第二十七話【浮遊城再び】
第二十七話【浮遊城再び】
先代勇者パーティ最後の1人、クリノスから衝撃的な真実を告げられた俺。
どう受け止めるべきか他のメンバーには何と話すべきかと考える暇も無く、今度は妹の身に危機が迫っている。
状況確認のため、俺たちは急ぎマジコールの街へとリリヤの転移魔法で戻った。
「……フェルトラウエン様!デソルゾロット様!エヴァーレンスより緊急入伝です!『ローラン・ウルフクローが魔王の頭部と見られる重要保管物を無断で持ち出し、行方をくらました。』との事です!」
マジコールの塔へと戻ってきてすぐに、リリヤの部下のエルフ女性がそんな爆弾情報を抱えて駆け寄って来る。
ウルフクローといえば、確か魔王討伐のための特別討伐隊の指揮官の男だったはずだ。
だが前にここマジコールから本部へ触媒について尋ねた時は、所在不明との回答だった。
まさか、ウルフクローは俺達へ嘘をついていたのか?
「あァ?誰だそりゃ。」
「今回の魔王討伐のための討伐隊の指揮官ですよ!そんなまさか……指揮官が裏切りを!?」
首を傾げるユウリに対して、俺は手短に説明する。
いつから裏切っていた?まさか最初から?
ロクな準備もさせずに地獄門の防衛に行かせたのも、門の防衛に失敗した俺たちにあっさりと旅の許可を出したのも。
全部、この為だったのか?
「もしその情報が本当なのだとしたら、触媒は……魔王の角の最後の1本は既に浮遊城に運び込まれているかもしれません。」
ベレノの言葉に、俺はどっと嫌な汗が吹き出してくる。
さっきの妹の異変が、ついに先代魔王復活のための儀式が始まった影響なのだとしたら。
「ゆ、雪!返事をしてくれ!雪ー!」
慌てて大声で呼びかけてみるが、やはり妹の返事は無い。
どうする。やはり妹の身体に何かあったと考えたほうが良いか。
俺は半ばパニック状態でその場を右往左往してしまう。
「例の浮遊城は今どこに?」
「不明です!既に移動した物かと……。」
リリヤが部下へと尋ねるが、浮遊城は既にあの場所には無いらしい。
襲撃を受けても尚同じ位置に留まり続けている方がおかしいという物か。
だとしたらもう一度探す必要があるが、果たして上手く見つかるのか。
「メイ、落ち着いてください。リリヤさん、浮遊城の捜索を探しもの魔法でもう一度お願いします。メイ、門の欠片を。」
冷静なベレノの言葉に俺はハッとして、急ぎ門の欠片を首から外してリリヤへと手渡す。
頼む、見つかってくれ。ここから何日もかけて探していては確実に間に合わない。
「任せて、やってみるわね。今の間に他のメンバーを集めておいてくれるかしら?見つかり次第、すぐに飛ばすわ!」
駆け足で塔の中へと入っていくリリヤを見送り、俺とベレノは他のメンバーと合流すべく一旦宿へと戻る。
説明はすべて後回しだ。今は一刻も早く浮遊城へと乗り込み、復活の儀式を中断させなければ。
「モニカ!シャルム!サカマタさん!すぐに戦いに行く準備をしてくれ!妹が危ない!再び浮遊城へ乗り込む!」
俺は宿につくなり階段を駆け上がり、それぞれの部屋の扉を激しく叩きながら叫ぶ。
「な、なんやて?!雪ちゃんどないしたんや!?ちょ、ちょっと待ってな!すぐ準備するさかい!」
扉から廊下へと顔を出したモニカが、慌てた様子で準備を始める。
「……ついに来たか。某はいつでも戦う準備はできている。」
「ボク!戦う!まかせて!」
慌てふためく俺やモニカとは対照的に、落ち着いた様子で廊下へと姿を現すシャルムとサカマタさん。
しかもシャルムはいつの間にか、見慣れない弓を背負っている。
「シャ、シャルム?その弓は?」
