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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中原南部平定編
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幕間: 袁術は戻れない

 儂の名は袁術えんじゅつ 公路こうろ

 四世三公で名高い、汝南袁家の正嫡である。


 若い頃は侠気おとこぎに富む男として、名を知られたものよ。

 やがて孝廉に推薦され、郎中から虎賁中郎将こほんちゅうろうじょうにまで出世した。

 まあ、袁家の正嫡であるからには、こんなもので終わらないがな。


 そう思っていたが、霊帝の崩御から洛陽がきな臭くなってきた。

 大将軍 何進かしんと宦官の権力争いから、将軍の暗殺へ。

 さらに宦官を粛清しているうちに、なんと董卓が洛陽に乗りこんできた。


 ヤツは天子の身柄を押さえただけでなく、短期で武力を掌握し、権力基盤を固めてしまった。

 とはいえ董卓も、我ら名士の協力がなければ何もできぬ。

 我らは協力するふりをして、多くの名士を大守や刺史の地位に就けていった。


 儂も後将軍こうしょうぐんに任命されたと思ったら、董卓は天子の廃位を提案してきおった。

 この動きに命の危険を感じた儂は、洛陽を脱出して南陽へ逃れる。

 そしてしばらく様子をうかがっているうちに、董卓に対して反抗の火の手が上がったのだ。

 兗州の陳留郡を皮切りに、中原の各地で勇士が決起し、袁紹がその旗頭になったという。


 ちょうどこの頃、長沙大守の孫堅が南陽太守を始末してくれたので、儂もその勢力を吸収して反旗を掲げた。

 一時は董卓を追い詰めるまでいったものの、決定打には至らず、事態は膠着する。

 さらに董卓が長安へ逃げると、連合は瓦解してしまう体たらくよ。

 まったく、袁紹のヤツもだらしない。


 その後、南陽で勢力を拡大しようと動いていたのだが、急に孫堅が死んでしまった。

 中原の混乱はこれからという時に、間が悪い。

 これからどうするべきか……


 仕方ないので公孫瓚と協力して、袁紹と曹操を攻めることにした。

 そこで陳留郡へ兵を繰り出し、曹操に決戦を挑んだものの、あえなく敗退してしまう。

 おのれ曹操、あの戦狂いめ。


 しかも荊州の劉表が、撤退経路を脅かしてきた。

 おかげで南陽へ戻ることもできず、豫州へ逃げるしかなくなった。

 くそっ、忌々しい奴らめ。


 故郷の汝陽へ戻ることも考えたが、豫州はどうにも治安が悪い。

 それに洛陽で我が一族が処刑されてから、実家とはギクシャクしていた。

 本来は儂が袁家の統領となるべきなのに、それを認めようとしない連中がいるからな。

 曹操の追撃も怖いので、儂は揚州の寿春まで移動する。


 ここには揚州刺史として、陳瑀ちんうの奴を送りこんであったからな。

 ワハハ、我ながら先見の明があるわい。

 ところがその寿春で、思わぬ仕打ちを受けた。


「は? 入城を断るだと?」

「はい、城内の治安を守るため、兵を入れることは許可できないと」

「あの野郎! 誰のおかげで刺史になれたと思っているのだ。構わん。押し入れ」

「はっ、ただちに」


 なんと陳瑀の奴が、俺の入城を拒否しおったのだ。

 今までの恩を忘れ、なんと恥知らずな。

 頭にきたので、全力で攻め入ったらヤツめ、城を捨てて逃げおったわ。

 まったく、それぐらいなら最初から従っておればよいものを。


 何はともあれ、これで新たな拠点は手に入れた。

 しばらくは周辺の豪族どもを懐柔して、勢力の拡大に努めねばな。

 な~に、我が汝南袁家の威光をもってすれば、たやすいことよ。



 それからしばらくすると、朝廷から使者が来るとの知らせがあった。

 なにやら馬日磾ばじつていという者が、朝廷への協力を頼みにくるらしい。

 今の無力な朝廷に協力しても、いいことはあまりないだろう。

 せいぜい儂のいいように、使ってやるか。


「馬日磾 翁叔である。本日は朝廷の使者として、勅命を伝えにまいった」

「袁術 公路です。太傅どのじきじきにお越しいただくとは、恐悦至極」


 とうとうやってきた馬日磾には、適当に下手に出ておく。

 そうして油断したところで、


「ところで馬日磾さま。使者の証である節というものを、もう一度よく見せてはもらえませぬでしょうか。今回の土産話として、子供に教えてやりたいのです」

「ふ~む……まあよかろう。おい、節をこれへ」

「はっ」


 そのまま節を奪ってやろうと思っていたら、部外者には触れさせられぬときた。

 おのれ、この袁術を愚弄するか!


