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02 セルフ膝枕


 まるでゆりかごのように心地よい揺れで目を覚ます。

 私は今、なにかふわふわとやわらかくもみっちりとした、頼りがいある何かの上で寝ているらしい。

 そう。それはまるで、お母さんの膝の上。幼少の頃、たまの休みを私に費やして、膝枕をしてくれた時のような心地よさだ。


 ひょっとして、私は今実際に膝枕をされているんだろうか?

 そう思ってゆっくり見上げると、確かに目の前には白いドレスのウエストラインが見える。


 一体どこの誰だろう……?

 そう思って限界まで見上げたら、そこにはだらんと脱力して壁にもたれる首無し死体があった。


「ギャー! ……って、これ私か」


 一瞬驚いてしまったけれど、よくよく考えたら見覚えのある光景だった。

 昨晩は白のワンピースだったけれど、同じ白なら対して印象も変わらない。

 いや、流石に綺麗なドレスだなーとは思うけど……どうせ自分の身体だし。


「騒がしいな……起こすなよ」

「あ、ごめんなさい……じゃない!」

「何が?」

「何がじゃないでしょう人の首をもいでおいて!」

「もとからもげかけだっただろ?」

「元から言えばあなたのせいですよ!」


 そうだそうだ、思い出した。

 私の身体を強く揺さぶったフェリクス様のせいで、せっかくマルレーンが縫ってくれた首がぽろっと落ちてしまったんだ。

 そのまま首だけで背後に落ちた私は脳天を地面にぶつけて気絶して……それからどうなったんだろう?


「どうした。突然首を傾げて」

「傾げる首ちょんぎれてるんですけど」

「まあそう怒るなよ頭を冷やせ」

「ひょっとしてわざと言ってます?」


 全くこの生意気な聖騎士様はほんとに昔と変わらないんだから……って、そんなことはどうでもよかった。

 まあさすがにフェリクス様の顔を見上げて気付いたけど、どうやらここは馬車の中みたいだ。


 おそらくは、お嬢様の屋敷の前に止まったものと同じ馬車。

 それなら出発する前にマルレーンに連絡して首を繋げてくれれば良かったのにと思わなくはないけど、そういうわけにもいかなかったのかな。


「あんたが突然気絶するから、御者から隠すのに苦労した」

「それは……お疲れ様です」


 ああ……やっぱり。首が捥げたって騒ぎながら出発を遅らせてもらうわけにもいきませんからね……


 まあ、いろいろとツッコミたいことはあるけれど、ひとまず今のフェリクス様は、私に協力的ではあるみたいだ。

 じゃなければ御者さん相手に正体を隠そうとはしてくれないだろうし……マルレーンの言っていた通り、私を客人くらいに扱ってはくれているんだろう。


「それで、あれからどのくらい経ったんです?」

「しばらく経つな。もう昼前だ」

「そんなに……?」


 気を失っていた時間の方にも驚きだけど、重要なのはそっちじゃない。

 というのも、お嬢様のお屋敷から王都までは、そう時間もかからないはずなのだ。わざわざ私を連れてお出掛けになるくらいだから、王都に用があると思っていたのだけど……


「お察しの通り、王都に向かってるわけじゃない」

「えっと……それはどうして?」

「俺がゾンビを王都に迎え入れると思うのか?」


 まあ、確かに。全くもってその通りというか、仮にも聖騎士ともあろうお方が、王都にゾンビを連れてきたら大問題だろう。


「安心しろ。隣町とはいえ、王都のすぐ近くだからな。必要なものはあらかた揃う」

「そういう心配はしていませんが……あ」


 なんて、素っ気ない返事をしてしまったところで、フェリクス様の意図に気が付いた。ひょっとしてフェリクス様は、私のために必要な生活品を、一緒に揃えようとしてくれているんだろうか?


「えっと……お気遣いありがとうございます」

「……ふん」


 フェリクス様はそう言って、目線を窓際の方へ逸らしてしまった。これも、いつか見た仕草だ。

 フェリクス様はずっと素直じゃなかったし、人前で本心をさらけ出してくれることなどほとんどなかった。

 どうやらそれは、幌ではなく窓がついているくらい高級な馬車に乗れるようになっても、変わらないらしい。

 体感時間ではそう経っていないはずなのに……なんだか、懐かしいな。


「……なんのつもりだ」

「え?」

「あんたのその手だ。動かせるなら先に言えよ」


 言われて気づいた。振り返った彼の顔のさらに上、フェリクス様のウルフカットの頂点には、あろうことか私の手のひらが添えられていた。首無し死体の右腕が、彼の頭をなでるようにポンと添えられていた。


「ご、ごめんなさい! つい昔の癖で身体が勝手に!」


 言ってから、また失言を重ねてしまったことに気付いた。

 精神が未熟な私と違って、彼はもうしっかり大人であるはずなのに。

 すっかり立派になった彼が、こんな扱いをされていいはずがないのに!


 ……なんて思って目を伏せてしまったけれど、数秒待っても、フェリクス様の怒鳴り声が馬車内に響くことはなかった。

 はっきり言って首を鷲掴みにされて窓から投げ出されてもおかしくない蛮行だったと思うけど……おかしいな。


「別に、人前でなければ……いい」

「……え?」


 な、なんですって……?


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