思わずそのシャルムの背負っている弓を指差し、俺は尋ねる。
「実はここへ帰ってくる旅の途中、シャルムがもっとメイの役に立ちたいと言うのでな。弓で支援するのはどうかと提案したのだ。」
サカマタさんがシャルムの頭をそっと撫でながらそう説明してくれる。
「ボク!弓得意!メイ、支える!」
翼を広げて得意げな顔でシャルムは俺を見つめてくる。
「鳥人特有の目の良さと、風を読む力が弓とすこぶる相性が良かった様でな、少し訓練しただけで百発百中の弓の名手になってしまったようだ。」
そう言って小さく笑うサカマタさんと、ふんすふんすと自信に満ちた様子で鼻を鳴らすシャルム。
「そうか……ありがとう、シャルム。頼りにしてる!」
俺はシャルムのふわふわ頭を撫でる。
強くなろうとしていたのは、俺だけじゃなかったんだ。
それから少し遅れて出てきたモニカと合流し、俺達は5人全員で再び塔へと戻ると途中ユウリを拾って、リリヤの待つ塔の最上階へと向かった。
「リリヤさんッ!見つかりましたか!?」
勢いよく扉を開け、俺はリリヤへと浮遊城の発見の有無を尋ねる。
しかしリリヤは静かに首を横に振る。どうやら見つからなかったようだ。
そんな、どうしたら……。
そこで俺は妹からとジーニアに渡された、氷鱗のお守りの存在を思い出す。
「こ、これを!これを使えば見つかりませんか!」
俺はリリヤへと、妹のお守りを見せる。
「それは……?ううん、とにかく試してみましょう!それを台座の上に置いて、水晶に手を置いて!探したいものを強くイメージして!」
台座の上に氷鱗をセットし、水晶へと手を起き強く妹の事を考える。
雪……。雪。雪。雪……ッ!!
俺の気持ちに呼応するように、塔の上の魔法陣が激しく光の波動を放ち出力全開で浮遊城を捜索する。
しかし残酷にも、どれだけ探しても浮遊城はその影さえも見つからない。
「くそぉッ!なんでだよ……ッ!」
悔しさのあまりに俺は奥歯を強く噛み、台座を拳で叩く。
「落ち着いて、別の方法を探しましょう……。」
そんな俺を見かねたリリヤが背中を擦り宥めてくれるが、俺の気持ちは抑えられそうにない。
後は何か、手がかりになりそうな物は無いか。何か。
焦る俺の耳へ突然、警報のような音が聞こえてくる。
驚き空を見上げると、街の上空に浮かぶ巨大魔法陣が異常を示すように真っ赤に変色していた。
「この反応……侵入者!?もうっ!こんな時に!転移魔法反応確認……出現場所は……え!?ここ!?」
制御装置を覗き込んでいたリリヤがそんな風に驚いたと同時に、俺の目の前の空間が一瞬歪み何者かが姿を現す。
「はァ……はァ……ああ、こんな所におられましたかテンセイ殿!アルシエラ様の一大事ですぞ!今までどちらに!?」
息を切らしながらも慌てた様子で俺へとそう声をかけて来たのは、妹の側近のジーニアだ。
「りゅ、竜魔族!?この街の結界を突破してきたの!?」
「魔族だとォ!?」
ジーニアの姿を見たリリヤとユウリが、一斉に臨戦態勢へと入る。
「ま、待ってください二人共!このヒトは敵じゃありません!妹の味方なんです!俺達はついさっきまでラミアの里に……。」
俺は2人を制止し、ジーニアへと説明する。
「ラミアの……ああ、それでどこを探しても見つからなかったのですな!いやそれより大変な事になりましたぞテンセイ殿!ついにアルシエラ様を生贄とした先代魔王様復活の儀式が始まってしまったのです!」
どうやらジーニアは俺へその事をいち早く伝えようとしてくれていた様だが、タイミングが悪かったらしい。
だがこのタイミングでジーニアが来てくれたのは、逆にチャンスでもある。
「ジーニアさん!今浮遊城はどこにあるんですか!?教えてください!今すぐ乗り込まないと雪がッ!!」
