表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第3章 王朝交代編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/43

幕間: 許褚は忠臣の夢を見る

 俺の名は許褚きょちょ 仲康ちゅうこう

 豫州沛国はしょう出身の武骨者だ。


 俺は子供の頃から体が大きく、力も強かった。

 おかげでケンカを売られることも多く、それをあしらう術も自然と上手くなる。

 本当はケンカなんて、好きじゃないのにな。


 それでも昔は、まだマシな方だった。

 それが董卓とかいう奴が朝廷を牛耳り、さらに反乱が起きて、大きく変わっちまったんだ。

 それまでも官吏や豪族の横暴はあったが、反乱後はひどくなる一方だ。

 俺たち農民にとっては、それこそ命に関わるほどに。


 結局、故郷に留まっていることもできなくなり、一族そろって流民りゅうみんになった。

 あれから汝南の方へ流れたが、どこも生活は厳しい。

 それでもなんとか糊口ここうをしのいでるうちに、ある廃砦にたどり着いた。


「おい、この砦、意外と使えそうだぞ」

「ああ、ちょっと手を入れれば、雨風はしのげそうだな」

「助かった。ここでしばらく休もうじゃないか」


 そこは打ち捨てられて久しい砦だったが、意外と中は使えた。

 それでみんなで力を合わせて修理し、なんとか住めるようにしたのだ。

 おかげでそれまでより数段マシな生活ができるようになり、皆が喜んでいた。


 それからは近くで畑仕事をしたり、時には町へ出稼ぎに出たりして、食料を手に入れた。

 さすがに贅沢はできないが、それほど悪くない生活だ。


 そうして生活が安定しはじめると、新たな流民も入ってくる。

 砦の広さにはまだゆとりがあったから、いつの間にか人が入り込み、増えていた。

 当然、中には荒っぽいのもいて、その相手をするのは俺だ。


 誰よりも強いから、自然と荒事は俺に回ってくる。

 おかげでみんなに一目置かれるようになったのは、不幸中の幸いか。

 俺は自警団の長みたいな立場になって、日々を送っていた。


 しかし安寧の日々は、そう長くは続かない。


「西の方に、山賊が住み着いたらしいぞ」

「本当かよ! ここもヤバいんじゃねえか」

「ああ、狙われる可能性は高いだろう」

「どうすんだよ? 他に行くところなんてねえぞ」


 俺よりも年上の男たちが、みっともなくうろたえている。

 やがて一族を束ねる長老が、俺に話を振ってきた。


「許褚よ。山賊に襲われて、ここを守れるか?」

「……分からねえ。まずは相手を調べてから、対応策を練りたい」

「うむ、そうだな。まずは相手を知らんとな。その辺の対応、お前に任せてよいか」

「……分かった」


 正直、俺には荷が重いと思ったが、他に適任者もいない。

 俺は仲間の力も借りて情報を集め、対応策を練った。

 どうやら山賊は50人を超えるらしい。

 対するこちらは100人ちょっと居るが、戦える者はその半分もいない。

 相手は荒事に慣れてるだろうから、どう見ても分が悪い。


 なら砦を捨てて逃げるか?

 いや、ここ以上のねぐらなんて、簡単に見つかるはずがない。

 仮に見つかっても、使えるまでにするのが大変だ。

 やはりここを強化して、迎え撃つしかないな。


「勝算はあるのか?」

「……分からねえ。だけど、どの道、行き場なんてねえんだ。それなら死にもの狂いで、抗ってみたい」

「…………う~む、分かった。皆と相談してみよう」


 長老と一緒に皆を説得してみると、意外にも賛成する者が多かった。

 今までさんざん辛い目にあってきた者にとって、ここは安住の地なのだ。

 どうせよそへ行ったって、ろくな事がないのは分かってる。

 よし、ここでみんなを守るんだ。


 それから大急ぎで砦を強化して、武器も用意した。

 それはお世辞にも上等なものではなかったが、今の俺たちにできる精一杯だ。

 後は気合いでなんとかするしかない。


 それからほどなくして、山賊たちがやってきた。

 その数はやはり50人程度だが、大人の男ばかりで、戦力差は歴然である。

 だけどやるしかないんだ。


 山賊はまず降伏を促してきたものの、無視してたら攻めかかってきた。

 奴らは俺たちを舐めきってるようで、正面から迫ってくる。

 それをある程度ひきつけてから、石を投げつけた。


 弓矢なんてほとんどないから、石だけはしこたま溜めこんだ。

 味方の男衆たちが、それを思いきり投げつける。

 すると俺の投げた石が、たまたま敵のいい所に当たった。


 そいつが血を流してぶっ倒れると、さすがに山賊どももひるむ。

 それからは敵も盾で防いだりして、慎重に攻めるようになった。

 俺たちも死にもの狂いで、奴らと戦った。


 あれからどれぐらいの時間が、経っただろうか。

 味方は疲労困憊だったが、敵もかなりの損害を出してるようだ。

 そんな状況に危機感を覚えたのか、敵が休戦を提案してきた。


 奴らが手を引く代わりに、家畜を出せと言う。

 俺たちは話し合いの結果、牛を1頭わたすことにした。

 牛は惜しいが、これ以上の戦いはどう見ても無理だ。


 そこで俺は牛をかついで持っていくと、大きな音を立てて置いてやる。

 どうやら俺の怪力にびびったようで、山賊どもは逃げるように引き上げた。

 それを見届けた仲間たちから、歓声が上がった。


 俺も安心して砦に戻ると、みんながやけに俺を持ち上げてくる。

 生き残れたのは俺のおかげだから、これから頭領になってくれとまで言われた。

 俺はそんなの嫌だったんだが、どうしてもと言われて困る。

 結局、仕事の指図なんかは、今までどおり長老がやることで収まった。

 どうしてこうなった?



