01 初対面&初対戦
私が初めてフェリクス様に会ったのは、丁度十五歳の誕生日のこと。
その前日、お父さんが顔を涙でくしゃくしゃにしながら、盛大すぎる送別会を開いてくれたもので、私はあまり満足に眠れていなかった。
その上、きちんと整備された道を、いたく上等な馬車に揺られてやってきたものだから、目的地に着いた直後の私はそれはもう幸せそうな表情で爆睡してしまっていたそうだ。
「――本当に、こんな奴が相方なのか?」
何やら人々が騒がしく話し合う声で目を覚ました私は、馬車の扉が開きっぱなしになっていることに気付いた。
それに気づいた使用人さんの一人に導かれて馬車を下りると、そこにはこれまた数人の使用人さんと……彼の姿があった。
「チッ……やっと起きたか」
ネイビーの目に薄ベージュの髪。
白を基調とした教会騎士の正装を、ずいぶんと背丈の低いその身に纏い、顔に不機嫌そうな表情を浮かべてこちらを見る人物。
その言葉にこそトゲがあったけど、声変わり前の彼の声色はずいぶんと中性的で、彼の髪型が少し女性っぽいウルフカットだったこともあって、私は思わず尋ねてしまったのだ。
「彼女が私の先輩ですか?」
「……は?」
私の質問は降車を手伝ってくれた使用人さんに向けてのものだったのだけれど、耳の良いフェリクス様はその失言をしっかり耳に入れてしまっていた。
まあ、もうお分かりだろうけど……
私は最初、フェリクス様のことを女の子だと思っていたんです。
「僕を……この僕のことを侮辱したな!?」
ええ、まあ、今思えば彼が怒るのも当然というか、いくら私がその僕のことを知らなかったとは言え、侮辱と受け取られてもしょうがないというか……
至極まっとうな怒りを受けて、動揺する私を余所目に彼は、その腰に付けた長剣を抜き放った。
「身の程を思い知れ!」
後で聞いたら、その時フェリクス様が携えていた長剣はいわゆる儀礼用というやつで、言ってしまえば刃を潰してあるレプリカみたいなものだったらしいのだけど……そんなこと、当時の私が知るわけもなく。
「ワールバインド!」
「なっ!?」
魔術戦大会直後の勘が抜けきっていなかった私は、ついうっかり一切の容赦なく指先から放った渦巻く闇の拘束魔法で彼の身体を縛り付け、その間に握りしめた右の拳で彼の顔面を横から貫いてしまったのです。
「ぎゅう」
と、本来人間の発する声ではない鳴き声を上げながら地面に沈むフェリクス様。
直後に私は自分がしでかしたことに気が付いたのだけど、どうにかして謝ろうにも彼の意識は私が刈り取ってしまったわけで。
結局ひどく動揺した私は、崩れ落ちた彼の身体を抱きかかえ、自分でもびっくりする場違いな行動をとってしまったのでした。
「ごめんなさい! 私、エルカって言うんです!」
それが、私とフェリクス様の初対面。付け加えるなら、これからも幾度となく行われていくことになる手合わせの……最初の一回目。
言ってしまえば、初対戦でもあったわけです。
……なんてね!