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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第3章 王朝交代編

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エピローグ

 久しぶりに会った周瑜から、天子が俺を陥れようとしていると聞かされた。


「……なんでだよ? なんで俺が疎まれるんだ? 俺はちゃんと仕事はこなしてるし、まつりごとに口を出してない。そんな俺が、なんでだよ?」


 そう問えば、周瑜はため息をついて応える。


「……そうだね。孫策は良くやっていると思うよ。だけど君の名声を、疎ましく思う者も多いんだ」

「陛下ですら、そうなのか?」

「最初はそうでなかったとしても、周りからいろいろ讒言ざんげんを受けたんだろうね。今では謀略を主導している」

「……そうか」


 それを聞いて、何もかも馬鹿馬鹿しくなってきた。

 今までいいように使われてきた挙句が、このざまだと思うと、いっそ笑えてすらくる。

 俺は誰にともなく、思いを口に出す。


「さて、こんな状況で仕事を続けるのも馬鹿らしいな。いっそ全てを返上して、故郷に帰るか」

「いや、それはお勧めできないな」


 真剣な顔で首を横に振る周瑜に、俺は目で問いかける。


「たとえ地位を返上しても、敵は君を許しはしないよ。それほどに君の名声は高く、その力は恐れられている。おそらく難癖をつけて、族滅に追い込もうと画策するだろうね」

「は~~~~っ…………やっぱそうだよな。見逃してくれるわけがないか。だとすれば、戦うしかない」

「そうだね。たぶん次に参内さんだいすれば、君は帰ってこれないと思うよ」

「マジかよ。そこまで準備が進んでるのか?……ならばどうするべき、か」


 俺は腕組みをして、しばし打開策を考える。

 周瑜ならすでに次の手も考えてあるだろうが、それに頼り切るのを彼は嫌う。

 そこで俺も真剣に考えてみた。


「故郷へ逃げるのは、あまり賢くないな。いくら味方が多いとはいえ、朝廷と戦争なんてできない。ならば……先手を取って実権を握るしかないな」


 そう結論づけると、周瑜がニッコリと微笑んだ。


「そうだ。僕たちが生き残るにはそれしかない。いつか話したようにね」

「あの時は、ほんの冗談のつもりだったんだがなぁ」


 俺が大将軍になった頃、この国を盗るにはどうするかという話をしたことがあった。

 ほんの冗談だと言いながら、意外に興が乗って、熱く話しこんだ覚えがある。

 その時にあれこれ検討しているので、大筋の目処はついていた。

 ていうかあれ、こんな事態を想定していたってことか。


「こうなるって、分かっていたのか?」

「あくまで想定のひとつさ。こうならなければいいと思っていた」

「それもそうだな……よし、さっそく動こう」

「ああ、伝令は準備してあるよ」

「さすがだな」


 こうして腹をくくった俺たちは、実権掌握のために動きだした。

 まずは程普や黄蓋など、腹心の配下を集め、手はずを整える。

 そして次の日には行動を起こした。


「な、なんだ、貴様ら。ここを伏家のお屋敷と知っての狼藉か?」

「当然だ。伏完ふくかんどのには大規模な収賄の疑いが掛かっている。おとなしく縛につけ」

「おのれ、下郎。皇后陛下のお父上に向かって、無礼であろうが!」

「やかましい! ちゃんと証拠は挙がってるんだよ」


 皇后の父親である伏完をはじめ、天子に讒言した重臣や将軍ら数人を、問答無用で捕縛した。

 本来なら完全な越権行為であるものの、朝廷の腐敗を看過できぬと言って押し通した。

 もちろん容疑者はその場で殺さず、厳しい取り調べを行っている。

 元々、周瑜がある程度は調べていたため、さらに証拠を上積みされ、言い逃れもできない状況だ。


 そんな捕物が一段落すると、俺は堂々と参内して、天子に奏上する。


「陛下のご宸襟しんきんを悩ませてしまい、誠に申し訳ありません。しかし昨今、一部の重臣の振る舞い、目に余るものがありますれば、これも陛下の御為と考え、あえて強行した次第。ぜひともご理解のほどを、お願いいたします」

「う、うむ。その方の忠義は疑いようがない。よくやってくれた」

「はは~」


 なんて茶番をこなしつつ天子を窺い見ると、その顔には怯えのようなものが見えた。

 おそらくあっさりと盤面をひっくり返されたことに、危機感を覚えているのだろう。

 俺だってここまで持ってくるのには、けっこう無茶をしている。


 しかし今まで築いてきた名声が、ここで大きく役立った。

 まず軍部は完全に俺の統制下に入っているし、文官にもそれなりに味方がいる。

 そのうえで敵対する重臣を真っ先に捕縛したため、その周辺もびびって動けなくなったのだ。


 考えてみると、こんなことができてしまう俺は、たしかに潜在的な脅威だったと言えるだろう。

 だがおとなしく故郷に帰ろうかと思っていた俺を、そうできなくさせたのは朝廷側だ。

 まさに寝た子を起こしたわけで、俺にとってはいい迷惑である。

 こうなったからには俺も腹をくくって、行くとこまで行くしかない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 敵対派閥を捕縛してからは、ジワジワと朝廷に圧力を掛け続けた。

