05 首の皮一枚繋が……ってない!
「おい、あの剣……フェリクス様のじゃないか?」
「一体どうして……奴は何者だ?」
「そもそも何故屋敷の中に……」
小ぶりなまさかりやピッチフォークなんかで武装しているところを見るに、メイドさんの悲鳴で駆け付けた方々は、衛兵さんというわけでもなさそうだ。
大方、近くで作業していた他の使用人さんか何かだろう。
「ええい、奴は丸腰だ! フェリクス様がいなくとも何とかなる!」
だけど、そのあたりの篝火から引っ張り出したのであろう松明は厄介だ。
「乾燥したゾンビは火に弱い。松明を投げろ!」
言う通り、今の私が長年眠っていた死体であることを考えると、少し火の粉を被っただけで全身火だるまになりかねないのだから!
「くっ……」
既に松明は投げられて、私へ向けて飛んできている。
それだけではない。
大振りのナタを持った使用人さんが、私へ向かって突っ込んできている!
だから私は考える暇もなく、私は胸の剣に手をかけた。
「やるしかない!」
勢い良く引いた剣底で迫る刃を弾き、そのまま突き出して指先を撃つ。
グリップを失ったまさかりが使用人さんの手から離れて、私はそれを空中で蹴り飛ばす。
唯一の武器を生垣の向こう側にやられた使用人さんは、驚いた様子で尻餅をつく。
「お話、聞いてくれませんか!」
抜き切った剣で松明をはじき、私が叫んでも攻撃の手は止みそうにない。
それどころか、遅れてきた他の使用人さんが、抱えるほど大きな篝火を運んできてしまった。
「みんな、この木を持つのよ!」
中には十数本の焚き木が残っている。
あれを投げられたらひとたまりもない……!
だったら、あるもの全部使うしかない!
「ごめんなさいっ!」
「うおっ!?」
私は背を向けて這い去ろうとした使用人さんの襟首を掴み、抱き寄せる。
長剣を逆手に持ちかえて、剣の腹を彼の首筋に添わせる。
「松明投げたらこの人も燃えますよ!」
完全に脅しになってしまったけど、仕方ないんだ。
まず話を聞いてもらうためには……こうするしか……!
「待て」
なんて、切羽詰まった思考の中に、今一番聞きたくない声が響いた。
「フェリクスさ……」
「こいつは、俺がやる」
ひょっとして、彼なら使用人さんたちを止めてくれるんじゃないか。
そんな淡い希望は、遮る声で打ち砕かれた。
「ま」
後ろを向いて止めようとしたら、急に視界が大きく揺れた。
横へスライドするようにずれていって、そのうち真下へ落ち始めた。
ごつん、という音を立てて、視界が跳ねる。
石畳のとなりに、くすんだ白のワンピースが――
私の身体が、目に入った。
次回からやっと恋愛要素が始まります……