「おい、そいつを捕らえろ」


 もう味方のふりをするのも馬鹿らしいので、馬日磾らを捕らえようと思ったのだが、そうはいかなかった。

 なぜかヤツの従者どもが、メチャクチャ強いのだ。

 これではこちらがやられてしまう。


「ひえっ、馬日磾の護衛がこんなに強いなど、聞いておらんぞ! 援軍を呼んでくるまで、奴らを抑えておけ」


 儂だけ部屋を抜け出して、応援を呼びにいく。

 しかし人数を集めているうちに、奴らは脱出してしまった。

 なんと手際のいいことよ。

 だが逃がさん!


 しかし勢いこんで追ったはいいものの、思わぬ軍勢が現れた。


「馬日磾さまをお守りしろ。掛かれ~っ!」

「「「おお~~~~っ!」」」


 なぜじゃ、味方のはずの孫賁が、なぜ儂に刃向かう?

 敵を少勢と侮っていた儂らは押し負け、馬日磾を逃してしまった。

 おのれ孫賁、あの裏切り者めが!



 その後、警戒を強めておると、嫌な報せが舞いこんでくる。


「袁術さま! 馬日磾が我らを朝敵と糾弾し、周辺豪族に討伐への協力を要請しているようです!」

「なんだと! あやつだけではそんなことはできまい。誰が協力しているのか?」

「どうやら廬江周家と、太守の陸康が中心となっている模様です。その影響力は侮れません」

「くっ……馬日磾の主張は言いがかりだと言って、こちらも豪族を取り込むのだ」

「はい、了解しました」


 おのれ馬日磾め。

 それに廬江周家と陸康も忌々しい。

 しかし所詮、あ奴らは平時の官吏に過ぎん。

 この乱世においては、恐れるに足りんわ。



 そう思っていたのだが、どうやら敵にも切れ者がいるらしい。

 最初、廬江との境界で小競り合いが起きたと思ったら、一部の部隊が帰還しないことがあった。

 さらには砦のひとつが陥落し、焼き払われたというではないか。


 この頃になると、孫堅の残党が中心となって蠢動していることが判明してきた。

 しかもその中心となっているのは、孫堅の息子だと言うではないか。

 孫堅には良くしてやったのに、それを仇で返すとは、なんという恩知らず。


 しかしこのままではまずい。

 馬日磾は兵が集まれば、いずれこの寿春へ攻めてくるだろう。

 それに対し、我が軍は兵の集まりが悪い。

 こうなれば奥の手を切らざるを得ないか。


「大至急、汝南袁家に使いを送れ。兵を集めるための資金と、口添えを要請する。なに、儂が力を失って困るのは、奴らも同じであろう」

「はっ、ただちに」


 あまり借りは作りたくないが、儂の力が無くなれば、奴らも汝南の統治に苦労するはず。

 ここは無理をしてでも、協力させねば。

 なに、ここを乗り切れば、なんとでもなるわ。



 その後、なんとか2万もの兵力をかき集め、孫軍閥と決戦に臨んだ。

 しかしこちらの半分程度の敵に、我が軍は翻弄される。

 さらに李豊りほうを討ち取られて士気が崩壊し、一気に潰走する始末よ。

 おのれ孫堅の残党どもめ。


 しかし悲劇は、それだけで終わらない。

 城内に潜入していた密偵の手引きで、敵部隊の侵入を許してしまう。

 あまつさえ城門を開放され、敵が続々となだれ込んできた。


「くそっ、撤退するぞ」

「しかし袁術さま。一体どこへ?」

「それは豫州へ入ってから考える。なに、なんとでもなるさ」

「……はい、そうですね」


 そうは言ったものの、今回の借りを返す目処もないのに、実家に顔は出せん。

 はたしてどこへ行くべきか?

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