俺はジーニアの肩を掴み激しく揺さぶりながら問い詰める。
「お、おお落ち着いてくだされテンセイ殿!現在浮遊城は異空間へ隠れておりますゆえ、通常の手段では辿り着けませぬ!!」
ジーニアは俺に揺さぶられながらも、はっきりとそう答える。
通常の手段では辿り着けない異空間に居る?通りで探しても見つからないわけだ。
「その異空間に入るにはどうすればいいのですか?答えてください!」
尋問へとベレノが参戦し、ジーニアを尻尾で締め上げながら問いかける。
「い、異空間に入るには許可された魔族本人もしくは鍵となる特別な触媒が必要ですがッ……!い、痛い!折れてしまいますぞッ!」ベレノに締め上げられ悲鳴を上げながらも、必死に答えるジーニア。
「だったら私達をあなたが連れて行ってください。」
一旦尻尾での締め上げを止め、ベレノはジーニアへと要求する。
「私、転移魔法はあまり得意ではなく、他者を連れての転移は少し……。ああ痛いっ!老人虐待ですぞっ!」
だがそんな回答をするジーニアに、ベレノは無言で締め上げを再開する。
「そ、それに触媒無しで魔族以外の者が無理やり入り込んでも、空間の外へと弾かれる仕組みになっておりますので!私にはどうにもッ!……テンセイ殿!お助けを!」
助けを求めるジーニアをよそに、俺は少し考える。
鍵となるような特別な触媒?それってもしかして。
「ジーニアさん!前にもらったこのお守り……鍵として使えませんか!」
俺は先程台座の上へとセットした、妹から貰ったお守りである氷鱗を手に取りジーニアへと見せる。
「お、おお……そうですな!それがありました!それは今異空間におられるアルシエラ様の身体の一部でもありますから、鍵としては有効かと!……はぁ……はぁ……怖いですな、最近の若い子は……。」
そこまで答えてようやくベレノの締め上げから開放されたジーニアが、ほっと胸を撫で下ろす。
「せやけど、やっぱり肝心の浮遊城の座標がわからへんとあかんのちゃう?転移魔法使うんにも座標の情報は必要やろ?」
モニカが会話へ加わって、浮遊城の座標について指摘する。
「そうねぇ……異空間の生成は特殊な空間魔法の一種だから、そこに出入りするための鍵と正確な座標が必要になるはずね。」
リリヤが困った顔をしてそう補足を入れてくれる。
鍵はこのお守りとして、あとは座標か……。
「ジーニアさん……!」
俺はジーニアへと座標を教えてくれと訴えかける。
座標はもちろんジーニアが知っているはずだ。
だがそれによって、他の地上の者達に浮遊城へと攻め込まれるリスクが発生するのもわかる。
それでも今は、一刻の猶予も無いのだ。
言い渋るジーニアに対し、ベレノが再び尻尾で締め上げようとするのを俺は制止する。
「む、ぐぐ……わかりました。これもアルシエラ様をお救いするため!浮遊城の座標をお教えしましょう!」
側近として魔王を救うため腹をくくったジーニアが、そう答えてくれる。
かくして俺達は、ジーニアに教えられた浮遊城の座標へとリリヤの転移魔法で乗り込むことになった。
◆◆◆
ジーニアに教えてもらった座標へと転移魔法で移動をした俺達は、浮遊城の裏手へと転移した。
今度は真正面からのカチコミではなく、裏口からの侵入だ。
周囲の空が赤紫な奇妙な色をしている。これが異空間の中なのだろうか。
ともかく俺達は異空間に弾かれる事無く、再び浮遊城へと辿り着く事ができたようだ。
「なんだ……この、気持ち悪い感じ……。」
浮遊城へと到着してすぐに、俺は言い表せない気持ち悪さを感じる。
何か城の方から、強大な力を感じるような。
