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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中原南部平定編
18/43

14.徐州防衛戦(3)

初平4年(193年)8月 徐州 彭城国 彭城ほうじょう


 俺たちは彭城の東側で、別働隊の曹仁軍を打ち破った。

 前生で陶謙が大敗していたのは、おそらく曹仁に側背を攻撃されたからであろう。

 その要因を取り除いてしまえば、あとは曹操の本隊を打ち破るのみだ。


 俺たちは陶謙に連絡を送りつつ、部隊を再編して一時の休息を取った。

 やがて陶謙から、曹操の背後を脅かすよう要請が来たので、再び動きはじめる。


「全軍出発!」

「「「おお~~っ!」」」


 俺たちは彭城の東側から、回りこむように北上する。

 曹操の本隊は現在、北側から彭城の城を攻め立てていた。

 しかし双方の兵力はともに2万ほどであり、曹操軍は城攻めに難儀している。


 それを打開するための別働隊だったのだろうが、それは俺たちが蹴散らした。

 さらに曹操の背後から、堂々と姿を見せてやったのだ。


「て、敵襲~!」

「なんで背後から?!」

「陣形を立て直せ~!」


 当然、敵軍には大きな動揺が走る。

 曹操は必死に立て直そうとしていたが、陶謙も黙って見ているはずがない。

 やがて城内から陶謙の兵が押し出してくると、敵軍の士気は崩壊した。


「勝った、かな?」

「ああ、ほぼ決まりだね」


 目に入る範囲のほとんどで、敵兵が敗走しつつあった。

 俺と周瑜は、高台からそれを眺めていた。

 配下の部隊は順次、追撃に移っているが、俺たちは高みの見物だ。


「これで前生のような悲劇は、回避できそうだな」

「ああ、少なくともここより南側での虐殺は、防げただろうね」


 前生で曹操は、徐州で大虐殺を行ったそうだ。

 もちろん、この彭城に至るまでに、多少の被害は出ているだろうが、それ以上の虐殺は防いだ。

 いくら父親を殺されたからって、曹操の私憤で民が殺されていい道理がない。

 無事に勝利を収めただけでなく、虐殺を防いだであろうことに、俺たちは大きな満足感を得ていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


初平4年(193年)8月 徐州 彭城国 彭城ほうじょう


 曹操軍を撃退して1週間もすると、彭城の周辺も落ち着いてきた。


 ちなみに戦前に捕縛を勧めた窄融さくゆうだが、広陵で捕まったらしい。

 ヤツは案の定、逃げ出そうとしていたが、陶謙の指示が間に合った。

 油断していた窄融は、一悶着ありながらも捕縛され、裁きを待つ身だそうだ。

 これで揚州に、余計な騒乱を起こさずにすむだろう。


 その後、公孫瓚こうそんさんからの援軍も到着したため、馬日磾ばじつていの主宰で会議が開かれた。


「青州を預かる田楷でんかいと申します」

「平原国の相 劉備りゅうび 玄徳げんとくです」

「うむ、太傅の馬日磾である。遠路はるばる、ご苦労であった」


 彼らは陶謙の要請に応じ、公孫瓚が寄こしてくれた援軍である。

 特に劉備といえば、前生では徐州牧になっていた男だ。

 その後、呂布に城を取られて放浪したりするが、十年ほど後にはちゃっかり荊州に勢力を築いたらしい。

 決して侮れない相手である。


 そんな彼らと馬日磾、陶謙を交え、俺たちは今後の方針を話し合った。


「知ってのとおり、曹操の侵攻は跳ねのけることができた。それにはここにいる孫策、周瑜らの揚州勢の活躍が大きい」

「ほう、まだ若そうだが……」

「揚州には優秀な若者がいるんですな」


 紹介にあわせて目礼すれば、田楷や劉備が興味深そうな視線を送ってくる。

 あくまで興味の範囲で、特に嫌なものは感じない。


 次に今回の当事者だった陶謙が、状況を語りはじめた。


「揚州軍のおかげで曹操の軍は潰走し、大きな被害を出した。それこそ泗水しすいに、多数の死体が浮かぶほどな。これほどの被害を受ければ、曹操もしばらくは外征できんだろう」

