02 目覚まし代わりに胴体貫通
私の実家は、上場中の商家だった。
家業は極めて順調で、おかげでそこそこ裕福だったのだけれど、なかなか子宝に恵まれず、生まれたのは私、エルカという女ひとり。
それならせめて、最大限お金をかけて育てようと思ってくれたのか……あるいは適当な貴族の男の子とでもくっついてくれたら嬉しいな、なんて思っていたのか。
なんにせよ、両親は私を王立魔術学園に入学させてくれたのだけれど……両親譲りなイチゴ色の赤毛や、女性にしてはつりすぎな目つきのせいか、いい人は全くもって見つからず。
しょうがないから勉学に勤しみ続けた私は、そこで予想外の才能を発揮してしまったのだ。
その結果得たのが「王立魔術学園、魔術戦大会、黒魔術部門、上回生をなぎ直しての堂々一位」という肩書きである。
人に話せば自慢と思われるだろうけど、私はその後、この肩書きに随分と苦しめられることとなってしまった。
同年代に比べると、身長も高い方だったからか、大会前はまだ暖かった同回生の目が畏怖のものに変わってしまったり、入学一年目にしてこれだけやるなんて両親は隠れ魔女じゃないのかと疑いがかかったり、居心地のよかった学園が、針のむしろのように思えてしまって……
そんな中、私が飛びついたのが、学園充てに届いた公爵令嬢の護衛魔術師の募集だったわけだ。
細かい過程は省略するけど、その結果私は、丁度15歳の誕生日に護衛騎士のフェリクス様と出会うことになる。
まだ私より背が低くて、随分と険しい目つきをしていて、随分とげとげしい性格をしていた、フェリクス様と。
まあ……今のフェリクス様は険しい目つきでとげとげしいというより……
「きゃああああああっ!!」
瞳孔全力で見開いて、私を貫こうとしてるんだけどさ!
自慢の長剣をこちらへ突きこむフェリクス様と、思わず両手を空にやる私。
そのまま目をつむってしまったけれど、未だその時は訪れない。
「あ、ひょっとして冗談でした?」
なんて、言いながら目を開いたら、視界の端に剣のつばが見えた。
そう、私の心臓へ向け深々と突きこまれた長剣の、つばが。
「ギャー!」
「ホーリーライト」
悲鳴を上書きするようにフェリクス様が何か呟いた瞬間、目の前が強烈な光に包まれていく。
ホーリーライトって、確か幽霊を滅する魔術だったよね?
今の私が食らったら、結構まずいんじゃないのかな!?