第十八話【クライカネ商会の不正を暴け】
第十八話【クライカネ商会の不正を暴け】
無事に鉱山でのボスネズミ退治を終え、ホルオーレの街へと戻ってきた俺とベレノ。
俺はとりあえず討伐完了の報告ついでに剣を修理してもらうべく鍛冶屋【俺の店】へと向かった。
「おう!戻ったか!金属を食う化物は……ってアンタどうしたんだその顔。化物にでも殴られたのか?」
店主は報告に戻ってきた俺を出迎えてくれたが、俺の顔についたベレノの尻尾ビンタの跡を見て不思議そうな顔をする。
当のベレノは俺の隣でどこか気まずそうにしていた。
「いや、ちょっと色々ありまして……。ともかく、例の化物は退治できたのですけれども、攻撃をガードした時に……折角直して頂いた剣が……。」
俺はまだ少しヒリヒリする頬を擦りながら、ボスネズミに真っ二つにされてしまった剣をおずおずと店主の前に出す。
こんな物を見せたらまた、装備は大切にしろと怒られてしまうだろうか。
「はー……こりゃ見事に真っ二つだな。がはは!まぁそう落ち込むな!そのおかげでアンタ助かったんだろ?だったらこの剣も最期まで使命を果たせて本望だろうよ。」
そんな店主の意外な反応に、俺は拍子抜けしつつもほっと胸をなでおろす。
確かに、この剣が無ければ今頃真っ二つになっていたのは俺の方だったかもしれない。
「そこでお願いがあるんですが、またこの剣を修理してはいただけませんか?」
一応回収してきた、折れた剣の先端の方のパーツも店主へと手渡す。
だが店主はそのパーツと持ちての部分を交互に見て、少し難しそうな顔をしている。
ここまで真っ二つになっていると修理も難しいのだろうか。
「あー、そうだな……この剣をくっつける事はもちろんできるんだが、どうしても前よりは脆くなっちまう。どうせならこの機会にアンタ、剣を新しく打ってみねえか?」
店主のそんな提案に、俺は少し考える。
確かに修理した所でまた折れてしまっても困るし、その度にここまで修理してもらいに来るわけにも行かない。
思えばこの剣は実家で訓練をしていた時からずっと使い続けている物だ。
ここまで激闘に付き合わせてきたが、そろそろ休んでもらっても良い頃だろう。
「……そうですね、ではお願いします。どのくらいかかりそうですか?」
時間的な意味もそうだが、値段的な意味でも気になる。
あまり時間がかかるようであれば、妹の事もあって他の手段も考えなければならない。
「化物を退治してくれたお礼として、タダでやらせてもらうぜ!ああでも安心してくれ。タダだからって無責任な仕事はしねぇからよ!時間はだいたい……3日もくれりゃあ行けるか。」
店主はそう笑って、3日くれと太い指を3本立ててくる。
3日か。正直1日でも早く浮遊城探しの旅を再開したいが、剣が無いとどうにもならない。
サカマタさんが大会で先代勇者の剣を手に入れて来てくれるとはいえ、剣は2本くらいはあったほうが良いだろう。
「わかりました。ではそれでお願いします。……時に、先代の勇者デソルゾロットは二刀流でしたのよね?1本は大会の優勝賞品になっているとして……もう1本はどちらに?」
俺はふと思い出したように店主に問いかける。
そういえばポスターに描かれていたそれらしいイラストも、剣が1本だけだった気がする。
そんな俺の問いかけに、店主はまたもギクっとした顔をする。
まさかとは思うが、まさか?