「強大な魔力の反応ですね……やはり既に儀式が始まっているようです。」
ベレノが城を指差してそう言う。
「お城、大きい、ぞわぞわ……。」
魔法を扱えないシャルムにもその気持ち悪さは感じられるようで、少し怯えるように俺の足へと隠れている。
「とりあえず、その儀式っちゅうんを妨害すればええんやろ?……あれ?あの2人は?」
小さくガッツポーズをして気合を入れるモニカが、何かに気がつく。
「む?転移する前までは確かに一緒に居たはずだが。」
サカマタさんがキョロキョロと周囲を見回す。
確かに、いつのまにかリリヤとユウリが居ない。
まさか転移時に異空間から弾かれた?でも俺達は無事に入れている。
「と、とにかく!今は妹の救出が先だ!行こう!」
待っている時間も惜しいと感じ、俺は城を指差して皆に呼びかける。
このまま待っていても2人が合流できるかはわからない。
だったら今はとにかく儀式を中断させ、妹を助け出したい。
「城内の案内は私が……恐らく儀式は城の中央、中庭で行われているはずです。」
ジーニアが一歩前に出て、案内役を申し出てくれる。
中庭というと、黒騎士と戦い俺が苦い思いをしたあの場所だ。
あの時俺は一人では黒騎士に手も足も出なかった。だけど、今は違う。
「行こう……皆!」
俺は2本の剣を抜くとしっかりと両手に握り、決意を固めて走り出す。
待ってろよ雪。すぐに兄ちゃんが行くからな。
ジーニアの案内に従い、俺達は城内を進む。
道中、旧魔王派の連中に見つからないように慎重に進んだが、思いの外警備は手薄に感じた。
そして俺達はついに中庭へと辿り着く。
「あれが……復活の儀式?雪はどこに……あそこか!」
入口の陰に隠れながら、俺は中庭の様子を伺う。
地面に描かれた怪しげな魔法陣の中央に、妹が猿ぐつわなどつけられ十字架へ磔の状態にされている。
魔法陣の直ぐ側では幾人かのローブを纏った魔族達が、魔王の頭と思わしきミイラへと祈りを捧げている。
その中には、ウルフクローらしき人物も混ざっていた。
「まずは儀式を中断させましょう……、おそらくあの台の上に乗っているのが魔王の頭でしょう。あれを奪えれば……。」
ベレノが静かに指をさし、俺達は目標を確認する。
「では……私めが奴らの注意を引きましょう。皆様はその隙に触媒の奪還とアルシエラ様の救出を……!」
ジーニアが囮役として名乗り出る。
確かにジーニアならばあいつらにとっては味方のはずだ。油断させるには適役と言えるだろう。
俺達は互いに目を見て確認し、静かに頷く。
やがてジーニアがゆっくりと中庭へと入っていく。
「……いやはや、遅れて申し訳ない。儀式はもう始まってしまいましたかな。」
祈りを捧げる集団へと近づき、何食わぬ顔で輪に入っていくジーニア。
「おお爺さん。どこに行ってたんだ?折角のめでたい日だってのに。」
髭面の魔族の男が、ジーニアに気がつき声をかける。
「いえ、魔王様復活を祝すための準備を色々と……。」
ジーニアが小さく笑って、そう答える。
しかしそんなジーニアへとウルフクローが顔を向ける。
「ほう。それは興味深い。どのような準備ですかな?よもや……敵を城内へと手引きする準備ではありますまい?」
ウルフクローが不敵に笑い、ジーニアへとそう尋ねた瞬間。
周囲の魔族達が一斉にジーニアへと手にしていた武器を向けて包囲する。
それと同時に城内に隠れ潜んでいた旧魔王派の魔族達が一斉に姿を現し、中庭ごと俺達を取り囲む。
「な、何のつもりですかな……!?」
慌てふためくジーニアをよそに、ウルフクローが魔王の頭のミイラへと手を伸ばす。
その魔王の頭をよく見れば、角らしき物は既に1本も残されていない。
