05 懐かしいやり取りをもう一度
フェリクス様の真意を知れたおかげか、単純に首が繋がったおかげか、私は随分と動き回りやすくなって、森の木立を歩いて行く。
ずっと気掛かりだったことに答えが出たら、なんだか開放感に満ちてしまって、私は自由に動けるようになった喜びのままに、ひたすら自由に動き回っている。
「見てくださいよこの辺りの植生! 黒魔術の触媒にぴったりな野草やらキノコやらがこんなに!」
「……まるでわからないけど」
「なんですって!? 前に散々説明したじゃないですか」
「前は前でも十年前だろ」
「はーっ、しょうがないですね、だったらもう一度説明しますよ、いいですか? 例えばこれは……」
フェリクス様が露骨に面倒くさそうな顔をしているのには気づいているけれど、話を止められないのをいいことに、私は一つ一つ説明を重ねていく。
黒魔術というものは、神様の奇跡と違っていちいち触媒を必要とするから、正しく魔法を用いるためには、多種多様な触媒の特性を正しく理解する必要があるのだ。
知識と技術さえあれば、誰にでも使えてしまう力だからこそ、正しい心構えも身につけてから、扱い始める必要がある。
「フェリクス様も、将来的に黒魔術に触れる機会があるかもしれないんですから、ちゃんと知っておかないとダメですよ?」
私がそう言って指を立てながら、教師ぶっているとフェリクス様が何とも言えない表情でこちらを見ていることに気が付いた。
「どうしました?」
私が一つ尋ねるとフェリクス様は何か言いかけて口をつぐむ。なんだろう、流石にうっとおしかっただろうか。
「いや、懐かしいなと、そう思っただけだ」
「ほう」
まあそりゃあ十年ぶりですからねと言いたいところだけど、実のところ、私にとってもこうしたやり取りはそこそこ懐かしいとこではあった。
なにせ、十年前のさらに前、私が自分に蘇生の秘術を施す直前は、いろいろと大変だったはずだからだ。
「フェリクス様にとってはなおさらでしょうけど、お嬢様の領地が危なくなって以来は、随分忙しくなりましたからねぇ」
「忙しいで済ませられるかは知らないけど……まあ、そうだな」
私はその後のことは全くもって知らないけれど、はっきり言って、フェリクス様がこうして生き残ってくれているというだけで、私にとっては嬉しいものだ。
幼なじみと言うには遅すぎたかもしれないけれど、あの頃の私とフェリクス様は、かけがえのない絆で結ばれていた。
護衛術士と護衛騎士、同じ主君を守る者として……もしかしたら、職務の幅を大きく超えた、魂の絆で。