「あー……その、なんだ……もう1本は実は、俺の親父の代には既に無かったらしくてな。どこへ行っちまったのかさっぱりわかんねぇんだ!すまんな!がははは!」
気まずそうに頭をかいた後、豪快に笑ってごまかそうとする店主を俺は少しじとっとした目で見つめる。
まさかこの店の先代か先々代が同じ様に借金のカタとかで手放したんじゃないだろうな。
だが父親の代には既に無かったということは、失くなったのはここ最近では無いのだろう。
そうなるともはや、その足取りを追うのは不可能に近い。
剣が失われたのは惜しいが、そうなってくると流石に諦めも付く。
「……そうですか。……では剣のほう、よろしくお願いしますわね。」
俺は苦笑しながら店主へとそう返して、ベレノと共に店を後にする。
ずっと下げていた剣の重さがない左腰に、少し寂しさを感じながら。
◆◆◆
【俺の店】を出た俺とベレノは次に、サカマタさんが出場しているはずの力自慢大会を見に行くべくクライカネ商会前へと向かった。
今頃サカマタさんが優勝しているだろう。
俺は優勝トロフィーとあの剣を待っているであろうサカマタさんを想像しながら、大会の会場へと足を踏み入れる。
しかしそこには、どこか暗い表情をしているサカマタさんと、その応援に来ていたモニカとシャルムが居た。
「ただいま戻りました!……どうしたんです?皆暗い顔して。大会はもう終わったんですか?」
集まっている3人へと合流した俺とベレノ。
見た感じまだ会場には結構人が残っているが、仮設のリングの上には誰も居ない。
「ああ、戻ったかメイ。それなんだが……。」
サカマタさんが説明をしようとすると、リングの上へ金の指輪と白髪が特徴的なドワーフのクライカネ会長が姿を現す。
「うぉっほん!それでは皆様!大会、お疲れ様でした!これより、表彰式と賞品の授与を行いたいと思います!」
大きく声を張り上げるクライカネに会場の人々の注目が集まる。
なんだ、大会はもう終わっていたのか。これから表彰式が始まるらしい。
まぁ結果は聞くまでも無くサカマタさんの優勝だろうが。
そんな風に俺が考えていると、サングラスをかけたドワーフのスタッフが1位から3位までの賞品とメダルを抱えてやって来る。
細長い銀の短杖、赤い宝石のついた金の指輪、そして神秘的な雰囲気と薄紫の刀身を持つ不思議な剣だ。
あれが先代が使っていたという剣の片方か。
作られてから数百年が経っているとは思えないほど、美しい。
「それではまず第3位から!3位は……オーガのカズ・ワーセタ選手!その巨躯に見合った凄まじい力を見せてくれましたが、惜しくも3位となりました!おめでとう!賞品として、エルフも愛用するという有名な職人お手製の魔法の杖が送られます!」
名前を呼ばれたオーガのワーセタ選手がリングへと上がり、杖を受け取る。
見るからにパワータイプな本人にはあまり使い道の無さそうな気もするが。
オーガはその巨躯と頭部に生えた短い角が特徴的な種族で、身長だけで言えばサカマタさんよりもかなり大きい。
あんな選手まで出場していたとは、戦いを見逃したのが惜しい。
どこか不満げな顔をしながらも、ワーセタ選手は拍手の中のっしのっしとリングから降りていく。
「さて続いては第2位!2位は……竜人のロリカ・スクァマータ選手!その圧倒的パワーで出場テストを余裕で突破した彼女でしたが、本番では2位という結果になってしまいました!でも十分凄い!おめでとう!」
2位として上げられた名前に俺は驚きを隠せず、何度もクライカネとサカマタさんを交互に見る。
サカマタさんが2位?そんなバカな。
だったら1位はどんなバケモノだって言うんだ?
「すまん、メイ……。」
サカマタさんは俺へ小さく謝罪すると、リングへと上がって行く。
当然サカマタさんが優勝する物と思い込んでいた俺は、驚きのあまり開いた口が塞がらない。
「賞品として、魔法装飾品の名工が手掛けた黄金の指輪が送られます!」
サカマタさんは渡された賞品の指輪をつまむように受け取ると、俺の方を見てどこか申し訳無さそうな顔をする。
そんな顔しないでください。俺なんて出場すら出来なかったんですから。
そして会場からの拍手に包まれながら、サカマタさんが戻ってくる。
こんなにも強いサカマタさんに勝ってしまうなんて、いったいどんな選手なんだ。
俺がそんな事を考えながらリングへ注目していると不意に、モニカが耳打ちをしてくる。
「メイちゃん……ちょっとええかな。この大会なんやけど……。」
ひそひそと耳打ちされたモニカの言葉に、俺は耳を疑う。
そんな事ってあるのか。
本当だとしたら、許してはおけない。
「そして栄誉ある1位は……やはりドワーフ!ヤーオ・チョウジャ選手です!おめでとう!!君はドワーフの誇りだ!!」
クライカネの熱の入ったアナウンスと共に出てきたのは、ドワーフとしてはそこそこ大きく見える黒髪のドワーフ男性だ。
あれがサカマタさんに勝った選手?