「うむ、しかしそうは言っても、やはり袁紹と曹操は侮れん。そこで我らが力を合わせ、袁曹連合への圧力を強めたいと考えておる」


 その馬日磾の言葉に、田楷が問いを返す。


「我らと言いますが、どこまでの勢力が味方となるのでしょうか? たしか華南では、袁術どのを巻きこむ予定であったと聞きますが」

「うむ、あいにくと袁術とは決裂した。彼奴きゃつめ、不届きにも儂に牙をむいてきたので、寿春から叩き出してやったわ。その戦いでもこの孫策や周瑜が、役立ってくれたのだがな」

「ほう、それは大したものですな」


 袁術について、吐き捨てるように語った馬日磾は、さらに先を続ける。


「袁術めは豫州へ逃げこんだが、勢力を回復できておらんようだ。以前は実家の威光と大兵力でもって、汝南に大きな影響力を持っていたようだがな。多くの配下と兵力を失ったため、そっぽを向かれたらしい。しかし豫州全体で見れば、いまだ黄巾の残党などがのさばり、混沌とした状況だ。刺史の郭貢かくこうも、州都のしょう周辺しか掌握できておらぬようだな」

「ふむ、そうすると馬日磾さまは、郭貢どのと協力して豫州を制圧するのですな。そして我ら公孫閥こうそんばつには、北から袁紹へ圧力を掛けろと、そういうことでしょうか?」

「そのとおりだ。揚州からの主力軍が豫州へ遠征するので、陶謙にはその援助と曹操への圧力を頼みたい」

「ご配慮、ありがとうございます。本来なら我らこそが主力になるべきところですが、曹操の侵略による被害が大きく、しばらくは難しいでしょう」

「うむ、しばらくは損害の回復に努め、いざという時には頼むぞ」

「は、必ずや」


 馬日磾の配慮に、陶謙が感謝の意を示す。

 実際問題、徐州は曹操にかき回されたばかりのため、その復旧が急務である。

 それを汲んだ俺たちが、事前に馬日磾に申し入れてあったため、驚きはない。


 すると劉備がここで、俺たちに言及してきた。


「なるほど。それにしても馬日磾さまは、ずいぶんとそちらの若者を信用しているようですね」

「うむ、彼らにはずいぶんと助けられておるからな。ちなみに孫策はさきの長沙太守 孫堅の嫡男であるし、周瑜は廬江周家の俊英よ。若いからといって、侮るでないぞ」

「うへえ、そいつはおみそれしやした」


 そう言って劉備は、おとなしく引き下がった。

 別に俺たちに含むところがあるでもなく、単純な興味だったようだ。


 この劉備という男、背は高いがひょろっとしていて、あまり強そうには見えない。

 顔立ちはそこそこに整っているが、耳たぶが大きくて愛嬌があるといった印象だ。

 それでいて妙に存在感があり、放っておけないような雰囲気がある。

 おかげで関羽や張飛といった豪傑が集まってきて、戦力的には侮れない勢力になるんだよな。

 周瑜の死後はどうなったか知らないが、案外しぶとく生き残ったんじゃないかね。


 そんなことを考えていると、馬日磾が田楷に訊ねる。


「ところで、公孫瓚どのと劉虞りゅうぐさまの間で、緊張が高まっていると聞くが、それは本当か?」

「へ、へい……たしかに公孫瓚さまと劉虞さまは、仲良くやれてるとは言えませんね……最近は公孫瓚さまが、劉虞さまに敵対するような砦を造ったのもあって、緊張が高まっていると聞きます」

「う~む、やはりそうであったか。我らが一致協力して、中原に秩序をもたらそうというこの時に、それではまずい」


 田楷の言葉を聞き、馬日磾は深刻そうな顔をする。

 実はこの話、俺たちが馬日磾に相談したものだ。


 前生ではこの冬、幽州牧の劉虞と公孫瓚が激突し、劉虞が負けて処刑されていた。

 本来は味方同士であるはずの2人が争えば、朝廷側にとっては痛手である。


 しかも劉虞は皇族であり、民衆にも人気があった

 その劉虞を処刑したもんだから、公孫瓚の評判はガタ落ちになる。

 そんな未来を避けるべく、それとなく馬日磾に対処を要請したのだ。


 やがて馬日磾が、思い切ったように言う。


「どうやら事態がこじれているようなので、儂が説得に赴こうと思う。ついては取り次ぎを頼めるか?」

「はい、それはお任せください」

「うむ、頼むぞ」


 馬日磾が動いてくれるなら、なんとかなるだろう。

 早く幽州が落ち着いてくれると、いいんだがな。

 その間に俺たちは、豫州の攻略を進めよう。

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