03 首が痛そうなポーズ
フェリクス様の発言の真意を確かめるべきか否か。
私たちが張りつめた空気の中、随分と気まずい時間を過ごしそうになったところで、馬車が止まった。
「まずいな……もう着いたのか」
「着いたって、まだ壁の中にも入っていないのでは?」
自分の膝の上からでは満足に外の様子を伺えなかったけれど、都市の壁を超えれば、馬車には影が差すはずだし……それ以前に、周囲からは物音一つ聞こえてはこない。
ここが目的地だとするなら、随分と静まりきっているけれど……
「なんでもいい。首を戻せ」
「あっ、はい」
フェリクス様の言う通りだ。今御者さんに扉を開けられたら、自分が動かす馬車の中で殺人事件が繰り広げられたと思われてしまうことだろう。
この状態でも胴体さんは動かせるとわかったことだし、こう……頑張れば首を元の位置に戻せるはず!
「ええと……よいしょっ!」
うわあ、自分の指先の動きで視界が上下するって気持ち悪い。まあ泣き言を言っても仕方ないし、なるべく切り口に揃えるように両手で挟み込んで……!
「フェリクス様、エルカ様。ご要望通りの目的地に……どうされました?」
落ち着いた振る舞いの老紳士が、両手を首に添える私を不思議そうに眺めている。あまりじっと見られると、切り口があることがバレてしまいそうだけど……ええと……
「なんでもない。少しばかり寝違えただけだ」
「さようでございますか。失礼いたしました」
私がわたわたしている間に、フェリクス様からのフォローが光る。言いながら扉の前に立って視界を塞いでくれているあたり、意図して助けてくれたことに間違いなさそうだ。
言われてみれば、今の私の振る舞いは、首が痛そうなポーズに見えなくもないかもしれない。別にカッコつけてるわけじゃなくて、ただ首がちぎれてるだけなんだけどね……
「ここから先は徒歩で向かう。帰りも時間通りに頼んだ」
「承知いたしました」
フェリクス様はそう言って老紳士の気を逸らすと、私の体をさりげなくささえて、馬車から降りるのを手助けしてくれた。本当に、昨日までのことが嘘みたいに紳士的なふるまいだ。
「本当に、悪いものでも食べました?」
「……どうやらまだ寝ぼけているらしいな」