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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第3章 王朝交代編

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22.暴れん坊、登場

興平2年(195年)3月 兗州 済陰郡 定陶ていとう南方


 定陶の南で、曹操との大規模な会戦が始まった。

 敵の兵力は味方を上回るが、それが精兵ばかりとは思えない。

 後半からは俺も前線に出ることで、攻勢をかけた。


「ふんっ、おい、前衛に伝令だ。ちょっと前に出過ぎだから、勢いを抑えるように言え」

「はっ」


 敵の部隊の入れ替えにつけ込んで、我が軍は優勢に戦っていた。

 しかし許褚の立つ前衛が、前に出過ぎな気がした。

 すかさず伝令を出したが、敵の動きの方が早かった。


「騎兵部隊が接近しています」

「強弩隊と長矛隊を前へ出せ! 迎撃態勢を取るんだ」

「はっ」


 迎撃の指示を出しながら目を凝らすと、たしかに数百騎の集団が近づいていた。

 おそらく弓騎兵だろうが、勢いが強い。

 警戒を強めていると、敵が矢を放ってきた。


「盾を掲げろ!」

「ぐあっ、やられた!」

「くそったれが!」


 敵の騎兵はなかなかに精強らしく、味方の被害を増やしていた。

 しかし深追いはせず、通り過ぎるものだと思っていたら、奴らはグングンと迫ってきたのだ。


「どりゃあっ!」

「ぐはあっ」

「やべえぞ!」


 先頭に立つ騎兵の槍によって、前衛の一部がなぎ払われる。

 許褚の突出で薄くなった部分が、狙われたようだ。

 とんでもない豪傑が、敵にも居るらしい。


 本来、騎兵ってのは弓による攻撃が主で、馬上で武器を振るうなんてのはあまりない。

 下手にそんなことをすれば、均衡を失って馬から落ちるからな。

 たまに幽州突騎兵みたいな話も聞くが、あれは非常に特殊な例だ。


 幼い頃から乗馬に慣れ親しんだ、遊牧民族でもなければ出来はしない。

 実際、敵騎兵の大部分は、遊牧民だろう。

 しかしあの豪傑だけは、普通の漢人に見えた。

 なんて名の男だろうか?


 その後も暴れる敵騎兵のおかげで、前線がかき回される。

 それをなんとかしようと、許褚が駆けつけた。


「うお~~っ!」

「おおっと」


 さすがに許褚の攻撃には脅威を覚えたのか、敵の豪傑がたたらを踏んで下がる。

 しかしちゃんと馬を制御していて、隙は少なかった。

 その証拠に男は、余裕ありげに声を掛けたのだ。


「フハハッ、敵にもなかなか剛の者がいるようだな。俺の名は呂布りょふ 奉先ほうせん。貴様の名は?!」

「……許褚 仲康」

「許褚か。気に入った。俺と勝負しろ!」


 そう言って呂布が馬を降りる。

 さすがに許褚を相手に、馬上では不利と見たか。


 それにしても、あいつが呂布か。

 たしか董卓の配下だったにもかかわらず、主を暗殺した男だ。

 その前に仕えていた丁原ていげんも、やはり裏切って殺したんじゃなかったかな。


 一時は王允おういんと共に我が世の春を謳歌したが、すぐに董卓軍の残党に攻められ、都落ちしたはずだ。

 それがいつの間にか、曹操の配下になっていたとはな。

 こいつは厄介だ。


 そんな思いを巡らしているうちに、呂布と許褚の立ち会いが始まった。


「それっ!」

「ぐっ」

「おお、やるな!」

「……」


 楽しげに槍を振るう呂布に対し、許褚は寡黙に応じている。

 しかし決して許褚が負けているわけでもなく、よく対抗していた。

 対する呂布の体格は、上背は許褚と同等。


 ただし横幅の広い許褚に比べれば、華奢きゃしゃに見える。

 しかしそれは比較対象が許褚だからであって、一般的な基準でいえば立派な体格だ。

 そんな男が振るう槍は力強く、かつ鋭い。

 さすが、董卓に武力を買われた男といったところか。


 その後も呂布と許褚の一騎打ちは続いたが、やがて敵軍に動きがあった。

 盛大に軍鼓と銅鑼が打ち鳴らされると、新たな部隊が押し出してきたのだ。


「おっと、部隊の再編が終わったようだな。残念ながら今日はここまでだ。またいずれな」

「……おい、待て!」


 あっけにとられる許褚を残し、呂布は馬にまたがると、さっさと退散してしまう。

 その様はひどく楽しげであり、実際に許褚との戦闘を楽しんだのだろう。

 ひどく不謹慎な態度だが、奴にはそれがよく似合っている気もする。


 その後、我が軍も陣形を整えて迎え撃ったが、呂布はもう出てこなかった。

 おかげで彼我の損害はほぼ同程度で、今日は痛み分けといったところか。



 その晩の軍議で、今日の戦闘について話し合った。


「今日ぶつかってみた感想は?」

「そうだね。新兵が多いのは事実だけど、それを上手く補っている感じかな。熟練兵や歴戦の指揮官を、上手く配置しているようだ」

「俺もそう思います。決して弱兵と侮れるものではないですね」


 周瑜と郭嘉がそう言えば、周りもうなずいている。

 俺もそれを肯定しつつ、印象的なことを語った。


「たしかに敵には、有能な将が多いようだ。特に騎兵を率いていた、呂布ってヤツは凄かったな」

「呂布 奉先か。あの裏切り者が、ここで出てくるとはね。しかし裏切りを繰り返しながらも使われるからには、それなりのものがあるんだろうね」

「ああ。でも今日見た感じだと、なんか浮いてたな。味方が苦戦した時に助っ人に出て、すぐに呼び戻されてた。あんまり信用されてないんじゃねえか?」


 するといつもは無口な許褚が口を挟む。


「……俺も、そう思いました。たしかに強いんだけど、あまり怖くない」

「なるほど……ちょっと調べてみよう。攻略の役に立つかもしれない」

「ああ、頼む。皆も感じているとおり、曹操は侮れない敵だ。役に立つと思うことがあれば、どんどん進言してくれ」

「「「はっ」」」


 前生より弱体化しているとはいえ、中原の覇者となった男だ。

 できることはなんでもやって、勝負をつけてやる。

 その先には、どんな景色が待っているか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の呂布はそんなに悪くない気がしましたが、勘違いですかね? [一言] とりま、更新があって安心しました。楽しみにしています!
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