第二十八話【それでも】
第二十八話【それでも】
再び浮遊城へと乗り込んだ俺達は、旧魔王派の罠にかかり包囲されてしまう。
魔王の頭を取り込み異形の存在となった裏切り者のウルフクローとあの黒騎士までもが現れ、激闘を繰り広げる。
しかしウルフクローが黒騎士の力までもを取り込もうとした結果、逆に黒騎士へと取り込まれてしまう。
さらに力を増した黒騎士に俺達が苦戦を強いられる中、突如として空に出現した魔法陣からユウリが姿を現した。
「し、師匠!?」
突然現れたユウリに、驚きすぎて俺は剣を落っことしそうになる。
「増援か!かたじけない!」
心強い味方の登場に、サカマタさんも嬉しそうだ。
「俺だけじゃねぇぞ。あいつらも一緒だ。」
そうしてユウリが顎で指し示す方には、魔法陣からゆっくりと降下してくるリリヤとクリノスの姿があった。
クリノスは降下しながら呪文を唱え、黒い鎖のような物を飛ばして次々と中庭を囲う魔族達を拘束し無力化していく。
「リリヤさん!クリノスさんまで!でもどうやってここに?鍵となる触媒がないと入れないはずじゃ……!?」
先代勇者パーティの面々の揃い踏みに俺は喜びの声を上げる。
空の色は未だここが異空間の中であることを示している。
だとしたらどうやって3人はここへ侵入してきたのだろうか。
「バーカ、鍵ならあんだろ?ココによ。」
ユウリはニヤリと笑って、自分の頭部に生えた角を親指で指差す。
そうか、その角は元々先代魔王の一部。先代魔王の頭がココにあるのなら、十分に鍵となりうる。
「お喋りは後だ!奴がまた動き出したぞ!」
手足を全て切り離されても尚再生しようとする黒騎士をサカマタさんが剣で指す。
「ハッ。何度でもバラバラに切り刻んでやるよ……!」
不敵な笑みを浮かべ、ユウリはその2本の青い剣を構える。
しかしそこへリリヤに支えられながらクリノスが近づいてきて、ユウリへと待ったをかける。
「ごほっ……ここは随分と魔力が濃いですね……。ここは私に任せて……ユウリ、しばらくあの騎士を足止めしてください。」
咳き込みながらもそう言ってクリノスは何やら詠唱を始める。
切っても切っても再生し続けるあの不死身の黒騎士へ、何か秘策があるのだろうか。
「おいババア!本当に任せて良いんだろうな?!」
「ま、まぁまぁ師匠。ここはクリノスさんを信じましょう……!」
バラバラとなった手足が吸い付くように胴体へとくっつき、人体の構造を無視した不気味な動きで立ち上がる黒騎士。
やっぱりこの黒騎士って、アンデッドとかそういう類の存在なのだろうか。
俺達は詠唱中のクリノスを守るように、黒騎士へと立ちはだかる。
「守りは任せて!ばっちりサポートするわ!」
リリヤが俺達へと、支援の魔法をかけてくれる。
なんだか体の底から力が湧いてくるような、温かい感覚だ。
「シャルム!こっちは大丈夫だ!ベレノ達を手伝ってやってくれ!」
「わかった!ボクがんばる!」
先程名サポートを見せたシャルムへとそう手を振り、押し寄せる魔族達の対処へと向かってもらう。
「おい雑魚。修行の成果……俺に見せてみなァッ!」
そこへ突然ユウリがそう言って、俺の尻を蹴っ飛ばす。
俺はその衝撃でよろめいて黒騎士の方へと近づいてしまう。
「ちょっ……師匠ぉ!?」
当然俺目掛けて攻撃をしかけてくる黒騎士。
黒騎士の猛攻を紙一重で回避し続けながら、俺は再び黒騎士の背後を取る。
ユウリのように簡単に手足を切り落とす事ができなくても、俺は俺の全力をやる。
「何度も何度も……ッ!しつこいっての!」
もはや手慣れた動きで、黒騎士の背中の腕を切り落とす。
確かに再生能力は厄介だが、瞬時に再生するわけではない。
だからこうして切り落とし続ければ……。
そう考えた俺の目の前で、黒騎士の背中から無数の腕が一気に飛び出てくる。
手足がたくさんある虫を部屋の中で見たような嫌な気持ち。
「ッッッ!?!?!?」
