェリクス様に至っては、会話したのに首落としてきたし。
なんて、心の中で文句を言っていたら、背後からコツコツと足音が聞こえた。
「その状態でも喋れるらしいね」
今更、声の主は誰? なんて思わない。
控えめな光量のランプを手に、大回りで横切った彼の背中には、光と剣の紋様が見えた。
聖印のあしらわれた純白のマントは死者の安寧を司る神、テレージアに仕える聖騎士の証。
彼が振り返って、薄いベージュの長髪も明らかになる。
間違いない、フェリクス様だ。
「お久しぶりです。随分背が伸びましたね」
「……あんたが小さくなったんだ」
は。そりゃもちろん生首ですから。
どれだけあった頭身も一頭身に様変わりですね。
なんて、冗談を続けてやることもできるけど、正直そんな気分じゃない。
「それで、乙女の身体を弄んで、楽しいですか?」
どうやら私が今いるのは食卓の上であるらしい。
銀の皿の上に生首を置いて、傍にはご丁寧にナイフとフォークまで用意してある。
さして考えなくたって、それを何に使うつもりかはわかる。
「弄ぶなんて言い方が悪いな。尋問だよ」
何故なら、フェリクス様は私と目も合わさずに正面の席についているから。
さも当然とも言いたげな所作で、二つの食器を手に取っているから。
彼はそれを、私に使うつもりなのだろう。