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4.孫賁との決闘

初平4年(193年)1月 揚州 呉郡 曲阿きょくあ


 親父の残党を勧誘しているうちに、従兄弟いとこの孫賁と勝負することになった。

 俺たちは人気のないところへ場所を移して、木剣を手に向かい合う。

 やがて立会人を務めることになった呉景が、声を上げる。


「もしも孫策が勝てば、孫賁は手勢と共に、揚州へ戻るということでいいな? しかし孫策が負けたなら、どうする?」

「その時は従兄にいさんの配下として、軍勢に参加しますよ」

「ふん、別に欲しくもないが、それでいいだろう」

「よかろう。それでは双方、正々堂々と戦うのだぞ。ただし命を奪うようなことはなしだ」


 その号令を機に、俺と孫賁は木剣を構えた。

 そして互いに隙をうかがいなから、ジリジリと位置を変える。

 やがて孫賁の誘いを感じたので、こちらから打って出た。


「やあっ!」

「ッ! ふん、思ったよりはやるじゃないか」


 孫賁は余裕で俺の剣を払いながら、逆に攻撃を仕掛けてくる。

 しかしこちらもそれを予測していたので、すばやく態勢を戻して打ち払う。

 その後も払っては打ち、払っては打ちしては、しばしにらみ合い、また打ち合うような応酬が続く。


 さすがは孫賁。

 親父の下で、実戦をくぐり抜けてきただけのことはある。

 その剣術は荒削りではあるが、実戦的で隙が少ない。


 本来の俺であれば、あっさりと誘いに引っかかり、負けていたかもしれないな。

 しかし激戦をくぐり抜けてきた俺にとっては、逆に相手を手玉に取ることも、さほど難しくはなかった。


「そこだっ!」

「ぐうっ」


 相手の態勢を崩してから、隙のできた胴体に剣を叩きこむと、孫賁が痛みにうめき声を上げる。


「勝負あり! 孫策の勝ちだ」

「ま、待ってくれ。今のは!」


 すかさず呉景が判定を下すと、孫賁が抗議する。

 しかし呉景は横に首を振りながら、それをたしなめた。


「油断したとでも言いたいのか? たとえそうであっても、判定はくつがえらんぞ」

「しかしいくらなんでも、おかしいじゃないか。策には実戦経験もないんだぞ。ちょっとした偶然の積み重ねで、こうなったんだ」

「お前は実戦の場でも、そんなことを言うのか? 敵がそれを認めるとは、思えんがな」

「ぐっ」


 なおも納得のいかなそうな孫賁に、俺はさりげなく声を掛けた。


「たしかに実戦でどうなったかは、分からないな。だけど俺も今まで、腕を磨いてきたんだ。その成果が出たってことで、納得してもらえないかな」

「くっ、よかろう。今日のところは、お前の勝ちにしておいてやる。また今度、相手をしろよ」

「ああ、こっちこそ実戦的な戦いってやつを、教えてほしいな。いずれにしろ親父の残党の説得には、協力してくれるんだよね?」

「ああ、どこまで説得できるかは分からんが、帰ったら話をしてやろう。そちらの方こそ、受け入れ体制を頼むぞ」

「うん、頼むよ、従兄にいさん」


 こうして孫賁との決闘に勝ち、彼が軍勢の説得に協力してくれることになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


初平4年(193年)3月 揚州 廬江郡 舒


 あれから2ヶ月も経たないうちに、孫賁は軍勢を連れて帰ってきた。


「お久しぶりですな、若」

「しばらく見ないうちに、ずいぶんと立派になって」

「そうそう、たくましくなった」

「孫堅さまの面影が強くなってきましたね」

「ありがとうございます、皆さん」


 まず俺に会いにきてくれたのは、古参の程普ていふ韓当かんとう徐琨じょこん孫河そんかたちだった。

 彼らは親父が徐州で官吏をやっていた頃からの配下で、俺とも面識がある。


 程普はちょっと理知的な男性で、韓当は優しそうなおじさんだ。

 そして徐琨や孫河は5つほど年上の、親戚の兄さんたちである。

 とはいえ、4人とも孫軍閥で活躍した武人であり、見た目以上の強さを持っている。

 この他にも黄蓋こうがい朱治しゅちなどの武将がいるが、彼らとはほとんど面識がないことになってるので、これから親交を深めることになる。


「それにしても皆さん、ずいぶんと思いきったようですね。手勢のほとんどが揚州へ来たとか」

「ああ、孫堅さまが亡くなって、なんとなく袁術についていただけだからな。それを若が、軍勢ごと雇ってくれるってんだから、乗らない手はないさ」

「雇うのは、俺じゃないですけどね。周家を始めとする、揚州豪族ですよ」

「だけどその窓口になれるぐらい、信用を得てるんだろう? まだ若いのに、てえしたもんだ」

「そうそう、孫堅さまにも見習ってほしかったぐらいだ。若は長生きしてくださいよ」

「アハハ、努力します」


 親父は一代で長沙太守にのし上がったほどの英傑だが、政治力はからきしだったし、慎重さにも欠けていた。

 その結果、襄陽で突出しすぎて討ち死にしたのを、彼らは残念に思っているのだろう。

 俺自身、数年後に刺客に暗殺されちまうんだから、偉そうなことは言えないがな。

 それを心に刻み込んでいると、程普が今後について問うてきた。


「ちなみに若は今後、揚州はどうなると思っているんで?」

「俺はこれから、大きく荒れると考えてます」

「ほう、何か兆候がありますか?」

「一番の懸念は、袁術ですね」

「そうなんで?!」


 驚く程普たちに、俺は続ける。


「袁術は最近、勝手に揚州刺史を立てましたよね。その関係で、彼は揚州に影響力を持ちつつある」

「ああ、陳瑀ちんうとかいうのが、寿春にいるって話ですね」

「そう、そして袁術は曹操と対立してるじゃないですか」

「へ~、よくご存知で。ちょうど俺たちが抜ける頃、戦の準備をしてましたよ。おかげで俺たちも引き止められたんだが、田舎に帰りたいってことで断ったんですわ」

「そうだろうね。それで問題は、袁術が曹操に勝てるかどうかだけど、これってけっこう難しいでしょ?」

「う~ん、よく分からないけど、曹操の軍は強いって話ですね」

「それに袁術さまは、決して戦に強い方じゃないからな」


 俺の意見に肯定的な彼らに、さらなる情報を追加する。


「おまけに荊州の劉表が、曹操に協力して袁術の補給を断つかもしれない。そうなると袁術がこちらへ拠点を移すことも、あるんじゃないですかね」

「なるほど。その可能性は高いな。それにしても若は、やけに事情に通じていますな」

「それはまあ、廬江周家が後ろにいるから」

「そういうことですか。しかしなんというか、それ以上に頼もしくなりましたな。とてもまだ18歳とは思えない」

「ハハハ、ありがとう」


 実際にはこの先のことを知ってるし、いろんな経験もあるのだから、頼もしく見えるのは当然だろう。

 この未来の記憶と、そして戦いの中で鍛えられた能力を武器に、俺は軍勢を掌握するつもりだ。

 それと並行して味方を増やしていけば、前生のようなことにはならないだろう。


 そのうえでどこまで行けるか、試してみたいものだ。

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