どうやらとっくに儀式は始まっており、触媒として消費されてしまったようだ。
「くそっ!罠だったのか……!行くぞ皆!」
大事な儀式なのにやけに警備が手薄だと思ったら、俺達を誘い込むための罠だったらしい。
ジーニアがピンチだと判断した俺達は、奇襲を諦め全員で中庭へと突撃する。
「悪いな爺さん。アンタの事……少し調べさせてもらったぜ。だが驚いたよなぁ、まさか先代魔王様の側近のアンタが裏切り者だなんてよ。」
旧魔王派のリーダーと思わしき髭面の魔族の男が、腰に下げた剣を真っ直ぐにジーニアの首へと突きつける。
「おやおや、招かれざる客もいるようだな……ふんッ!」
魔王の頭のミイラを手にしたウルフクローが、そう言ってその頭を自らの胸へと押し当てる。
すると突如としてウルフクローの身体へと、魔王の頭が一体化し始める。
そして見る見る内にウルフクローの身体は黒く変色し、肉体が肥大化していく。
「ウルフクロー!貴様、やはり裏切ったのかッ!」
サカマタさんが剣を向け、ウルフクローへと怒号を飛ばす。
同時に、その周辺の魔族達が俺達へと武器を構える。
「裏切った……?違うな。私は最初から、こちら側だよ。……ふぅむ……素晴らしい……。」
元の2倍ほどの大きさにまで肥大化し、白目部分が黒に変色、頭部には角まで生え完全に人間では無くなったらしいウルフクローが邪悪に笑う。
「ま、今の今までこの拠点の座標を漏らさなかった忠誠心には、敬意を表するぜ爺さんッ!!」
髭面の男の凶刃が、ジーニアへと振り下ろされる。
「ジーニアさんッ!」
そう叫ぶと同時に俺の身体は勝手に動き出し、気がつけばジーニアを抱え魔法陣の方へと立っていた。
「ッ!?早い……!」
振り下ろした刃が空を切った髭面の男は驚いた様子で俺の方を向く。
俺の直ぐ側には磔にされた妹。今なら助けられるか。
「ジーニアさん!手伝ってください!」
ジーニアへとそう呼びかけ、俺は妹の拘束を解こうとする。
「不味いッ!止めろ!」
妹を開放しようとする俺を止めるべく、髭面の男が魔族たちへ指示を飛ばす。
「邪魔はさせません……スネーク・バインド!」
そこへベレノが咄嗟に拘束魔法を放ち、周囲の魔族達を縛り上げる。
「貴様の相手は某だッ!ウルフクロー!」
サカマタさんが魔物と化したウルフクローへと斬りかかる。
だがウルフクローはその硬質化した腕で、サカマタさんの刃を受け止めて見せる。
「ふぅむ……闘技場グランドチャンプ……ああいや、まだチャンプでは無かったかなッ!」
挑発的な笑みを浮かべ、サカマタさんへと黒腕で殴り返すウルフクロー。
サカマタさんはその拳を盾でしっかりと受け止め、裏切り者のウルフクローとの熾烈な戦いが始まる。
「くそッ!おいアイツは何してる!」
髭面の男がそう叫んだ瞬間、俺は一瞬悪寒を感じる。
「メイ!上!」
シャルムの叫ぶ声に俺が上を見上げると、そこには空から俺めがけて迫る黒騎士の姿があった。
寸前の所で俺はジーニアを抱えて、そこから離脱することに成功する。
「黒騎士……ッ!」
静かに俺の方を向き、剣と盾を構える黒騎士。
やはりこいつをどうにかしないと、妹を救出することは難しいか。
俺はジーニアに安全な場所へ逃げるように言ってから、2本の剣を構え直し黒騎士と対峙する。
「そうだッ!勇者なんてやっちまえ!んがッ!?」
黒騎士の出現に歓喜していた髭面の男を、モニカとベレノが後ろから制圧する。
「雑魚の相手はウチらに任せとき!」
「あなたはそいつの相手に集中してください!」
ベレノが髭面の男を拘束魔法で縛り上げる。
だが中庭を囲う魔族達はまだたくさんいる。
