06 白昼堂々街ゆくゾンビ
さて、首が繋がったことで随分と動きやすくなったせいか、それとも単純に木立からの距離が近かったせいか、私たちはもうほんの少し歩いていけば街にたどり着くことができたわけですが。
「身分を証明できるものをお出しください」
木立を抜けた城壁のたもとで、私は冷や汗を流すような気分で、フェリクス様の隣に立ち尽くしていた。おそらく顔には張り付けたような表情を浮かべてられているはずだけど、正直気が気じゃなかった。
というのも、門番さんが随分と執拗に私の様子をジロジロと見てきていたのだ。いやそりゃあ、真っ白なドレスに青白くって生気のない肌とか、よくよく考えたらすごく目立つに決まっているのだけど……多分理由はそれだけじゃない。
おそらくここは、いわゆる貴族街の入り口というやつなのだけど、私の生まれ持った容姿は、とてもじゃないけど貴族的とは言えないものだったことを、たった今思い出してしまったのだ。
この国の貴族には白やベージュやブロンドといった、色素薄めの髪色が多いから、私みたいなイチゴ色の髪色じゃとても貴族には見えないし、何より私は目つきが悪い。
身長はもうフェリクス様の方が高いから、まだ誤魔化しが効くかもしれないけれど……貴族街の門番なんていう、審美眼に長けていそうな人からすると、きっと怪しくてしょうがないんじゃ……
「うちの連れになにか」
「失礼、なんでもありません」
私が一人で緊張していると、フェリクス様からのフォローが入った。門番さんに詰め寄ることで、さりげなく私への視線を遮ってくれたのだ。
「確認は済んだか?」
「はい。もう通って大丈夫ですよ」
その言葉で、私は思わず胸をなでおろす。その上ため息をついてしまったせいか、一瞬フェリクス様から正気を疑う目線を送られたきがするけど、あまり気にしない。
私たちは二人歩みを進めて、街の中へと入っていく。
「しかし、通れるものなんですね」
「俺の身分もあるからな、疑うのも無駄だと思ったんだろう」
「今は正真正銘の……聖騎士様でしたか?」
「今は休職中ではあるけど、そうだな」
聖騎士を休職って……この人もさらっとすごいことを言うな。
私も詳しいわけじゃないけど、聖騎士様の存在は我が国にとって誇りのようなものだったはずだ。
十年前から、世間の価値観が変わっていなければ、身分を証明するだけで人の信頼を勝ち取れるものなのかもしれない。
「さっきはありがとうございました」
「別にいいが……あんたも令嬢らしく振舞ってくれないか」
「あはは……」
相変わらず手厳しいけど、今回のことで改めてわかったことがある。それは、今のフェリクス様は随分と不器用であるけれど、決して悪い人ではないということ。
いや、再開時の第一印象を抜きにするなら、ひょっとして……一貫していい人でもあるのかな?