俺は驚きのあまり、自分でも信じられないほどの速度で後退し、気がつけば軽く建物の壁を登っていた。
「おー、やるじゃねぇか!今の一瞬だけあいつくらいの速さだったかもなァ!」
ゲラゲラと笑いながら、全速力で逃げた俺を指差すユウリ。
誰のせいだと思ってるんだ、まったく。
そう思いながら、俺は慎重に壁から飛び降りる。
そんなユウリ目掛け、背中の腕の再生が終わった黒騎士が猛スピードで突撃していく。
「自分からバラバラにされに来たかバカが!!」
余裕の笑みを見せるユウリが、それを上回るような超スピードで黒騎士へと走る。
そしてすれ違いざまに、黒騎士の両手両足を再び切り落とさん……としたのだが。
「何ッ!?」
切られてはいるものの切断には至らず、それどころか上手く致命傷を避けるような動きを見せた黒騎士。
そんな黒騎士の行動に流石のユウリも驚きを隠せないようだ。
「さっきの1回で俺の太刀筋を学習しやがったってのか?……チッ!誰かを思い出してムカつくぜ!その成長速度!」
ユウリは舌打ちをしながらも即座に反転し、背面から黒騎士へと襲いかかる。
だが黒騎士はさっき俺へとやってみせたように、背中から無数の手を出現させユウリを迎撃する。
「ウゼェんだよ!!」
俺のように臆する事もなく、ユウリは身体を高速回転させながらその無数の手を切り刻み、全て刈り取って見せる。
さらに刈り終わった黒騎士の背中を踏み台にして上へと跳躍。挑発するように剣同士をぶつけて金属音を鳴らす。
そんなユウリの挑発に反応して黒騎士が上を向いた瞬間、サカマタさんの殺人的なタックルが直撃する。
全身がバラバラになるのではないかという勢いで、黒騎士は激しく地面へと叩きつけられる。
「やっぱ、すごいな……!」
言葉も無しに予め指し示していたかのような華麗な連携を決める2人を見て、これが強者同士の以心伝心なのかと俺は感心する。
それでも立ち上がろうとする黒騎士だが、手足があらぬ方向へと曲がってしまっており、動きが鈍っている。
「チャンスか……!」
俺は素早く拘束魔法を唱え、黒騎士の手足を捕縛しようと試みる。
黒騎士へと向けた手を強く握り拳を作るが、それでも黒騎士の力は凄まじく俺の拘束魔法を無理やり力で解かれてしまう。
やはり俺の魔法では、黒騎士レベルの相手には束縛は通じないか。
そう思ってベレノの方をちらりと見るがシャルムやモニカと共に、押し寄せる魔族達の相手をしていてこっちを手伝ってもらう事は難しそうだ。
「チッ!なんだその貧弱な拘束魔法はよ!あのババアの方がよっぽど強いぞ!」
束縛に失敗した俺を見て、ユウリが怒りながら剣でクリノスを指す。
さっきも降りてくる時に黒い鎖のような物を飛ばしていたが、やはりベレノの先祖だけあって拘束魔法は得意なようだ。
「そ、そんな事言われても俺魔法はあんまり……。」
「あァ!?あいつは魔法も得意だっただろうがッ!同じ見た目してんならお前も得意であれよッ!」
キレ散らかしながら、物凄く理不尽な事を要求してくるユウリ。
そんな事を言っている間に黒騎士が再起動し、その手から黒い鎖のような物を出し始める。
まさかあれは、初めて戦った時に俺の動きを真似して見せた……。
「師匠!あれはヤバいです!」
あんな攻撃を出されたら、ここにいる全員が巻き込まれる。
だが今は乱戦状態。とても回避しろと言って回避できる状態ではないだろう。
ならば攻撃を中断させなければならない。
俺はまた拘束魔法を唱え始める。
「あァ?鎖?……チッ。ますます気に入らねえなァ!」
舌打ちをして飛び出していったユウリが超高速踏み込みで黒騎士の懐へと飛び込むと、その首元へと剣を突き刺した。
一瞬怯む黒騎士だったが、すぐに眼前のユウリを捕まえようと鎖を動かす。
「師匠!危ないッ!」
そこへ俺は拘束魔法を放ち、黒蛇と鎖を絡ませて妨害に成功する。
「チッ。余計な事を。」
そう言って舌打ちしながら黒騎士の首から剣を引き抜き離れるユウリだったが、その顔はどこか楽しそうだ。