 直接的にはしばしば参内し、朝廷の腐敗や失政を指摘して、改善を求めた。

 さらに間接的にも、地方で朝廷の不甲斐なさを喧伝する一方で、俺の美談を吹聴する。


 こうすることによって、一旦は盛り返した漢王朝の権威は、再び低迷している。

 そんなことを1年ほどやってから、俺たちは最後の仕上げに踏みこんだ。


「陛下。揚州に天子の気ありと、何人もの学者が申しております。これは遷都も検討するべきではないでしょうか」

「揚州、か」


 当代で有名な学者たちが、揚州に天子の気が見えると告げた。

 もちろんこれは俺たちのでっち上げだが、俺はそれをさも本当らしく、天子に奏上した。

 すると劉協陛下は、しばし黙りこんだかと思うと、観念したように口を開いた。


「この洛陽から揚州へ首都を移すのは、長安に移った時とは訳が違う。重大な決断が必要だ。しばし考えたいと思う」

「はは~、陛下の御意のままに」


 俺はおとなしく宮廷を辞したが、手応えは感じていた。

 天子はすでに、こちらの意図を把握しているはずだ。


 それから3日後、俺は再び招聘された。

 今回は重臣が居並ぶ謁見の間ではなく、数名のみが侍る一室であった。

 頭を下げてあいさつをすると、天子から声が掛かる。


「面をあげよ。今日はその方に大事な話がある」

「はは、それはなんでございましょうか?」

「先日の揚州への遷都の件だがな、ちんは行かぬ」

「それでは、予言は無視されるということでしょうか?」

「違う。呉侯たるそなたに、揚州を任せよう。今後は呉公を名乗ることを許す」

「そ、それは……真に光栄でございます。陛下の忠実なる下僕しもべとして、華南の地を繁栄させてみせましょう」

「うむ、よきにはからえ」


 その後も若干のやり取りはあったが、俺は呉公に任じられ、揚州を統治することが決まった。

 そして自宅へ帰ると、周瑜ら腹心と話をする。


「呉公への就任、おめでとうございます」

「うむ、これもお前たちの働きのおかげだ。感謝するぞ」

「とんでもございません。これは孫策さまが自身で勝ち取ったもの」

「さようです。孫策さまの今までの働きが認められたのです。我らも鼻が高いというもの」

「真にめでたいですな」


 周瑜、郭嘉、荀攸、賈詡がそれぞれに祝ってくれる。

 それもそのはずで、今回の流れは彼らの策謀によって作られたのだから。

 密かに宮中に協力者を増やし、少しずつ俺を呉公にすべしという雰囲気を作り出した。

 しかし俺たちの狙いはまだ先にある。


「呉公になることが目的じゃない。まずは華南を繁栄させて、俺たちに手を出せないようにしよう。そしてゆくゆくは」


 ゆくゆくは漢王朝を飲みこんでやる。

 そんな未来を想像して、俺たちは笑い合った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから数年後、俺と周瑜は揚州で酒を酌み交わしていた。


「ようやく天子が禅譲ぜんじょうを決意したようだな」

「ああ、いろいろと抵抗してたけど、北方の反乱が抑えこめなくなったからね」

「そりゃあ、誰かさんたちが煽ってるんだから、無理だろう」

「フフフ、悪い奴らがいるものだね」


 この頃の俺はすでに呉王となり、華南を繁栄させつつあった。

 大将軍になった頃から、いろいろと手を打っていたので、とにかく景気が良い。


 それに引き換え、天子がおわす華北には汚職や反乱が絶えず、董卓の暗殺後に戻ったかのようだった。

 もっとも、それは単純に天子が無能というわけでもなく、目の前の色男が裏で手を回し、煽っているからなのだが。

 さらにあの手この手で天子に圧力を掛け続けた結果、とうとう天子は禅譲を決意したというわけだ。

 その禅譲先は、もちろん俺である。


「これで俺が皇帝、か」

「ああ、呉王朝の初代皇帝 孫策陛下、さ」

「フフ、そしてお前が、相国しょうこくの周瑜閣下、か」

「「ハハハハハ」」


 ひとしきり笑い合うと、俺は周瑜に問いかける。


「これで俺たちの逆襲は、成ったのかな?」

「そうだね。中華の頂点に立ったなら、十分に成ったと言えるんじゃないかな」

「そうだな」


 そう言って酒を含みつつ、別の思いも抱いていた。

 こうして無二の相棒と一緒に居られることこそ、最大の幸福なのではないか、と。



 その後、孫策は初代皇帝となり、呉王朝300年の礎を築いた。

 それは奇しくも、周瑜が前生で没した210年の事であった。

 2人の英雄の逆襲は、ここに成ったのだ。


以上、”逆襲の孫策”、完結です。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

しかし読者さんによっては、”え、こんな形で終わっちゃうの?”、と思っているかもしれません。

実は最初は筆者も、皇帝擁立後の話をもっとしっかり書くつもりだったんです。

今回は瑞兆もなしで、禅譲させられないかな、とか考えたりして。

しかし3章を書いてるうちに、”あ、このまま欲張ると、エタるな”、と直感したんです。

それくらい筆が進まなくて、だけど完結はさせたいと呻吟していました。

それで中途半端に投げ出すよりはと思い、最後は駆け足で終わらせる形になった次第です。

まあ、筆者の実力はこんなもんだということで、ご容赦ください。


以降は長編は控え、短編か中編をたまに投稿していきたいと思っています。

よろしければ気にかけておいてください。


この後に人物紹介を載せて、結びとさせてもらいます。

また、本作を楽しんでいただけたなら、下の★でご評価などお願いします。

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三国志で孫策が一番好きなので、断金コンビの中華統一IFを楽しく拝読しました! 呉王以降の細かなエピソードも気になるので、幕間短編などを期待してしまいます。 他のIFものや転生ものもこれから拝読させてい…
[一言] エタっまま 新作書くひとも多い中 完結は見事です 今作が伸び悩んだのは 読者目線からすると 更新が不定期になり エタるのではないか?思った人がでたからかなぁ?と思います ただ読めるのにエ…
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