プロローグ
また三国志モノの新作を始めます。
今回は孫策が主役の、逆行転生譚です。
現代人の転生ではありません。
「弟よ。どうやら俺はこれまでのようだ。後はお前に託す。江東の領民を率いて戦い、天下に覇を唱えることにおいては、お前は俺に及ばないだろう。しかし賢人を用いてその能力を発揮させ、江東を保つことでは、お前の方が上かもしれん。しっかりとやるのだぞ」
「兄上~っ!」
嘆き悲しむ弟の権を横目に、今度は重臣たちに目を向ける。
「この乱れた中華で、江南の勢力をまとめあげれば、ひょっとしてのし上がることも可能かもしれん。卿らはよく弟を助け、支えてやってくれ」
「ううっ、孫策さま……」
「承知、いたしました……」
そこまで口にするだけで、もう限界だった。
俺の体は激しい熱と痛みに冒され、立ち上がることもできない。
そこで静かに目を閉じれば、この数年間の思い出が蘇ってくる。
8年ほど前に親父が死んでから、俺はがむしゃらに走り続けてきた。
幸いにも袁術に気に入られてからは、戦いに次ぐ戦いの日々だ。
そんな中で必死に戦功を挙げ、やがて親父の配下たちとも共闘するようになる。
そこから揚州牧の劉繇を追い出し、呉郡や会稽郡までを制圧すると、もうただの袁術配下とは見られなくなった。
気がつけば揚州のほとんどを支配下に置いており、”江東の小覇王”と呼ばれるほどだ。
しかし、そこから先が難しかった。
荊州の攻略は思うように進まず、江東もまだまだ盤石には程遠い。
おまけに気晴らしで狩りに出てみれば、許貢の食客だったという連中に襲われ、大ケガを負ってしまう。
この調子では、明日の朝日を拝めるかすら、怪しいだろう。
くそっ、まだまだこれからだって時に。
すまねえ、周瑜。
お前となら、共にこの中華に覇を唱えることだって、夢じゃなかっただろうに。
先に逝く俺を、許してくれ。
願わくば弟を助け、生き残らせてやってほしい。
面倒ばかりかけて、済まねえな。
俺はもう逝くけど、お前はもっと長生きするんだぞ。
じゃあな、相棒……