失礼かもしれないが、とてもサカマタさんより強そうには見えない。
まださっきのオーガのワーセタ選手のほうが全然強そうだ。
やはりこの大会、何か裏があると見て間違いないらしい。
「優勝者には、賞品としてあの伝説の勇者デソルゾロットが愛用した剣が送られますッ!!改めておめでとう!!素晴らしい!!」
チョウジャ選手へと剣が贈呈されると共に、会場は盛大な拍手に包まれる。
だがそんなチョウジャ選手とクライカネを俺達は、疑いの目で見つめていた。
◆◆◆
大会のあったその日の夜。
俺とサカマタさん、そしてモニカの3人はクライカネ商会の建物の近くへと来ていた。
商会の入口には既に営業終了の札が下げられているが、建物の窓からは明かりが見えている。
俺達は大会の不正の証拠を求めてやってきたのだが、どうやらまだ中に誰かがいるらしい。
2人にアイコンタクトを送り、俺はひとり建物の裏へと回る。
すると、誰かの話し声のような物が聞こえてくる。
「……いやぁ~会長。お疲れ様でした!また何かあったら呼んでくださいよ!このヤーオ、いつでも会長の力になりますぜ~!」
わははと笑いながら会話をしているこのドワーフは、今回の大会で優勝したチョウジャ選手だ。
そしてその会話の相手は、推測するに主催であるクライカネ商会の会長、クライカネだろう。
俺はそーっと窓から中の様子を覗き込む。
すると偶然にもヤーオ選手が優勝賞品として受け取ったはずの先代勇者の剣を、クライカネへと返している所を目撃してしまった。
クライカネは剣を受け取ると、得意げに掲げて満足そうに頷いている。
つまりこれは、優勝者と主催によるマッチポンプという奴だ。
クライカネに雇われたか何かされたチョウジャ選手が優勝し、賞品をクライカネへと返却する事でクライカネは貴重な剣を手放す事無く再利用ができる。
恐らく場を変え名を変えて、また剣を客寄せに使うつもりなのだろう。なんて奴だ。
しかしそうなるとあのチョウジャ選手がサカマタさんに勝った方法がわからない。
サカマタさんに聞いた話では、決勝の勝負内容はあの出場試験でもやったトロッコ引きだったと言う。
あの時と同じようなペースでトロッコを引きまくったサカマタさんだったが、後攻で相手のチョウジャ選手がそれを僅かに上回るようにトロッコを引きまくり、勝ったのだという。
ドワーフの筋力が凄いことは俺も知っているが、それにしたってだ。
ともかくチョウジャ選手と主催側との癒着があった事はわかった。
後は言い逃れの出来ない証拠を抑えなければいけない。
「モニカは上手くやっているか……?」
俺は物音を立てないように気をつけながらその場を離れ、モニカが潜入しているはずの商会の倉庫の方へと向かった。
「……モニカ?」
倉庫の外側の扉は既に開いている。
流石に鍵がかかっていたとは思うのだが、どうやってモニカが開けたのかはこの際考えないでおこう。
静かに扉を開き、声を潜めながらそっと声をかけると倉庫の棚の影からモニカが顔を出す。
どうやら潜入は上手く行ったようだ。
俺はモニカに手招きされて、そっと合流する。
「……メイちゃん、どやった?何かわかった?」
ヒソヒソと耳打ちしてくるモニカの吐息がくすぐったい。
「ああ……クライカネ会長と優勝したチョウジャ選手は裏で繋がってた。」
「なるほど……やっぱグルやったんやね。……ウチもここで面白いモン見つけたで。」
モニカはそう言うと、少し移動して大きなシーツのような布が被せられた何かを指差す。
シーツから見切れている下の方を見ると車輪がついている。
これはどうやら、石炭を運ぶためのトロッコのようだ。
「このトロッコが不正の証拠……?見た感じ普通っぽいけど……。」
俺はそっとトロッコに触れてみるが、実は金属っぽくてそうじゃないなんて事もなく普通に金属でできている。
するとモニカが、被せられていた布をゆっくり引っ剥がす。
布の下にはシルエットからもわかっていた通り、石炭が山積みになっていた。
これのどこがおかしいというのだろうか。
「ええか……?よう見てみ、このトロッコの中。」
モニカは俺をひょいと持ち上げて、トロッコが上から見下ろせるようにしてくれる。
暗くて分かりづらいが、トロッコに積まれた石炭の隙間からは何か木の板のような物が見えていた。
これはまさか……上げ底?