「メイ、借りるぞ。……ふんッ!!」
突然俺の拘束魔法の黒蛇を掴み、そう言うサカマタさん。
俺は驚きながらも手を離し、サカマタさんへ黒蛇の尻尾を預ける。
そしてサカマタさんがクライカネ商会で見せたトロッコ引きのように黒蛇を引っ張ると、絡まっていた鎖を引っ張られ黒騎士が勢いよく引き寄せられる。
「鎧相手ならば……斬撃よりは打撃だッ!!」
そう言ってサカマタさんが軽く跳躍し空中で身体を半回転させたかと思えば、引き寄せられた黒騎士へとその立派な竜の尾で強烈な打撃を放ち、軽くクレーターができる程の威力で地面へと叩き伏せる。
黒騎士の鎧が、嫌な音を立てて無惨にひしゃげた。
「ひゅー。やるじゃねぇか竜人。流石に死んだだろ?」
ユウリが口笛を吹いてサカマタさんを褒め称えながら、黒騎士の方へと近づいてくる。
だが黒騎士の手足は未だ僅かに動いているようだ。
時間が経てばまた立ち上がるかも知れない。
「おいおい……どういうバケモンだよこいつ。おいクリノス!まだか!?……チッ!抵抗すんじゃねぇボケ!!」
ダウンした黒騎士の腕を踏みつけ、足で押さえつけるユウリ。
尻尾による強烈な一撃の影響で、やはりすぐには立ち上がれないようだ。
だがこのまま黒騎士が再生し続けたら、先に戦えなくなるのは俺達の方かもしれない。
「……お待たせしました。その騎士の身に囚われた、歪な魂を解放します。……サルス・モルス。」
クリノスが静かにそう呟いた瞬間、天より1本の巨大な白い手が現れその人差し指で黒騎士を指差す。
途端、今の今まで抵抗していた黒騎士がぴたりと動かなくなってしまう。
そして黒騎士の身体から黒く濁った何かが天へと登るように抜け出ていくと、同時に白い手も消えていった。
「な、何が起こって……。」
巨大な手と動かなくなった黒騎士に俺が唖然としていると、ベレノがそっと近づいてくる。
「……あれは、大婆様の得意とする死霊魔法の最高位魔法サルス・モルス。天より現れし手に指さされた者は、生の有無を問わず強制的にその魂を天へと返される……らしいです。」
ベレノが説明してくれたのを聞いて、俺は目を丸くしてクリノスの方を見る。
要するに超強力な即死魔法って事か?流石は先代勇者パーティのメンバーだ。
そしてなんというか……本当にクリノスさんが敵で無くて良かった。
黒騎士が負けた事を確認すると、中庭を囲んでいた魔族たちが一斉に逃げていく。
「……私の感覚が正しければその騎士の正体は……。ユウリ、その騎士の顔を確認してもらえますか。」
クリノスが、動かなくなった黒騎士を指差してユウリへとそう指示する。
「あン?チッ……しょうがねぇな……、……げっ。」
舌打ちをしながらも渋々と言った様子で黒騎士のヘルムを外すユウリ。
しかしその顔を確認した途端、物凄く嫌そうな顔をする。
「はァー……そういう事かよ……クソが。」
ユウリは乱暴にヘルムを投げ捨てると、ため息を付いてその場にしゃがみ込む。
俺とベレノが不思議に思って恐る恐る黒騎士へと近づいて行くと、そこへシャルムとモニカも合流してくる。
「……この人は……。」
長い金の髪を持つ、やや老いた人間と思わしき女性の顔を俺は注意深く観察する。
先程黒騎士の頭が再生する際にも一瞬見えたが、この女性の顔にはどこか既視感がある。
「……!」
一緒に顔を覗き込んでいたシャルムが、先に何かに気がついたようだ。
「うーん……?」
一方でいまいちピンと来ていない様子のモニカ。
「……いや、確かにどことなく面影が……。」
首を傾げながらも、何か掴みかけているようなサカマタさん。
「まさか、そんな……この人は……先代の勇者、サン・デソルゾロットなのですか?」
ベレノがその女性の顔と俺の顔を見比べ衝撃的な名前を口にすると、各々が驚いたり納得したりといった反応をする。
この人が?でも先代は何百年も前の人間。
それに一人で魔界に行って力尽きたって、クリノスさんが言っていたはずだ。
