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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第3章 王朝交代編

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幕間:大人たちの支え

 儂の名は程普ていふ 徳謀とくぼう

 幽州生まれの武骨者よ。


 若い頃は故郷で役人をやっていたが、やがて徐州に流れ、そこで孫堅さまに出会った。

 孫堅さまは実に優れた武人で、彼についていけば、負けなどないと思えたほどだ。

 しかしそのような幻想は襄陽じょうようで破れ、儂は仕えるべき主を失った。

 その後は惰性で孫軍閥に属していたのだが、ある日、孫賁そんほんが意外な話を持ってきた。


「はぁ? 揚州で用心棒だと?」

「う、うむ。廬江周家が中心になって、自警団のようなものを作ろうとしているらしい。叔父御の葬儀で、それに誘われてな」

「孫賁、それでは分からんだろう。この話には孫策も関わっていてな――」


 呉景の補足を聞いて、ようやく合点がいった。

 なんと若が、揚州で軍閥を立ち上げようとしているらしい。

 その戦力でもって、揚州を乱す者に対するという。

 それには廬江周家も乗り気で、周辺の豪族にも協力を呼びかけるそうだ。


「とまあ、こんな状況だ。別に俺は今のまま、袁術さまの下で働いてもいいと思うがな」

「ふ~む、しかし我らには、揚州出身の者も多いからな。それなりに希望者もいるのではないか?」

「いや、まあ、そうかもしれんが……」


 孫賁はどうにも乗り気でないようだが、ならばなぜこのような話をするのか?

 こっそり呉景に聞いてみたら、若と立ち会って負けた条件なのだと言う。

 それはまあ、乗り気になれんわな。


 しかし我らにとってこの話は、渡りに舟かもしれんな。

 たしかに袁術はそれなりの勢力を誇っているが、どうにも好きになれん。

 このまま働くよりは、孫家の本拠である揚州へ移り、地盤を固めるのも悪くない。

 しかも廬江周家という名門が、後ろ盾になってくれるというのだ。

 この話に乗らん手はないだろう。


 儂は親しい者たちにそう説いて、揚州への移動を後押しした。

 おかげで多数の賛同者を得て、我らは揚州へやってきたのだ。


「お久しぶりですな、若」

「しばらく見ないうちに、ずいぶんと立派になって」

「そうそう、たくましくなった」

「孫堅さまの面影が強くなってきましたね」

「ありがとうございます、皆さん」


 久しぶりに見る若は、すっかり大人になっていた。

 まだ顔立ちに幼さは残るものの、歴戦の勇士のような風格を漂わせている。

 我らが居ない間に、一体なにがあったのやら。


 そしてその後の戦いで、若は見事にその武勇を証明してみせた。

 揚州では袁術を追い出し、徐州では曹操の横暴をくじいたのだ。

 陣頭に立って槍を振るうその姿は、まさに孫堅さまを彷彿とさせるものであったわ。


 う~む、失くしたと思った主は、ここに居たのか。

 いや、孫策さまはお父上すら成せなかったことを、やってみせるのではないか。

 そんな期待もあって、いつしか孫策さまは我が軍団の頭領として、認められるようになっていた。


 さらには討逆将軍に任命され、豫州へ遠征することとなる。

 ちょっといいように使われすぎと思わないでもないが、武名を上げるには打ってつけだ。

 中原に秩序を取り戻すためにも、ここは我らが踏ん張らねばな。


 そう思って仕事に励んでいたある日、隊長格の者が数名、呼び出された。


「みんな、わざわざ呼び出して悪いな。今日は折り入って話したいことがあるんだ」

「それは一体、なんですかな?」

「うん、それは今後の軍団のあり方についてだ」

「ほう、それはまた……」


 意外な話に面食らっていると、孫策さまは淡々と思いを語る。

 今の我らは、豫州勢も入れると2万以上の大軍であり、今後はさらに多くの軍勢を動かすようになる。

 そうなった場合にも、なるべく被害を少なく勝つため、いかに上手く部隊を動かすかが、今後の鍵になるとの話だった。


 それはたしかにそうであろうが、なぜ今、その話をするのであろうか?

