03 心臓をぶち抜く熱烈なハグ
「お嬢様! 会いたかったですよ!」
私が大きく両手を広げて見せると、お嬢様は度肝を抜かれたような表情を浮かべて一瞬ためらうような素振りを見せた――
――その一瞬を見逃さない。
大きく一歩地面を蹴って飛び出し、同時に半身を強く捻る。
突きの軌道に対して斜め前へ、お嬢様の懐に滑り込むように移動する。
その過程で、剣に沿うように脇を開く。
「失礼します!」
「っ!?」
直剣の鍔のすぐ根本。強く握られたお嬢様の右手を左の脇で挟み込み、同時に下からくぐらせた左手で剣底を握りに行く。
要するに私は、お嬢様の直剣を奪い取ろうとしているわけだ!
「小癪な!」
どうやら彼女も気が付いたらしく、彼女は両足を踏ん張って剣を引いた。
わきに抱えた鍔が後ろから引っ掛かって、私は大きく前に身体を引かれる。
ただでさえ前方へ移動中だった重心が揺らいで、前方へ倒れ込む姿勢になる。
――狙い通り、お嬢様を押し倒すような形になる。
でも、お嬢様に怪我をさせるわけにはいかないな。
「失礼!」
共に倒れ込むまでの一瞬で、なんとか身体を横倒しにしてお嬢様の身体を抱え込む。
どうやらお嬢様も下敷きになるわけにはいかないと思っていたのか、思っていたよりも抵抗なく、彼女の身体を抱え込むことができた。
ひとまず、抑え込みは成功……と、そう思うと同時に。
『カァンッ!!』
甲高く響く金属音。
違和感を覚えて見やってみれば、そこには落ちた直剣があった。
抱きつかれた衝撃で、お嬢様が剣を手放した?
いや、だとすれば何か妙だ。
そもそも、さっきの一手から、何かがおかしいような気がする。
この妙な感覚は一体……?
「エルカ」
低く響いたお嬢様の声。同時に半回転する身体。
彼女は私の身体を倒して、馬乗りの形になっていた。
その右手は私の鎖骨を押し込んで、その足は私の腰を挟み込んでいた。
要するに、私はお嬢様に完璧に組み伏せられていた。
「お嬢様……?」
そうだ、違和感の正体がようやくわかった。
どう考えても、身のこなしが良すぎるんだ。
私やフェリクス様に劣らない反射神経と判断力。
華奢でありながらも確かに力強い筋力。
おそらく彼女は、記憶の中のお嬢様とは比べ物にならないほどに――
「もう一度、死になさい」
――強い、と。
そう理解した瞬間、胸の中心に違和感を覚えた。
私の胸には、彼女の左拳と――その中に強く握りこまれた柄があった。
その柄の底にはテレージアの印紋が付いていて、先には鍔がついていた。
いつの間にか抜かれた短剣が、私の心臓を貫いていた。
「お……じょう、さ」
「黙りなさい。それ以上喋るな」
言いながら鎖骨から手を逸らして、私の背中を抱くお嬢様。
左手は短剣を握ったまま、お嬢様は私にハグをする。
耳元に響く優し気な声色の後に、大きく息を吸う音が響いて……
「火葬」
彼女はテレージアの奇跡を使った。
胸の中心が熱を帯びていく――。