「最強の名を欲しいままにした勇者の死体……そんな極上の素材が悪い魔族の手に渡れば、後はどうなるかわかりますね。」
リリヤに支えられながら俺達の方へと合流するクリノスが、そんな事を言う。
それは……確かに、しかも魔王の仇ともなればどれ程酷い目に合わされるか想像もつかない。
「やっぱり、お姉様だったのね……。盾を捨てて二刀流になった時……なんとなくお姉様の事を思い出していたけれど、まさか本当に……。」
リリヤはしゃがみこんで、そっと先代の胸の上へと手を置く。
「どういう事です?」
俺はリリヤへと、その言葉の意味を尋ねる。
「こいつ最初は俺みたいな二刀流じゃなくって、そこの竜人みてぇに剣と盾を持ってたんだよ。それが勇者の伝統の形だーとかバカみてぇな事言ってよ。」
しゃがんだまま頬杖をつくユウリが、サカマタさんをちらりと見て説明する。
「……ですが、盾を持っているだけでは私達を守れないと気がついて……ユウリに教えを請い、同じような二刀流へと持ち替えたのです。極められた速攻即殺によって、仲間を傷つけられる前に敵を殺す為に。」
そんなクリノスの言葉を聞いて、俺は改めて自分が受け継いだ先代の剣へと目を落とす。
このミスリル銀の剣には、そんな願いが込められていたのか。
「お姉様は確かに強い人だったわ……だけど、それ以上に誰よりも優しい人でもあったの。……きっと魔界に一人で行っちゃったのも、お墓参りでもするつもりだったんじゃないかしら。」
冗談っぽく小さく笑って、先代の頭をそっと撫でるリリヤ。
「うんうん。実はそうなんだよね。ボク、なんとなく自分がもうすぐ死ぬことわかってたから、その前に1回挨拶に行っておこうと思ってさ。」
やっぱりそうだったのか。
「でも自分の身体の衰えを考えて無くてさ、向こうで力尽きちゃったんだよね。うーん……失敗だったなぁ。」
ん……?今誰が喋った?
「え?」
「は?」
ごく自然に会話に加わってきた声に、リリヤとユウリが振り向き固まる。
その視線の先には青の瞳に金の長い髪を持った、俺と瓜二つな顔をした幽霊らしき存在が居た。
「や。みんな、久しぶり。元気にしてた?」
にこやかに手を振るこの幽霊は……。
「サン……。」
クリノスが静かにその名前を呼び、口を抑えて大粒の涙を流す。
「えっ、ちょ、待ってや。まさか……先代の勇者様本人かいな!?」
モニカが驚き、その糸目を見開いて先代の幽霊をまじまじと見つめる。
「幽霊!?本物!?」
シャルムが驚いて、サカマタさんの後ろに隠れてしまう。
「いや、しかし……その顔はやはり……。」
サカマタさんも驚きを隠せず、先代の幽霊と俺の顔を交互に見比べる。
「そんな……数百年も前に死んだ人の魂が、まだ残ってるなんて……。」
こういった類の物を得意とするベレノでさえも、信じられない様子だ。
「いやぁ実はと言えばずっと見てたんだよね、メイちゃんの事。」
あはは。と照れたように笑いながら衝撃的な真実を告げる先代。
「ず、ずっとって……?」
恐る恐る俺は先代へと尋ねる。
「そりゃもちろん、メイちゃんが生まれた時からずっとさ。……クリノスが何かしようとしてるのにも気がついて居たし。いざとなったら、叱ってやろうと思ってさ?」
先代はちらりとクリノスの方を見て苦笑する。
「知ってたんだったら、もっと早くに教えてくれても良かったんじゃ……。」
俺は思わず先代へとそんな事を漏らしてしまう。
「んー、まぁそうかもしれないけど。それはやっぱりほら……見た目は同じでも、ボクじゃなくてメイちゃんの人生だからさ?自分で乗り越えてもらわないと。それに何百年も前に死んだ人間が外から色々言ってきても鬱陶しいでしょ。……だから手伝うのは、ちょっとだけ、ね?」
軽い調子で笑って、そう言ってのける先代。
そういえば前回浮遊城に乗り込んだ時、窮地の俺達を助けてくれたあの輝く白い人影はまさか……先代だったのか?
