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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中原南部平定編
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20.豫州平定

興平元年(194年)10月 豫州 潁川郡 陽翟ようてき


 郭嘉と話してから5日後に、彼は仕官してきた。

 ”お前らだけじゃあ、危なっかしいからな。手伝ってやる”、なんて言い訳を吐いていたが、それも俺たちの予想どおりだ。

 俺は内心で笑いをこらえながら、郭嘉を受け入れた。


 そんなこともありながら、潁川郡の鎮圧に励んでいると、周瑜がまた新たな人材を連れてきた。


荀攸じゅんゆう 公達こうたつと申します」

「おお! 貴殿があの高名な荀攸どのですか。私が孫策 伯符です」


 なんと曹操に仕えるはずだった名士 荀攸を、周瑜が連れてきたのだ。

 それからしばらく話をしたが、噂どおりに優秀な人物のようだ。

 俺は迷わず、彼を口説き落としに掛かる。


「荀攸どののような賢人が幕下に加わってくれれば、中原の平定も早まるでしょう。ぜひ私を、助けていただけませんか」

「……分かりました。この荀攸じゅんゆう 公達こうたつ、非才の身ではありますが、将軍の助けとなりましょう」

「ありがとうございます!」


 荀攸は思いのほか、あっさりと仕官を受けてくれた。

 それにしても、曹操の軍師がまた1人、手に入るとはな。

 こうなったのもやはり、周瑜の活動の賜物である。


 そもそも荀攸は洛陽の朝廷に出仕するほどの、有能な文官だった。

 しかし董卓が朝廷を牛耳るようになってから、彼は反乱計画に加担する。

 それが露見して投獄されてしまったが、やがて董卓が暗殺され、再び日の目を見ることができた。


 その後、益州の蜀郡太守に任命され、現地へ赴こうとしたものの、賊徒の跳梁によって阻まれる。

 これは五斗米道という宗教団体が暴れてるらしいが、噂では益州牧の劉焉りゅうえんも関わってるって話だ。

 それでしばらく荊州に留まっていた荀攸だが、故郷の潁川郡が平和になりつつあると聞いた。


 そこで久しぶりに故郷へ戻ってきたところを、周瑜が俺の名前で召し出したって寸法だ。

 あらかじめ馬日磾や朝廷には筋を通していたのもあって、荀攸はすんなりと応じてくれたらしい。

 さすがは周瑜、抜け目がない。


 ちなみに陳羣ちんぐんという文官も探してたんだが、すでに豫州刺史の郭貢かくこうに仕官していたらしい。

 ちょっと残念だが、曹操に仕えないならそれでいい。


 いずれにしろ俺は、前生の中原の覇者に仕えた俊才を、2人も手に入れたことになる。

 俺が中原を制する可能性も、これで高まったと言えるんじゃないかな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


