04 飛んで火に入るアンデット
勢い良く腕を振りながら、前方へ足を飛び込ませ続ける。
とりあえず、フェリクス様から逃げないと。
そう思って、前へ前へ進み続けるうちに、気付くことがあった。
「ここ、お嬢様の庭園だ……!」
石造りの建物を出てすぐに目に入ったのは、よく舗装された石畳と、お行儀良く整列するブナ並木だった。道から外れた方角には、形を整えられた低木が並んでいるし、多分間違いはない。
「ここを曲がれば、お屋敷が見えるはず……!」
既に敷地内に入っているのなら、フェリクス様以外の人だって見つかるはず。
お屋敷にいる使用人……できれば私の存在を知っている誰かに、フェリクス様を説得してもらうんだ。
上手くいくかはわからないけれど……そうこうしているうちに見えてきた!
ほのかに照らされたお屋敷の入口前に誰かがいる!
「助けてください!!」
丈の長いスカート姿で、白のエプロン、両手にほうきをもっている。
間違いない、きっと使用人に違いない!
わたしの声が届いたようで、彼女はゆっくりとこちらを向いて……
「きゃあああ! ソンビいいっ!?」
……そんな風に、金切り声じみた悲鳴を上げた。
屋敷の窓が一斉に開け放たれ、中からランタンを持った人々が顔を出す。
「そ、そんな……」
一体どうして、一瞬でバレてしまったんだ。
さっきチラ見した限りだと、私の身体は割と綺麗な状態だったのに。
ちょっと痛みを感じないだけで、四肢だってこの通り……あれ?
「あ、剣刺さったままじゃん」
視点を少し下げて気が付いた。
さっきフェリクス様に突きさされた長剣が、まだ心臓に刺さっていた。
そっか、前方に思いっ切り踏み出したら、そりゃそうなるよね。
剣の鍔が返しになって、深々と刺さったままになるよね。
「えーっと、やっぱダメですか?」
人間味を見せれば見逃してくれるかと思ったけど、ダメらしい。
気づけば私は、屋敷の内外からドタドタと音を立てながら駆け付けた人々に囲まれていた。
人々の手には多種多様の武器と……じりじりと燃える松明がある。