「まぁ、メイちゃんが途中で知らない子の記憶を思い出しちゃった時は、流石にボクもびっくりしたけどさ。いやぁ、楽しかったねぇ!ここまでの冒険!」
ふよふよと浮遊しながら、先代は太陽のような笑顔で笑う。
「でもまさか、リリヤはともかくクリノスもユウリも生きてるなんてびっくりだよね!あーあ、ボクも国に魔王の頭預けずにそのままツノとかもらっちゃえば良かったかなぁ。」
あまりにもマイペースで、自由な口ぶりの先代に皆が苦笑する。
……ん?魔王……?
「……そうだ!雪はッ!?」
黒騎士を倒し達成感と、その正体が先代だったという衝撃から俺は本来の目的を忘れそうになっていた。
俺達がここに来たのは妹を救出するためだ。
急ぎ磔にされているはずの妹の方を確認する。
「……、……。」
するとそこには、磔にされた自分の身体の側へと佇む、幽霊姿の妹が浮遊していた。
戦っている間にいつのまにか意識を取り戻していたらしい。
妹は何故か怖いほどの笑顔で、無言のまま俺を見つめている。
「ゆ、雪!大丈夫か!?今解放してやるからな!」
一瞬助けるのを忘れていたなんて言えない俺は、急いで儀式の魔法陣の方へと走り妹を解放しようとする、が。
「……お兄ちゃんの……バカぁぁぁッ!!」
ゆっくりと口を開いた妹が、城中に鳴り響くほどの大きな声で叫ぶ。
その瞬間、妹の足元の魔法陣が禍々しく輝き、浮遊城全体が大きく揺れ始める。
「な、なんや!?地震!?ここは空中はずやろ!?」
突然の振動に、皆が慌てふためく。
「……ひ、ひひ!儀式は完遂される!お前たちが呑気にお喋りなんかしているからだ!はは……見ろ!先代魔王様の魂だ!」
ベレノに拘束されずっと地面へ転がっていた旧魔王派の指導者らしき髭面の男がそう言って笑うと、天から現れた禍々しいオーラを持つ人魂のような物が魔法陣の方へとゆっくりと降りてくる。
「ああ、不味いね。あれが魔法陣に触れたら魔王が復活しちゃうよ。」
先代のそんな言葉に、俺は焦る。
まさかあれが魔王の魂か!?止めないと!どうやって!?
焦る俺の視界の中で、ベレノから貰った髑髏の指輪がきらりと光った気がした。
そうだ、この指輪の霊体へと干渉する力があればあの魔王の魂を掴んで止める事ができるかもしれない。
「雪ーッ!」
魔王の魂が魔法陣へと触れるのを阻止すべく、俺は目一杯手を伸ばし妹の元へと駆ける。
だがその瞬間、霊体の妹が先代魔王の魂を思い切りビンタした。
「!?……!?!?」
表情はわからないが、先代魔王の魂が困惑している様子が伝わってくる。
かと思えば妹は先代魔王の魂を置き去りにして、自ら足元の魔法陣の中へと飛び込んでいってしまう。
すると禍々しかった光が、一瞬にして白銀色へと変わり、それと同時に磔にされていた妹の身体が魔法陣の中へと沈んでいく。
「お、おい雑魚!なんだありゃ!?お前の妹なのか!?」
困惑するユウリの視線の先には、魔法陣の中からゆっくりと姿を表そうとしている3本角の竜魔族らしき存在が。
「あ、あのご尊顔はまさしく先代魔王様!ですが何処か大きいような……それにあの氷の角は……!?」
戦いに巻き込まれないように隠れていたジーニアが、ひょっこりと顔を出してそう説明する。
確かにあの3本角をよく見ると、3本のうち2本は魔王姿の妹のような氷の角になっていた。
「私のこと忘れて……皆で楽しくお喋り?……そんなの、許せない……許せないよお兄ちゃん……ッ!」
やがて先代魔王の姿をした妹?らしき竜魔族が、魔法陣から完全に姿を現す。
5m近くはあろうかという巨体に、氷の角を含む3本角。背中にはドラゴンのような氷の翼と黒い翼が1つずつ。
そして黒い竜の尻尾の先端には殺人的な鋭さの氷柱がびっしり。
妹はどこからともなく召喚した大剣を担いで、俺を見下ろしてくる。
「ゆ、雪……?」
冷や汗を垂らしながら、俺は唖然とちょっと大きくなった妹を見上げる。
「お兄ちゃんは私のこと……いつだって一番に考えててくれるもんッ!!」
ぎゃおんと吠えた妹の強烈な咆哮によって、城内の窓が次々と割れていく。
俺も皆もそのあまりの大音量に、咄嗟に耳を塞ぐ。
「っ……雪!やめろ!もうやめるんだ!」
必死に妹へと訴えかけるが、俺の声は妹には届いていないらしい。
妹はその大剣をゆっくりと振りかぶる。
まさかそのまま振り下ろすつもりか!?
