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逆襲の孫策 ~断金コンビが築く呉王朝~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中原南部平定編
17/43

13.徐州防衛戦(2)

初平4年(193年)8月 徐州 彭城国 彭城ほうじょう


 俺たちは彭城の側背を守るべく、曹仁の軍と殴り合っていた。

 味方は敵の半分程度の兵数ながら、よくその攻撃を防ぎ、騎兵攻撃にも対応している。

 やがて両軍に疲れの色が見えはじめた頃、後方から軍鼓と銅鑼の音がもたさらされた。

 その調子は今までにないものであり、俺が待ち望んでいたものでもある。


「よし、合図だ。行くぞ、お前ら」

「はい、孫策さま」

「ああ、腕が鳴るぜ」

「へへっ、いよいよっすね」


 後方からの合図を聞くやいなや、配下たちも動いていた。

 まず俺の直卒部隊をたばねる孫河、徐琨、呂範が、乱れた隊列を立て直す。

 さらには孫賁や呉景、程普や黄蓋たちの率いる部隊も、敵と戦いながら陣形を整えていた。


 すると俺たちの眼前が開けてゆき、敵への道筋が見える。

 さっきまでただの乱戦にしか見えなかった戦場に、束の間の秩序がもたらされた。


「さすがは周瑜。見事な手際だな」

「まったくっすね。事前に話を聞いてても、ちょっと信じられないっす」


 そう、今の展開は、周瑜が事前に描いていた筋書きのひとつなのだ。

 それは敵軍が数の優位を頼りに、途中で戦力の入れ替えを行うというものだ。

 俺たちだって敵の全軍と殴り合いたくないから、戦闘正面はある程度、限定している。


 おかげで敵には遊軍が生じてるわけで、ならばどこかで入れ替えようと考えるだろう。

 そんな敵の采配を周瑜は読み、その動きにつけ込む策を立てた。

 もちろん、そうならなかった場合の対応も、彼の頭の中にはある。


 周瑜いわく、”何十通りもの展開を想定し、それに備えるのが将たる者の務めだからね” だそうだ。

 俺には到底、無理だがな~。

 しかし彼は本当に頭のいい人間で、幼い頃から兵法書にも親しんでいた。


 そんな男が俺の死後も、10年ほど兵を率いていたのだ。

 聞けば荊州では、自軍の数倍におよぶ曹操軍を、撃退したこともあるらしい。

 あの天才的な頭脳に、そんな経験までもが加わったのだ。

 ちょっとやそっとの優勢で、彼に対抗できるわけがない。


 しかし周瑜いわく、これは俺がいるからこそできる策でもあるらしい。


「孫策。君の武力や統率力、そしてその場の状況を見抜く直感力は、僕にはないものだ。だからこそ、こんな無茶な作戦も立てられる。前生でつかみそこねた栄光を、2人で目指そうじゃないか」


 面と向かってそう言われた時は、こいつどうしたんだと思ったね。

 前はそんなこと言う男じゃ、なかったのに。

 だけど冗談めかして言う彼の目を見て、なんとなく分かった。


 そこにはたっぷりと地獄を見てきた男の陰と、狂おしいほどの欲望が垣間見えたからだ。

 おそらく俺が先に死んでから、改めてその価値を痛感したんだろう。

 たしかに俺は、周瑜にないものを持ってるからな。


 前生ではそれが上手いこと噛み合って、江東に覇を唱えることができたんだ。

 そこで俺がおっ死んじまったもんだから、残された者たちの落胆と苦労は、相当なものだったろう。

 そんな記憶があるからこそ、彼は積極的に俺を焚きつけるんじゃなかろうか。


 そしてそれは俺にとっても、望むところだった。


「ようし野郎ども! 敵を追い落とすぞ」

「「「おう!!!」」」


 俺の掛け声に応じて、200人ほどの部隊が動きだす。

 最も若い呂範が先頭に立ち、孫河と徐琨が俺の横を固めていた。

 少数ながら統制の取れた動きで、俺たちは敵を攻めたてる。


 俺も一緒になって愛槍を振り、敵の一角に圧力を掛けていた。

 すると形勢悪しと見て焦ったのか、敵将の1人が一騎打ちを挑んでくる。


「我が名は楽進がくしん 文謙ぶんけん。怖くなければ、一騎打ちで勝負してやろう」

「おっしゃ、その勝負、この孫策 伯符が受けた。死んでも恨むんじゃねえぞ!」

「ほざけ、こわっぱ!」


 俺たちは槍を構え、大声をあげながら敵を威嚇する。

 やがて緊張が頂点まで高まると、俺たちは激突した。


「どおりゃあっ!」

「なんの!」

「こしゃくなガキめっ!」

「やかましいわ、ジジイ!」


 そう言いながら振り回す互いの槍が、ガツンガツンと音を立てる。

 楽進もなかなかの腕前のようで、上手いことこちらの攻撃をしのいでいた。

 その顔には、まだまだ余裕の笑みが見えたが、時間が経つにつれてそれも薄れる。


「くっ、思った以上にやるな」

「へっ、この程度でもうお疲れか?」

「おのれ、まだまだ!」


 しかし、一度かたむいた天秤は、もう元には戻らなかった。

 少し強めに叩きつけた攻撃に、敵の姿勢が崩れる。

 俺はその隙を見逃さず、楽進の腹部に槍を突きいれた。


「ぐはあっ……ふ、不覚」


 致命傷を受けた敵が崩れ落ちると、周りの兵士に動揺が広がる。


「隊長がやられたっ!」

「おい、やべえじゃねえか」

「に、逃げろ~」


 おそらく楽進の武力が、この隊の強みだったのだろう。

 彼が倒れるのを見た兵士たちが、我先にと逃げはじめる。

 その動きはどんどん周囲に広がり、とうとうその一角の士気が崩壊した。


「敵は崩れたぞ! 蹴散らせ~!」

「「「おお~~っ!」」」


 その後はもう、一方的な展開だ。

 曹仁の軍全体が、我が軍の攻勢に耐えられず、散り散りに逃げはじめる。

 配下の部隊もここぞとばかりに張り切って、敵を追い落とした。


 俺は適当なところで追撃を打ち切り、後方へ下がっていると、周瑜が寄ってくる。


「さすがは孫策。見事に勝利をもぎ取ったね」

「ああ、お前が見事な策を、授けてくれたからな」

「フフフ、それは光栄だね。だけどやっぱり、君という将があっての勝利さ」

「それはお互い様さ。今後もよろしく頼むぜ、相棒」

「こちらこそ」


 そんな話をしながら俺たちは、ほがらかに笑い合った。

 激しい戦闘を終えたばかりで、体には強い疲労が残っている。

 しかし大きな損害を出さずに、倍もの敵を打ち破ったのだ。

 そこにはなんとも言えない満足感が漂っていた。


 しかし我らが智将は、のんびりと休養を許してはくれない。


「だけど僕らは、敵の一部を破ったに過ぎない。次は曹操との対決だよ」

「ああ、そりゃそうだけど、少しは休ませてくれよ」

「部隊を再編して、敵軍の状況を探る間ぐらいは、休めるかもね」

「うへえ、楽はできそうにもないな」


 そんな弱音を吐きながらも、俺の闘志は燃え上がっていた。

 いよいよ前生の中原の覇者と、対峙するのだから。

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