03 引いてダメなら押してみろ
記憶の中のフェリクス様は、教会に仕える聖騎士だった。
死者の安寧を司る神、テレージアを信仰する我が国の聖職者は、他国に比べてもかなり好戦的だと言われているのだけれど、その理由の一つがコレ。
すなわち、生者の理に反する存在「アンデッド」を滅する判断の速さだ!
「……?」
だけど、何も起こらない?
白く塗りつぶされていた視界が元に戻っても、私の意識は続いたままだ。
「何故……」
フェリクス様も心底意外だったらしく、ぼそりと何かを呟きながら驚きに目を丸くしていた。心なしか、長剣を握る手も震えている気がする。
いや、心臓辺りに直接伝わってくるから分かる。
彼の手は、あからさまに震えている。
……ならば!
「隙あり!」
私は貫かれた心臓を軸に勢い良く身を起こし、前方へ突撃する。
おかげで長剣がさらに深々と刺さるけど、多分この身体なら問題ないはず。
ていうか、心臓に長剣刺されて生きてるんだから、きっと大丈夫!
「くっ!?」
全身をフェリクス様の片手に当て込み、彼の手が長剣の柄から離れる。
それを視界の端で見届けたらすぐに走り出す。
さっきは何故か大丈夫だったけど、このまま彼の成すままにしていたら、そのうち本当に滅されてしまうかもしれない。
なんで目を覚ましたそばから目の前にいるんだとか、いくら約束したからって殺しに来ることないじゃないかとか、いろいろ言いたいことはあるけれど……
「私はまだ! ゾンビで居たいんです!!」
せっかく生き返れたっていうのに、もう一回死にたくなんてない!
そんな思いの丈をぶちまけつつ、私は後ろを振り返ることなく駆け続け、石造りの出口から差し込む、月明かりの向こう側へと駆け出した!