「皆!逃げろッ!!」
後ろを振り向いて叫び、咄嗟に拘束魔法を唱える。
皆も危険を感じ取り、敵も味方も蜘蛛の子を散らすように中庭から大急ぎで逃げ出していく。
「雪ッ!」
俺は大剣が振り下ろされる直前に妹の角に向かって拘束魔法を放ち、すぐに収縮させて地面から飛び立つ。
入れ違いに地面へと振り下ろされた大剣の一撃が、中庭の地面へ激しい亀裂を走らせ粉砕する。
そのあまりの破壊力は中庭だけに留まらず、建物の壁まで伝播するほどだ。
「お兄ちゃんは私のこと……誰より一番大切にしてくれるも゛んッ!!」
またも巨大な咆哮と共に、泣き叫ぶように暴れまわる妹。
振り回された尻尾が、亀裂の入った建物の壁を豆腐のように容易く粉砕していく。
「雪!俺だ!兄ちゃんはここにいるぞ!雪ッ!」
咆哮に吹き飛ばされそうになりながらも、俺は妹の角へとしがみつき必死に訴えかける。
「ひぐっ……ぐすっ……お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……。」
その竜の目に涙を浮かべ、悲しげな声で呻く妹。
これ以上暴れられるのは不味いと思い、俺はなんとか止めようとして口へとしがみつく。
「落ち着け雪!ほら、そのうち一緒にお風呂入るって約束しただろ!?だからもうやめ」
妹と約束した事を思い出し、俺は妹を必死に止めようとした、のだが。
「私のこと世界で一番愛してるも゛ん゛ッ!!」
一瞬の輝きと共に妹の口から放たれた炎のブレスへと俺は飲み込まれ、吹き飛ばされてしまう。
「メイ!!」
「メイちゃん!?嘘やろ!?」
炎に包まれた俺を心配するベレノとモニカの悲鳴にも似た声が聞こえる。
だが俺は不思議な事に、消し炭どころか火傷すらもしていなかった。
「っ……?あれ、俺……。」
炎のブレスの直撃をくらって無傷な自分に、自分自身で困惑する。
だがその答えはすぐにわかった。
「そうか!某が渡した炎の指輪だ!」
俺の右手人差し指できらりと輝くこの指輪には、装着者への炎耐性を付与する効果があった事を思い出す。
泣き続ける妹の方を見れば再び口元が輝いている。どうやらまたブレス攻撃が飛んでくるらしい。
近づくなら今しか無いと考え、俺は再び拘束魔法を唱える。
「雪ーッ!!聞いてくれッ!!俺は……兄ちゃんはッ!!」
走りながら、俺は妹の炎のブレスをモロに食らう。だが指輪のおかげで熱くはない。
そのままもう一度妹の角へと拘束魔法を飛ばし、さっきと同じように収縮の勢いを利用して一気に距離を詰める。
「お前を……ッ!雪を、愛してるッ!!」
俺は妹の頭へとしがみつくと、目一杯の大きな声で妹への愛を叫ぶ。
途端、荒れ狂っていた妹の動きがぴたりと止まる。
「お兄……ちゃん……。」
妹が、涙声で俺を呼ぶ。
それと同時に妹の竜の身体が光に包まれ、光の粒となって消えていく。
「雪!?」
しがみついていた竜の身体に実体が無くなり、俺は地面へと落下する。
このまま妹が光となって消えてしまうのでは無いかという不安が頭をよぎり、俺は必死に妹へ呼びかける。
しかしやがて光の粒の中から、元の魔王姿へと戻った妹が落下してくるのが見えた。
「雪ッ!」
俺は咄嗟に走り出し、落下してきた妹をギリギリの所でなんとか抱きかかえ受け止める。
見た所、特に怪我などはしていない。
「……ん……お兄ちゃん……。」
やがて妹がゆっくりと目を開く。どうやら無事に自分の身体へと戻れたようだ。
その事に安堵した途端俺は足から力が抜けてしまい、地面へとへたり込む。
「メイ!無事ですか!」