外から見れば石炭が満載しているように見えるトロッコだが、実際には上部の縁の少し下あたりの位置に木の板で底が作られている。そのため、木の板の底より下はスカスカの空洞になっているというわけだ。
チョウジャ選手はこれを使っていたから、サカマタさんに勝てたのだろう。
あとはこの証拠をクライカネに突きつければ良いわけだ。
「ふぇ……っくし!」
「ぁ痛っ!?」
その時モニカが、不意にくしゃみをしてしまった。
しかもその反動で、俺はトロッコへぶつけられてしまう。
上に乗っていた石炭が衝撃でバランスを崩し、ガラガラと音を立てて落下する。
ヤバい、流石にこれは気づかれたか?
俺は商会の事務所側へと繋がっている扉へ注目する。
だがどうやらクライカネ達は気づいていないようだ。
ほっと一安心したのも束の間。
「さっきの音は何だ!大丈夫か!?」
凄まじい音と共に外側の入口扉が蹴破られ、念のため表で待機していたサカマタさんが突入してくる。
今一番でかい音を出したのはサカマタさんですけどね。
サカマタさんは剣を片手に俺とモニカの側へと素早くやってくる。
流石にこれはバレただろうか。
「何だ今の音は!?そこにいるのは誰だッ!」
程なくして事務所側の扉を開けて、クライカネが姿を現す。
そしてクライカネはランタンとこんぼうを手に、俺達の方へ近づいてくる。
「私の店の倉庫で泥棒とは、いい度胸だ!バラバラにしてネズミの餌に……!ん?お嬢さんは……。」
怒りの形相で早足に近づいてきたクライカネだったが、見覚えのある俺の顔を見て怪訝そうな顔をする。
「あー……えっと、こんばんは……。」
俺は冷や汗をかきながら、とりあえずクライカネへと挨拶をしてみる。
なんとか誤魔化しきれないだろうか。
「……おやおや、これはこれはスクァマータさんまで……確かお嬢さんとはお知り合いでしたな。……そちらの獣人の方もお知り合いでよろしいですか?」
こんな時間に不審なトロッコの前に集まっている俺達を見ると、クライカネは大体の事情を把握したようだ。
これ以上誤魔化すのは無理だと判断した俺は、単刀直入にクライカネへと訴える事にする。
「クライカネ会長!今回の力自慢大会には……不正がありましたね!?」
俺はクライカネを見下ろしながら、びしっと指をさす。
「不正?さて……何のことやら存じ上げませんなぁ。……いったい何を証拠にそんな事を?ただの難癖でしたら、こちらも出るトコ出させていただきますが?」
白々しくそう言いながらも、俺へ圧をかけてくるクライカネ。
「証拠!証拠はこのトロッコです!このトロッコは一見すると石炭が山積みですが、実際は上げ底によって中が空洞になっています!これは明らかな不正ですわよね!?」
言い逃れできないであろう絶対的な証拠になる上げ底トロッコを俺は指差す。
だが、クライカネの表情に動揺の色は見られない。
「はぁ……?それは展示用のトロッコですから。……それに、そのトロッコが大会で使われたという証拠はおありですかな?」
証拠となるトロッコが使われたという証拠を出せと言うクライカネに、俺は言葉が詰まってしまう。
勝ち誇ったような顔をするクライカネに、俺は必死に頭をひねる。
「せやったら、優勝したチョウジャ選手呼んでもらおか。居るんやろ?さっき何や楽しそうに話してたみたいやん。」
そこへモニカの助け舟が入り、俺はクライカネを睨み返す。
「ふむ……良いでしょう。それが何の証明になるというのかはわかりませんがね。……チョウジャさん!こちらへ来て頂けますかな?!」
クライカネは余裕の表情を崩さないまま、大声でチョウジャ選手を呼びつける。
するとすぐにチョウジャ選手がやってきて、ヘコヘコと腰の低いお辞儀をしながらクライカネの隣へと並んだ。
サカマタさんがチョウジャ選手を見下ろすと、チョウジャ選手は目を泳がせ挙動不審だ。
「聞いてくださいチョウジャさん。こちらの方々が、今回の大会に不正があったと騒ぐのです。そんな証拠、どこにも無いというのに、ねえ?」
俺達をあざ笑うように、チョウジャ選手へと問いかけるクライカネ。
ここからどうするのかと俺はモニカの方をちらりと見る。