 すると孫策さまはこう言った。


「俺にはちょっとした野望があるんだ。それはこの中原に覇を唱え、後世に名を残すってものだ。子供みたいだと思うかもしれないが、けっこうマジだ。そしてそのためには、中原で最強の軍勢を作る必要がある。みんなにはそれに協力して欲しいんだ」

「なんと……」

「それはまた……」


 それは夢物語のようではあるが、大抵の男なら一度は抱くものであろう。

 それをちょっと恥ずかしがりながらも告白し、我らに協力を求めている。

 そう思うと、ふつふつと湧き上がってくるものがあった。


「やりましょう、孫策さま。最強の軍団を作り上げ、そして中原に覇を唱えるのです。及ばずながら、協力させていただきましょう」

「おうっ、儂もやりますぞ!」

「お、俺もだ!」


 真っ先に協力を申し出ると、他の者どもも追従してきた。

 そのまま雰囲気が盛り上がり、孫策さまを中原の覇者に押し上げようと、誓いの盃を交わすまでになった。

 ククク、この年になって、このような気持ちになるとはな。

 人生とは不思議なものよ。



 それから我らは豫州を平定するかたわら、軍団の改革にも取り組んでいった。

 率いている部隊を訓練するだけでなく、戦場で起きたさまざまな事態の情報を共有し、それに対する方策を話し合う。

 その過程で孫策さまや周瑜どのから、しばしば鋭い指摘が出たのには驚いた。


 まだ成人したばかりのはずなのに、歴戦の猛者であるかのような意見が出てくる。

 これが英雄の器というものだろうか。

 しかしその才能には、どこか危ういものがある。


「のう、黄蓋。おぬしは孫策さまや周瑜どのを、どう見る?」

「ん? 何をだしぬけに」

「いいから、お前の考えを聞かせい」

「そうよのう……あの知識や胆力は、尋常なものではない。これから先が、実に楽しみだな」

「うむ、それよ」

「はあ? 何がそれだ?」


 間抜けな顔で聞き返す黄蓋に、儂の考えを聞かせる。


「彼らはまだ、若すぎるのだ。いかに優れた能力を持っていようとも、どうしても軽く見られる。もちろんこれから武功を積めば、それもなくなるだろう。しかしそうなるまでが大変なのだ」

「ふうむ……まあ、それはそうだろうが、だからといってなんなのだ? そこは我らが補ってやればいいだろうに」

「うむ、まさにそれよ。儂らのようなジジイが、率先して孫策さまに従い、足りないところを補ってやれば、軍団は円滑に回るであろう?」

「ジジイとは失礼な! 儂はまだ若いぞ!」

「何を言う。十分にジジイじゃ!」


 黄蓋がささいな事にこだわって脱線しそうになったところへ、意外な者から声が掛かった。


「そのお話、我らも加えてもらえぬか」

「ッ! これは張紘どの、張昭どの」


 それは孫軍閥の文官筆頭格である、張紘と張昭だった。

 2人は穏やかな笑顔で近寄り、話しかけてくる。


「程普どののご懸念、我らも気にかけていたのだ」

「さよう。孫将軍と周瑜どのは、まばゆいほどの才と魅力を持っておる。しかしそれだけに、彼らをねたみ、侮る者も出てこよう。そんなことのないよう、なんとかせねばと思っておった」

「おお、そうであったか。貴殿らの協力が得られれば、実に心強い。ぜひ共に孫策さまを支えていこうではないか」

「喜んで」

「うむ、協力しましょう」


 するとジジイと言われてへそを曲げていた黄蓋も、そこに加わる。


「まあ、貴殿らの言うことも、分からんではない。孫策さまや周瑜どのは、我らにとっては子供世代だからな。我らのような大人が支えることで、上手く回ることもあろうな」

「うむ、そうだ。我らのような年配者の支えも、彼らには必要だろう。皆で協力して、孫軍閥を盛り立てていこうではないか」

「「「おう」」」


 期せずして有力者の協力を得られることになった。

 我らが目を光らせていれば、より軍団の統制も利くだろう。

 いずれは中原最強の称号も、手に入るかもしれぬな。

 はたして若がどこまで昇るのか、先が楽しみだわい。

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