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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第3章 王朝交代編

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24.曹操の敗走

興平2年(195年)4月 兗州 済陰郡 定陶ていとう南方


 曹操軍への仕込みが終わったので、俺たちはいよいよ決戦を挑むことにした。


「今日こそ、曹操と決着をつける! 諸君らの奮闘に期待している!」

「「「おお~~っ!!!」」」


 出陣の軍鼓と銅鑼が響き渡り、3万を超える将兵が前進を始める。

 俺の率いる本隊もそれに続き、陣地には後方支援を担う隊だけが残った。

 まさに全力を賭した出撃だ。


 それを察した敵軍も、動きだす。

 本来なら陣地を盾に防戦するのが得策だが、あちらにはそうできない理由があった。


「例の仕込みは、ちゃんと機能してるようだな」

「ああ、ただでさえ士気が落ちてるし、援軍の当てもないからね。打って出るしかない」

「誘導されてると知りつつ、やらざるを得ないってか。さすがは周瑜、悪どいな」

「フフ、これが知略というものさ」


 今回の決戦に当たり、守りに入られては敵わないと、俺たちは謀略を仕掛けてきた。

 それは俺が陣頭に立つことを臭わせて、敵の奇襲を誘うというものだ。

 このためにしばしば俺は敵前に姿をさらし、上手くやれば首を取れるのではないかと思わせた。


 加えて”自軍に余裕がないため、俺が出ることで犠牲を抑えようとしている”、という噂も流してある。

 実際に俺の率いる部隊は最精鋭であり、しばしば敵に痛打を与えていた。

 そうして大将首がのこのこ出てくるならば、敵がそれを狙わないはずがない。


 まあ、言うのは簡単だが、敵に怪しまれずに追いこむのは、けっこう大変だったらしい。

 この辺は郭嘉と荀攸が、知恵を絞ってくれたとか。

 ほんと、味方でよかったぜ。



 こうして始まった決戦の序盤は、互いに様子見をしているせいか、わりと静かに推移していた

 しかしいよいよ俺が前線へ出張ると、一気に事態が動きだす。


「うわ、なんか敵も動きだしましたよ」

「そりゃそうだろ。そのための出陣だ」

「もう~、大将が自分を囮にするだなんて、やめてくださいよ!」

「そう言うなって。これが味方の損害を減らす、一番の方法なんだから」

「それを守る身にもなってくださいよ!」

「ハハハ、それは諦めろ」


 護衛の孫河がぶつぶつと愚痴をこぼしてくる。

 俺の出陣を知った敵軍が、次々と押し寄せ、圧力が高まっているからだ。

 まだ危険を覚えるほどではないが、後方に居るのとは段違いだ。


 そんな戦場に身を置きながら、俺は悠然と指揮を執っていた。

 厳密にいうと、そう見せかけているだけだが。

 今回の決戦については、周瑜たちと十分に話し合っていた。


 しかし戦場では何があるか分からないし、相手はあの曹操なのだ。

 さすがの俺も、これだけ大規模な戦で陣頭に立った経験はない。

 しかも敵を引きつけるため、わざと前に出てるんだから、怖くないと言えば嘘になる。


 しかしそうでありながらも、俺はなんとなく楽観していた。

 それは思うに、やはり一度死んだからだろう。

 前生ではうかつな行動をして命を失い、周りにも迷惑を掛けた。


 俺と周瑜はそれを振り返り、何が悪かったのか、どうすれば良かったのかを話し合った。

 そんな中で出たひとつの答えは、もっと上手く人を使うことだった。

 今生で改めて思ったが、俺の周りには有能な人材がたくさんいる。


 しかし人には向き不向きというものがあり、どんな仕事を任せるかで結果は大きく異なってくる。

 つまり俺はもっと配下を知り、そして配下に俺の考えを伝える必要があるのだ。

 これは実践してみると、なかなかに困難だった。


 それでも折につけて実践していたおかげで、少しは軍団に浸透したようだ。

 今では程普、黄蓋を筆頭に、韓当や朱治、太史慈、凌操、周泰、蒋欽といった将たちも、自分が何をすべきかを考え、行動している。

 おかげで味方の連携は良くなり、わりと安心して見ていられるようになってきた。

 まあ、孫河にはちょっと苦労を掛けてるけどな。



 その後、俺の部隊は最前線に留まり、グイグイと敵を圧迫していった。

 その先頭に立つのは許褚で、怪力を遺憾なく発揮している。

 一見すると敵はなんとか耐えているだけで、勝利は間近に見えるほどだ。


「……なんか調子いいけど、前に出過ぎじゃないですか? 俺たち」

「ああ、見事なもんだな。苦戦してるように見えて、要所はしっかり押さえてる。おかげで見事に釣り出された」

「何、落ち着いてるんですか! 後退しなきゃ」

「大丈夫だって。こっちだって、ある程度は承知のうえだ」

「それにしたって……」


 孫河が心配するように、俺たちは前に出すぎていた。

 これを狙ってやったとすれば、曹操という奴は本当に凄い男だ。

 そんな状況に俺は、ヒリヒリするような緊張を感じていた。

 そしてとうとう、状況が動く。


「左翼後方より、敵騎兵隊!」

「敵軍中央でにわかに攻勢!」

「その他の敵部隊も、我が隊を囲むように動いています!」


 立て続けの報告に、孫河が慌てる。


「うわ、孫策さま。早く逃げないと」

「大丈夫だって。そろそろ指示が……ほら来た」


 彼を宥めていると、後方から軍鼓と銅鑼の音が響いてきた。

 それは独特の符丁を含んだもので、周瑜から各隊の指揮官への指示だった。

 あらかじめ指揮官には、いくつかの想定を伝えてあって、状況に応じてそれを実行するわけだ。


「それ、周囲も動きだしたぞ。俺たちはなんとしても耐えるんだ」

「ううっ、俺たちが一番、きつくないっすか」


 孫河は愚痴をこぼしつつも、しっかりと配下を指揮し、俺の周りの守りを固めている。

 俺はそれを横目に見ながら、弓矢で味方を援護する。

 最近は俺の弓の腕が知れ渡り、敵の指揮官もうかつに姿を見せなくなった。


 以前はちょくちょく、指揮官を討ち取れてたんだがな。

 それでも遠くから射たれるかもしれないと思わせるだけで、敵の動きを牽制できる。

 なにしろ俺の弓は特別製で、通常の5割増しの飛距離があるからな。


 おまけに狙いもわりと正確だ。

 おっと、許褚が狙われてるな。

 ちょっと牽制っと。


 そうこうしているうちに、また軍鼓と銅鑼で指示が出された。

 どうやら敵による騎兵の奇襲や、包囲網はつぶせたようだ。


「よし、孫河。前に出るぞ」

「うえっ、マジですか?」

「マジだよ」


 俺は弓を従者に預け、代わりに槍を受け取る。

 それをしごきながら、悠々と前進すると、周囲の護衛たちも付き従った。

 本来ならこんなに危ないこと、するべきじゃないんだが、ここが無理のしどころだ。

 俺は許褚の横に付けると、槍を振るいながら話しかけた。


「このまま一気に突き崩すぞ。疲れてるだろうが、踏んばれ」

「……うす」


 俺の激励が効いたのか、許褚がまた暴れはじめる。

 その勢いは留まるところを知らず、やがて曹操軍の敗走が始まった。

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