ベレノが急ぎ足で俺と妹の元へと駆けつけてくる。
「お!雪ちゃんも無事みたいやな!回復魔法いるか~?」
その後ろに続いて、相変わらずの調子で笑いながら歩いてくるモニカ。
「全く、無茶をする……。」
サカマタさんは苦笑しながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「メイ!丸焼け!大丈夫?生きてる?」
心配そうなシャルムが翼を広げて飛び、俺の側へと着地する。
「この指輪のおかげで、なんとか……あ。」
駆け寄ってきてくれた皆へと苦笑しながらも、命の恩人である炎の指輪を見せようとする。
しかしその瞬間に、まるで役目を終えたと言うように宝石部分がひび割れ、輝きが失われてしまう。
同時に指輪のサイズの自動調整機能が停止し、ぶかぶかのサイズになってしまった。
「すいませんサカマタさん……折角貰った指輪、壊れてしまったみたいです……。」
妹を膝に乗せたまま、俺はサカマタさんへと謝罪する。
「いや、良いのだ。メイが無事ならばそれで……それにその指輪は元はただの大会賞品だ。次は某が自ら選んだものを送るとしよう。」
サカマタさんは優しく笑うと、力強く頷く。
「ともかく、これで全て終わりですね……メイ、私との約束覚えていますよね?」
ずいっとベレノが顔を近づけて、確認するようにそう尋ねてくる。
ベレノとの約束。確か妹の救出が終わったら俺の時間を1年くれとかなんとか……結局どういう意味なんだろうか?
「あっメイちゃん!ウチとの約束も覚えてるやんな?」
ベレノに便乗するように、モニカも寄ってくる。
ちょっと待て、モニカに関しては何も約束した覚えはないんだが。
「ボク!メイ、結婚。約束!結婚式、いつする?いつする?」
そこにシャルムまで加わって、翼を広げてそんな事を言い始める。
シャルムは……何も無かったとは言い難いか。
いつもの調子に戻ったような皆のマイペースぶりに苦笑していると、俺は突然寒気のような物を感じた。
「……お兄ちゃん。」
見れば俺の膝の上に乗っていた妹の頭に、パキパキと音を立てて氷の角が形成され始めている。
「ゆ、雪……?」
そしてゆっくりと俺の膝から離れ立ち上がると、その背に氷の翼を広げてにっこりと微笑む妹。
「……お兄ちゃんに近づく女は……やっぱ全員殺すッ!!」
殺人的な鋭さの氷柱が生えた氷の尻尾まで生やして、妹は鋭い殺気を放つ。
俺は妹の目を見て、それが本気である事を確信すると慌てて立ち上がり止めようとする。
「落ち着け雪!兄ちゃんはそんな事……ッ!?」
しかしそこで俺の足はもつれ、前へとよろめいてしまう。
その結果俺の唇が妹の口元へと不意に接触し、小さな音を立てた。
予期せぬ出来事に驚き硬直する俺と妹。
「お、おにっ……おっ……!?」
妹は顔を真っ赤にしながら、口をパクパクとさせている。
ついさっきまで満ちていた殺気は、氷の角や翼等と共に砕けて崩れ消える。
やってしまった。
そう考える俺の背中に突き刺さる、複数の視線。
恐る恐る振り返ると、そこには物凄く怪訝そうな表情で俺を見るベレノ達の姿があった。
「ご、ごめんなさい~ッ!」
誰にでも無く謝りながら、俺は妹を抱えその場から逃げるように走り出す。
俺の前世は男だったけど今は勇者なお嬢様で、かなり個性的で可愛い女の子のパーティメンバーが4人も居て。
その上俺の妹はちょっぴり我儘で泣き虫で嫉妬深くて、しかも誰もが恐れる魔王だったりするけれど。
それでも俺は妹が一番可愛い。
本編完結記念Q&Aコーナー
Q.勇者の紋章って結局なんなの?