「くっ……シャルム!弓でサポートを頼む!」
「任せて!」
シャルムへと空中からの射撃による支援を任せ、俺は素早く踏み込めば一気に黒騎士の懐へと飛び込み、胴体へ高速の連続斬りを放つ。
だが当然黒騎士の鎧は丸太よりも断然に硬い。僅かな傷跡をつけるのみで、ダメージには至らない。
やはり鎧を相手にするならば鎧の継ぎ目を狙う必要があるか。
そう考える俺へと、黒騎士の膝蹴りが迫る。
しかしユウリとの追いかけっこによって鍛えられた俺の動体視力は、しっかりとその攻撃を認識できている。
「ふっ……!シャルム!膝だ!」
俺は黒騎士の胴を足場にして後方へと素早く跳躍する。
そこへ俺の合図で矢を放つシャルムの支援攻撃がヒットし、黒騎士の鎧の膝関節部分へと鏃が挟まり動きを阻害する。
「そこだぁぁッ!!」
低い姿勢で地面を蹴り、俺は再び黒騎士の懐へと飛び込む。
そして舞うように身体を回転させながら、その首を2本の剣で掻っ切る。
首を飛ばすには至らないが、確かな手応えがある。
しかしそれで死なないのがこの黒騎士だ。
二度とあんな失敗を繰り返さない為にも俺は、油断せずまたすぐに距離を取る。
「こんなんじゃ、やられてなんかくれない……よな。」
首が千切れかかっていても平然と動くどころか、ここからが本気だと言うように盾を捨て同じく二刀流へと移行する黒騎士。
俺は小さく笑って、黒騎士の動きを注視する。
すると突然黒騎士が、手にしていた黒剣の片方を俺めがけて投げてくる。
咄嗟にその黒剣を避けようとする俺だが、その俺の回避行動の後隙を狩らんとする黒騎士の動きがはっきりと見えた。
「頼むッ!」
そう短く叫ぶと、俺はあえて黒騎士の方へと踏み込み走る。
投げられた黒剣が俺へと当たる直前で、シャルムが放った矢が黒剣へ命中。
それによって黒剣の軌道が逸れ、俺への直撃は回避される。
俺の予想外な動きに一瞬動きが止まった様子の黒騎士の頭目掛け、俺は全速力の飛び蹴りを放つ。
「くらえぇぇッ!!」
千切れかかっていた黒騎士の頭を、俺は飛び蹴りによって完全に分離させる。
そしてその黒騎士の頭をボール代わりにして、サカマタさんと戦っているウルフクローめがけて空中から思い切り蹴り込む。
「ぬぅッ!?っぐ……!!」
思わぬ俺からの攻撃に、咄嗟に黒騎士の頭をキャッチするウルフクロー。
しかしそれによってウルフクローの気が一瞬こちらへ向けられる。
そこへ炸裂する、サカマタさんの渾身のタックル。
車に轢かれた俺のように吹っ飛ばされたウルフクローが、俺の方へと飛んでくる。
「戦いの最中によそ見とは……誇り高き戦士であった貴様も老いたと見える。」
剣を担いだサカマタさんが堂々とした足運びで俺の方へと合流する。
「おのれ……人間ごときが……ッ!」
自分へと蹴り込まれた黒騎士の頭を確認すると、ウルフクローが俺へと睨むように目を向け怒りを顕にする。
「あなたも元は人間でしょう!何故魔族に加担するようなマネを!」
俺は人間では無くなったウルフクローへとその理由を問い詰める。
「黙れ小娘!私は力が欲しいのだ!誰よりも強い、強大な力が!その為ならばヒトの身体など捨ててやるッ!!……貴様の力も私に寄越せッガラクタめ!!」
そんな怒号と共にウルフクローは黒騎士までもを吸収せんとし、自らの身体へと黒騎士の頭を押し当てる。
すると先程の魔王の頭と同様に、黒騎士の頭がウルフクローの身体へと飲み込まれ始める。
「ふは、ふははッ!力だッ!素晴らしイ゛イ゛ィイ力ァッ!!」
さらに身体が肥大化し、異形の存在と化していくウルフクロー。
もはやその姿は、力に溺れた哀れな獣と成り果てていた。