興平元年(194年)11月 豫州 沛国 しょう


 そんな事をしているうちに、潁川郡の平定も完了し、今後のことを話し合うため、沛国は譙で会議が開かれた。

 主催は馬日磾で、幽州や青州、徐州、豫州の関係者も出席している。


「豫州の平定、ご苦労であった。特に孫策の活躍には、目覚ましいものがあったようだな」

「いえ、これも郭貢さまの支援よろしきを得て」

「いやいや、孫将軍の助力がなければ、とてもこうはいかなかったであろう。さすがは孫堅どのの後継者よ」

「ありがとうございます」


 その場には豫州刺史の郭貢も出席しており、俺を持ち上げてくる。

 たしかに俺たちの活躍あっての豫州平定だが、その裏にはまだまだ俺たちをこき使おうとの意図が、透けて見える。

 まあ、ここで引き返すわけにもいかないので、適当に話を合わせておいた。


 やがて話は曹操の事に移る。


「それで曹操の話だが、あ奴は新兵を増やし、兗州の守りを固めているらしい。その総兵力は、3万とも4万とも言われる」

「「「むうう……」」」


 その報告にほとんどの出席者が驚き、唸り声をあげている。

 俺は周瑜から聞いてたから、さほど驚きはないがな。

 しかし曹操を攻める困難さは分かるので、味方について訊ねる。


「それに対し、味方はどの程度、動員できるのでしょうか?」

「まず幽州と青州は、冀州の袁紹に圧力を掛けるだけで精一杯だ。そうなると徐州と豫州からそれぞれ1万。そして貴殿の1万2千が現状、頼れる戦力になる」

「やはりその程度ですか」


 徐州や豫州は戦乱が収まったばかりなうえ、今年はイナゴの大発生などで不作な所が多かった。

 それこそ一部では、飢饉が起きるほどの状況だ。

 防衛戦ならまだしも、遠征に出せるのは1万がいいところだろう。


 揚州はいくらかマシとはいえ、中原に比べて人口は少ない。

 だから1万2千も遠征させてる時点で、大盤振る舞いと言って良い。

 俺たちの奮戦の報奨として、それなりの職貢しょくこう(中央への税金)が免除されているから、なんとか続いているのが実情だ。


并州へいしゅう司隷しれいからは、援軍を出せないのでしょうか?」

「どちらも賊徒や軍閥が割拠する状況で、まとまりに欠ける。とても援軍など、望めんであろうな」

「やはり、そうですか」


 以前の豫州よりマシとはいえ、并州や司隷にも黄巾の残党や黒山賊などが、跳梁跋扈している。

 そんな所から援軍が来ると思うのは、無い物ねだりというものだろう。

 かといって、豫州のように平定するには時間が掛かる。


「そうなると、攻めるそぶりだけ見せて、恭順を迫るのが妥当でしょうか」

「うむ、それもひとつの手ではある」


 郭貢が妥協案を唱えれば、馬日磾は苦い顔をしながらも否定しない。

 しかしそれは、新たな火種を育てるだけでしかない。


「仮に恭順してきたとしても、奴らは権力を手放さないでしょう。それでは問題を先送りするだけになるのでは?」

「儂もそれを危惧しておる。しかし下手に攻めこんでも、勝ちを得ることは難しい……ここは奴らの手足を縛るだけで、良しとすべきかもしれん」


 たしかに現状の味方勢力では、確実に勝てるとは言えない。

 これが前生なら、曹操は配下と呂布の反乱に遭い、兗州のほとんどを失陥している頃だ。

 しかし今生では、徐州から逃げ帰った曹操は手堅く州内をまとめ、防衛体制を構築してしまった。


 周辺の圧力によってまとまったのもあるが、徐州で大虐殺をやらなかった事も大きいだろう。

 前生の曹操は、大虐殺で悪名を高めていた。

 それによって離反した配下も、けっこういたんじゃないかと思う。


 よかれと思って阻止した虐殺だが、それがこういう形で返ってくるとは、ままならないものである。

 しかし徐州で勝ったおかげで、味方が増えた一面もある。

 今はできることをやろう。


「馬日磾さま。ここは妥協せず、強気で行くべきと考えます。まず徐州と豫州の兵を我が軍と合わせ、中央突破を図りましょう。それと並行して、徐州、豫州、そして司隷の河内郡かだいぐんにも兵を集め、兗州との境界に布陣させます。遠征は難しくとも、敵兵を引きつけるぐらいのことはできるでしょう。その間に私が主力を率い、曹操を打ち破ってみせます」


 ひと息にそう言ってのけると、出席者たちが息を飲んで見守る。

 馬日磾も最初、あっけに取られていたが、やがて口を開いた。


「たしかに州境に布陣するぐらいはできるが、本当に曹操を打ち破れるのか? 徐州で敗れたとはいえ、曹操の兵は精強であるぞ」

「我が孫軍団はそれに劣りませんし、揚州兵と豫州兵の練度も上がっています。新兵で補った曹操軍に、ひけはとらないでしょう」

「う~む、それはそうかもしれんが……」


 なおも迷う馬日磾に、今度は周瑜が話しかける。


「孫将軍の提案、十分に検討に値すると愚考します。さらに細部を詰めれば、曹操を打ち倒す可能性は高いかと。円滑に豫州を平定してみせた将軍の実力は、もっと評価されてよいと存じます」

「むうう、周瑜がそこまで言うのか…………ならば儂を説得できるだけの作戦案を、持ってくるがよい。それが儂の意に沿うのであれば、この馬日磾の名で許可しよう」

「ありがとうございます」


 さすがは周瑜、絶妙な支援だったな。

 俺の提案にはまだまだ穴が多いだろうが、彼ならちゃんと仕上げてくれる。

 それを持っていけば、馬日磾も拒否できないだろう。


 たしかに曹操は強敵だが、今は兗州をまとめているに過ぎない。

 早いうちに叩いて、牙を折っておくべきだ。

 それができれば、また夢に一歩、近づけるだろう。

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