A.勇者の紋章とは
俗に勇者と呼ばれる者の手の甲に現れる事が多いからそう呼ばれてるだけで、別に紋章あり=勇者というわけではない。
その効果は、強い願いを持つ者の想いに呼応してほんの少しだけ奇跡の力を発現させるという物。
例:メイの助けに答えて先代が少しだけ助太刀に来た。
Q.他の紋章持ちの勇者達は地獄門防衛戦の後何してたの?
A.ウルフクローの命令で各重要都市の防衛とかに当てられてました。
本来無理やり送り込んだ防衛戦で死んでもらうはずだったのに、生き残った上に戦としては勝っちゃったメイ達はちょっと優秀すぎるので、危険視して厄介払いついでに遠くへ旅に出した。
Q.四天王ってなんだったの
A.魔王&魔王城といえば、で出したかっただけで最初からアレ以降の登場予定は無い。
アルシエラは魔王なのに前線に出張ってきて蹂躙してくる一番厄介なタイプの魔王なので、そもそも四天王は居ても居なくてもどっちでも良い。
Q.先代勇者パーティでのサンとそれぞれの関係性は?
A.だいたいこんな感じ。
サン→リリヤ:可愛い妹分。ヒーラーとして頼りにしてる。
リリヤ→サン:カッコイイお姉様。若い頃にマジコールで助けられて一目惚れ。素敵!!
サン→ユウリ:二刀流の師匠。2人で切り込み隊長。
ユウリ→サン:ムカつくけど嫌いじゃない。ライバル。同じ顔してる奴が弱いのは解釈違いの厄介オタク。
サン→クリノス:魔法の師匠。最初に教えてもらったのは、鎖の拘束魔法。仲間以上に大切な存在。
クリノス→サン:危なっかしいので放っておけない。いつの間にかどっぷり依存。サンの死を受け入れられなかった。
Q.先代勇者と先代魔王の関係性は?
A.もちろん敵同士。魔王は地上侵略を狙ってたし勇者はそれを阻んだ。
魔王は魔族たちにより良い土地を与えるため、勇者は地上を守るため。
それまで魔族は言葉の通じない害獣だと教えられてきたサンにとって魔界での旅は自分の価値観を覆す衝撃的な物だった。
しかし今更和平を結ぶには、お互いに殺しすぎていた。
サンが生きた時代は地上の者同士でも殺し合いしてたし、普通に首とか取って掲げるような戦乱の世だったので尚更。
故に、出会い方が違えば。と考えた。
Q.モニカの年齢は?
A.26歳。モニカの性格上素直に答えないだろうなって思って秘密にしたけど、言うタイミングを逃した。
Q.メイ(テンセイ)の言う妹を愛してる宣言はどっちの意味でなの?
A.両方。8:2くらいの割合。強引に迫られたら1人では拒みきれないと思われる。
Q.クライカネ商会から譲ってもらった装備品の分配は?
A.モニカが全部売ってお金にしました。
Q.ビンタされた魔王の魂はあの後どうなったの?
A.サンが天まで送り届けました。
Q.メイに対する好き度をランキングで現すと?
A.メイ(テンセイ)に対するガチ恋度合いランキング。
1位 ベレノ 疑いようも無く好き
2位 シャルム かなり好き
3位 モニカ そこそこ好き
4位 サカマタさん 少し気になる
殿堂入り アルシエラ(雪) 他の女全員◯す!!!
Q.この世界の回復魔法ってどういうものなの?
A.自然治癒を超促進させるタイプ。大怪我を一気に治そうとしたら、細胞再生の痛みに悶える事になる。
Q.ベレノから猛アピールされてもメイが気が付かないのは何なの?
A.メイの頭の中では、知り合い→友人→親友とステップアップしてそこで止まってるから。
ついでに言うと元が男なので女の子同士の距離感が良く分かっていない。
恋人的な好意と、友人的な好意の区別がつかない哀れな生き物。
自分から仕掛ける事は決して無いが、ベレノから本気で仕掛けられたら拒否しないと思います。多分。
Q.で、そのベレノとのその後の話はどこだ?
A.ここ↓
https://ncode.syosetu.com/n7430jp/