そこでサカマタさんが剣を突然収めたかと思うと、一歩前に出る。
「チョウジャ殿。今一度、某と力で勝負を願おう。」
サカマタさんはチョウジャ選手を見下ろしながら、そう要望する。
2人が並ぶと倍ほどの身長差があることがよく分かる。
「ただし、使うのはこの中が空洞のトロッコだ。互いにこれを用いて一本勝負をさせて頂きたい。」
不正がバレるのを恐れるように、不安げな表情でクライカネへと意見を伺うチョウジャ選手。
「……ふむ、つまり決勝のやり直しをしたいと言うのですな?……良いでしょう!ただし、もしそれで再びスクァマータさんが勝てなかった時は……あなた方全員覚悟していただきますよ?」
クライカネがニヤリと笑うと、その金歯がきらりと輝く。
「無論だ、戦士に二言は無い。勝負にはそこにある決勝の時と同じくらいの長さのレールを使わせてもらおうか。そして一引きでより多くの距離を動かせた者を勝者とする。構わんな?」
チョウジャ選手へとサカマタさんが確認を取ると、チョウジャ選手はややぎこちなく頷いた。
「それでは先攻、チョウジャさん。お願いします。」
長いレールへと上げ底トロッコがセットされると、チョウジャ選手がそれとは反対方向の端に立つ。
そしてトロッコと繋がれたロープを握ると、小さく息を吐く。
「全力で行かせてもらうぞ……えいやッ!!」
勢いよくロープが引かれると、たったの一引きにも関わらずトロッコがレールの端へと到達しぶつかる。
中身が空洞の上げ底トロッコとは言え、やはり凄いパワーだ。
その結果を見たクライカネはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「いやはや、もはや勝負は決まってしまいましたかなぁ?」
勝ち誇ったような顔で俺を見てくるクライカネに、俺は静かに拳を固める。
そんな俺の肩に、不意にモニカとサカマタさんの手が置かれる。
2人は俺の顔を見ると、大丈夫だと言うように頷いた。
「では、某の番だな。」
チョウジャ選手によってトロッコがスタート位置に押し戻されると、今度はサカマタさんがレール端へと立つ。
ここでサカマタさんが同じ様に一引きでレール端まで到達させたとしても、きっとクライカネは上手く言い逃れをするつもりだろう。
一体どうするつもりなのかと、俺は不安を感じながらも何か策があるようなサカマタさんを見守る。
「……先に聞いておくが、この向こうに今ヒトなどは居ないな?」
ロープを握ったサカマタさんは、何故かトロッコとは反対側の壁を指差しながらそんな事を問いかける。
「……?ええ、今この建物にいるのはここに居る我々だけですが?」
クライカネは質問の意味をよく汲み取れなかったようで、それを肯定する。
「では、遠慮はいらないな……。」
サカマタさんはそれを聞くと、ニヤリと笑ってロープを強く握る。
そして大きく振りかぶってロープを引くと、トロッコが宙を飛んだ。
唖然とする俺とドワーフ2人。
知らなかった、トロッコって飛ぶんだな。
凄まじい力で引っ張られたトロッコはそのままレールの端を飛び越えて、破壊音と共に反対側の壁へと激突した。
「おや、決勝の時と同じ力で引いたのだが……どうやらトロッコが軽すぎたようだな。」
サカマタさんはわざとらしくそんな事を言いながら、トロッコで開けた壁の穴を指さして笑う。
「な、なな……っ!!」
目玉が飛び出そうなほど目を見開いて、わなわなと震えているクライカネ。
「そらおかしいなぁ。だってチョウジャ選手は決勝の時と同じようにレール端までしか引っ張れてへんやんか。けどサカマタはんみたいに決勝と同じ力で引いたんやったら、あの展示用のトロッコのほうが軽いんやし……サカマタはんみたいにレール飛び越えるくらいや無いとおかしいんとちゃう?」
モニカが少し屈んで、クライカネやチョウジャ選手と目線の高さを合わせるようにしながら問いかける。
「せやけどサカマタはんのトロッコだけがあんなとこまで飛んでしもたっちゅう事は……まるで、決勝の時のサカマタはんのトロッコだけが重かったみたいやんか。……なあ、会長はん?」
