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08 心に決めた人


 門番さんの話によれば、アンデッドが現れたのは壁の外を少し行った森の中であるらしい。少年はそこで野草を摘んでいたところを突然囲まれて、命からがら逃げ出してきたそうだ。

 野草摘みには彼一人で出向いていたらしく、彼以外に証人はいないわけだけど、少年の腕に残った噛み痕を見てしまうと、彼の証言を疑う気にはなれなかった。


「今は丁度、街の衛兵隊が出払っていたところでして……もしよければ聖騎士様のお力を借りられないかと……」


 たどたどしく言葉を紡ぎながらもその後すぐさま「もちろん、お礼は致しますので!」と続ける彼からは、随分と誠実な印象を受ける。

 今向かい合って話しているのは私の方だけれど、フェリクス様もそろそろ少年の治療を終えるころであるはずだ。正直、わざわざ頼まれなくたって、断る理由なんて無いように思えるけれど……


「断る」

「えっ、どうしてですか!?」


 予想と真逆の一言に、私は思わず声を上げてしまう。本来なら、門番さんが尋ねるべきことだったかもしれないけれど、それでも我慢はできなかった。


「今は休職中だと言っただろう。それに、正確な敵の数もわからないのに、一人で突っ込んでいくなんて無謀が過ぎる」

「……あなたなら、アンデッドごときに遅れをとったりしないはずでは?」


 記憶の中のフェリクスはただのアンデットが数十……いや、もしかすると数百体束になってもかなわない程の達人だった。目を覚ました直後の攻防から察するに、その腕が落ちているとは考えづらい。


「それでも、危険は冒せない」

「その決断が、誰かを危険にさらすとしても?」

「だとしても、俺には関係のないことだ」


 だから、私にはわかる。一連の彼の発言が、本来の意図を隠すための詭弁であるということが。今の彼は、なんらか別の理由をもって、アンデットの討伐をしぶっているということが。


「フェリクス様」


 だから、私は少し卑怯なやり方で彼に聞く。


「あなたは、誰の味方なんですか?」


 それは、十年前の護衛時代、戦う理由を見失いそうになった彼に、何度も何度も尋ねた質問。私の勘違いでなければ、彼の心構え、そう大きく変わってはいないはずだ。


「……俺は、心に決めた人の味方だ」


 この受け答えも、いつも通り。心の底から納得したわけではないだろうけど、ひとまず折れてはくれたらしい。


「だったら、悩む必要もないのでは?」


 私がそう続けると、彼は苦々しい表情を浮かべて目を逸らした。


「……俺が行っている間、あんたはどうするんだ」

「え、私ですか?」

「ああ。街に残すにしたって、丸腰で置いていくわけにもいかないだろ」

「あー……なるほど?」


 意外な理由だったけれど、聞いてみれば確かに納得だ。一応今の私はそれなりに令嬢らしい身なりを整えてしまっている上に、大した護衛もつけていない。

 そんな身なりの女性が一人で街中を出歩けばどうなるか、私だって長きにわたる護衛生活の中で、理解しなかったわけじゃない。


 でもそれなら、なおさら単純な話じゃないかな?


「でしたら門番さん、この辺りに衛兵団の詰所があるはずですよね?」

「は……はい。もちろんありますが……」

「待てエルカ。何を考えてる」


 フェリクス様も私の意図を察したらしく、治療を終えた少年の方から私の方へ詰め寄って来ている。彼も一応尋ねてはいるけれど、大体察しはついているんだろう。


「でしたら、いくらか武具を貸してください。私と彼で、アンデットたちを殲滅してきますので」


 簡単な話。私が一人でいるのが心配だっていうのなら、最初から二人でいればいいだけの話ですよね?

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