「もはやこうなっては敵として斬るしかあるまい……!覚悟を決めろ、メイ!」
サカマタさんが一歩前へ出て俺を守るように盾を構える。
「チカラ!チカラァ!ワタシノ……ヴッ!?ア、グ、ギッ……!」
自らの身体に駆け巡る力に酔いしれていたウルフクローの様子が途中でおかしくなり、もがき苦しみ始める。
「何だッ!?」
俺は思わず身構えるが、見る見る内にウルフクローの身体がドロドロと溶けるように崩れ始める。
そしてそんなウルフクローの足を掴む、首なし状態の黒騎士の胴体。
「イ、イヤダ……ッ!ハナセッ!ワタシハッ!モットチカラヲォッ!……グ……ア゛ァァァ!!」
やがて悲痛な断末魔と共に、ドロドロの黒いヘドロのようになったウルフクローが黒騎士の身体へと逆に吸収されていく。
そして黒騎士の頭が再生をしていく中、俺ははっきりとヘルムの向こうにあった年老いた人間の女性らしき顔を確認する。
俺と同じ青い目に、金の長い髪が見えた。
「……来るぞッ!メイ!」
サカマタさんがそう叫んだ瞬間、再生が完了し一気に4本腕となった黒騎士が猛スピードでこちらへと突っ込んでくる。
だがそれでも、師匠の方が早い。
「……はァッ!!」
俺は黒騎士の攻撃を、サカマタさんが盾で受けると同時に黒騎士の背後へと回り込み、背中から生える2本腕を切り落とす。
新たに追加された腕部分は鎧がついていない為、俺の剣技でも切り落とすことができるようだ。
だがいくら手足や頭を切り落としても黒騎士が止まらない事は経験を持って確認済みだ。
こいつの弱点はどこにある?頭の中?それとも鎧に守られた胴体の中か?
「サカマタさん!そのまま抑えて!」
「任せろッ!」
黒騎士の動きを封じるようにサカマタさんへと頼み、俺は黒騎士の背中の腕が再生する前に再び、黒騎士の首を切り落とさんとする。
だが黒騎士の首は明らかにさっきよりも強度が増しており、切り離すまでに至らない。
魔王の頭を取り込んだウルフクローをさらに取り込んだ事によって、黒騎士の力が更に強くなっているのか。
「ぐっ!しまった……!」
首を切り落とせないままに、黒騎士の激しい抵抗によって俺は弾き飛ばされてしまう。
「メイ!?おのれ……ッ!」
サカマタさんは黒騎士を押さえ続けようとするが、黒騎士の再生した背中の腕がサカマタさんへと掴みかかる。
ダメだ、これではあの時の二の舞いになってしまう。
俺はすぐにサカマタさんのカバーへ行こうとしたその時、空中から放たれた2本の矢が黒騎士の背中の腕を穿ちひるませる。
「ナイスシャルムッ!サカマタさんッ!」
「ふんッ!!」
黒騎士がひるんだ隙に、サカマタさんがその強靭な竜の足で黒騎士を蹴り飛ばす。
さっきの俺の攻撃で、黒騎士の頭はぐらついている。
また飛び蹴りでも仕掛ければ頭をもぎ取れそうか?
だが今は背中の腕もある、迂闊に近づけばあの腕に掴まれる危険性がある。
そうして迷っている間にも、黒騎士の首は再生を始めている。
そんな時、突如として中庭の上空へまばゆい光と共に魔法陣が出現する。
「今度は何だっ!?」
驚き、思わず俺は空を見る。
しかし黒騎士はそんな俺の油断を見逃さず、即座に俺の方へと突っ込んでくる。
「メイッ!」
咄嗟にサカマタさんがカバーへ入ってくれるが、それと同時に上空の魔法陣から飛び出した影が黒騎士へと目にも止まらぬ速さで向かう。
そして次の瞬間、こちら目掛け迫っていた黒騎士の両手両足が一瞬にしてバラバラとなる。
唖然とする俺とサカマタさんの前に現れたのは、その白い髪と眼帯が特徴的な少女。ユウリだった。
「よォ雑魚。まだ妹助けてねえのか?」
ユウリは青い2本の剣を肩に担ぎ、驚く俺の顔を見て笑った。