 それからしばらくは平和な日々を送っていたのだが、また武装集団が現れた。

 その人数は少なく、何か話がしたいと言ってるらしい。

 みんな怖がって外に出ないので、俺が相手をする。


「……俺が、ここの責任者ということになってる。何か用か?」

「俺の名は孫策。これでもれっきとした将軍だ」


 そう言って彼は印綬を見せてきたが、その真偽なんか分かりはしない。

 しかもそいつは、立派な身なりをしているものの、どう見ても俺より若かった。

 こんなヤツが将軍とか、あり得るのか?


 怪しみながら話していると、彼は俺を欲しいと言った。

 そこでここの人間を守らなければならんと言えば、都市で受け入れてくれるよう、話を付けるとまで言うのだ。


「??…………なぜ、そこまでしてくれる?」

「言ったとおりさ。あんたみたいな勇士が、味方に欲しいんだ」

「……みんなと相談させてくれ。皆がそれを望むなら、俺は従軍してもいい」

「そうか。なら3日以内に、鮦陽ちゅうようへ来てくれ。俺もそれなりに忙しい身なんでな」

「……分かった」


 結局、仲間たちは都市への移住を選んだ。

 そりゃあ、こんなボロ砦に住むよりは、よほどいいからな。

 代わりに俺は、孫軍団で働くことになった。


 頑丈な鎧や棍棒を支給され、今後は切り込み隊を率いるように言われる。

 この俺が、官軍の隊長だって?

 はっ、笑っちまうな。


 だけど孫策さまは、俺のことを認めてくれる。

 ”お前は俺の樊噲はんかい(劉邦を守った豪傑)になるのかもな”、なんて嬉しいことを言うんだぜ。

 ひょっとして俺は、すげえ人に仕えてるのかもな。



 それから俺は、孫軍団の一員として各地を転戦した。

 汝南が片付いたと思ったら潁川へ行き、その次はとうとう兗州だ。

 詳しいことは分からないが、曹操と袁紹って奴らが、中原の平和を乱してるらしい。


 孫策さまは奴らを討伐して、中原に秩序をもたらしたいそうだ。

 そんなら俺は、その矛となろう。

 そして孫策さまを、最強の将軍に押し上げるんだ。


 そう意気込んで兗州へ侵攻し、俺もいよいよ前線へ出た。

 さすが、孫策さまの采配は見事なもので、我が隊はグングンと前線を押し上げていく。

 しかしちょっと調子に乗って、前に出過ぎたらしい。

 弱い所を敵の騎兵にかき回されてしまう。

 慌てて応援に駆けつけると、場違いな声が掛けられる。


「フハハッ、敵にもなかなか剛の者がいるようだな。俺の名は呂布 奉先。貴様の名は?!」

「……許褚 仲康」

「許褚か。気に入った。俺と勝負しろ!」


 騎兵として暴れまわっていた呂布が、馬を降りて勝負を挑んできた。

 俺なら馬を殺せるから、それが利口だろう。

 しかしまるで遊びのように勝負を挑んでくるヤツには、何か得体の知れないものを感じる。

 実際のところ、呂布の槍さばきは見事というほかなく、俺もしばしば冷や汗をかかされた。

 それでも必死に食らいついていると、やがて敵の後方に動きがあった。


「おっと、部隊の再編が終わったようだな。残念ながら今日はここまでだ。またいずれな」

「……おい、待て!」


 呂布は来た時同様、馬にまたがると、あっさりと後退してしまった。

 そのいさぎよさときたら、あっけに取られるほどだ。

 結局、その日は痛み分けのような状況で、戦闘は終了した。


 そして1人で今日の戦いを振り返っていると、孫策さまに話しかけられた。


「今日は呂布と戦っていたが、どんな感触だった?」

「……すげえ強かったです。何度もヤバい思いをしました」

「そうか。しかしお前は互角に渡り合い、ほぼ無傷だ。それは大したものだと思うぞ」

「ありがとうございます。あの呂布ってのは、けっこう有名なんですか?」

「ああ、あの董卓にもその腕を買われ、護衛をしていたような男だ。腕っぷしの強さは、半端じゃない」

「……そんなに凄いヤツだったんですね。よく生き残れたな」

「お前だってひけを取ってなかったさ。もっと自信を持て」

「うす」


 孫策さまに慰められて、ちょっと恥ずかしい反面、すげえ嬉しかった。

 やっぱり誰かに認めてもらうってのは、いいもんだ。

 ましてや俺みたいな貧民に、目を掛けてくれるんだからな。

 叶うなら、孫策さまがどこまで行けるか、見てみてえもんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備ファンの方は、こちらもどうぞ。

逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~

白帝城で果てた劉備が蘇り、新たな歴史を作るお話です。

さらに現代人が孫策に転生したお話はこちら。

それゆけ、孫策クン! ~転生者がぬりかえる三国志世界~

孫策が現代知識チートを使い、新たな歴史を作ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