もはや言い逃れはできないと悟ったチョウジャ選手は、冷や汗をかきながら静かに目を閉じている。
そうか、そういう事か。
ようやく作戦を理解した俺は、この土壇場で完璧な策を実行した2人へ目を輝かせて尊敬の眼差しを送る。
「ところでなぁ、会長はん。ちょっとええ話があるんやけど……。」
そう言うとモニカは一度立ち上がり、俺の手を引いてクライカネの前へと連れてくる。
不正が暴露される事による信頼失墜と、それによってもたらされる想定損失額に呆然としていたクライカネは黙ってモニカを見上げる。
「この子実は……あの伝説の勇者サン・デソルゾロットの正当な子孫やねん。肖像画くらい見たことあるやろ?そっくりやんなぁ?ほんでついでに、この子も勇者なんやわ。」
モニカは後ろから俺の右手を掴むと、クライカネへ俺の右手の甲の紋章を見せる。
クライカネは、呆然と開いていた口を顎がはずれるんじゃないかと言うほど開いて驚き、俺と紋章を二度見する。
「そんでな会長はん。ええ話っちゅうんは……ここだけの話、ウチらもうすぐ魔王討伐しに行くつもりなんよ。ほんでまぁ今色々と装備やら何やらを集めてるわけなんやけど……是非とも会長が持ってる、先代勇者の剣が欲しいんやわぁ。」
俺越しにクライカネへ平然と嘘混じりの話を、ニコニコとしながら語り始めるモニカ。
こんな喋り方をしている時のモニカは、何かを企んでいる。
「もちろんタダでよこせなんて言わへんよ?でもほら、ここでちょこ~っとウチらの事を支援してくれたら……ここクライカネ商会は魔王討伐に貢献した立派な団体として、世界中に名前が轟く事になるかもしれへんなぁ。……どやろ?ええ話やろ?この話受けてくれるんやったら……今回の一件もヒミツにしたげるさかい、ね?」
さもお互いに得がある話のように語っているが、俺達は魔王を倒しに行くわけではない。あくまで妹を助けに行くんだ。
つまりモニカは今、平然とクライカネから剣や資金を巻き上げた上に詐欺ろうとしているのだ。
だが、不正暴露への恐怖で混乱しているクライカネにはもうそんな事を考える余裕は無い。
大ピンチに差し伸ばされた、救世主がごときモニカの手に縋る事しか考えられなくなっている。
「あ……あ……よ、喜んで協力させていただきますぅ!私共クライカネ商会!必ずや勇者デソルゾロット様のお力になりますよぉ!」
へらへらとした卑屈な笑みを浮かべながら、全力でゴマをすりに来るクライカネ。
あれよあれよと言う間に、例の剣やらその他高そうな装備品やらを巻き上げるモニカ。
俺はそんなクライカネが少し不憫に思えたが、先に不正をした結果なので自業自得かと思い苦笑するしか無かった。
こういう時のモニカは、本当に頼りになるな。いや本当、敵でなくて良かった。
かくして無事?に先代勇者の剣を手に入れた俺達3人は、ベレノ達の待つ宿へと戻るのだった。
◆◆◆
宿へと戻った俺達は、クライカネ商会からの提供品の分配は明日にするとしてひとまず休む事にした。
俺も今日は朝から鉱山へ行って幽霊に怯えボスネズミと2回も戦って、帰ってきたらきたで商会の不正を暴くために潜入して……と色々やって疲れてしまった。
まぁボスネズミを倒したのは結局2回ともベレノだったし、不正を暴いたのも主にモニカとサカマタさんの力なのだが。
「シャルム……はいないのか。」
俺は癒やしを求めてシャルムでも抱っこしようかと思ったのだが、そういえば先程夜空を飛んでくると言って窓から飛んでいってしまったのだった。
そしてベッドに仰向けに寝転がって微睡みかけていると、部屋の扉がノックされる。
誰だろうか。またベレノかモニカだろうか。
俺はむくりと起き上がると、扉の方へと駆け寄る。
「メイ、少し良いだろうか。」
この堂々とした落ち着いた声は、サカマタさんだ。
すぐに扉を開けて、俺はサカマタさんを部屋へと招き入れる。
「どうしたんですか?珍しいですね、サカマタさんが俺の部屋に来るなんて。」
ちょくちょくと何かと理由をつけてはベレノとモニカは来ていたのだが、サカマタさんが来ることは全員集合の時しか無かったと記憶している。
「まぁまぁ、とりあえず適当に座ってください……。」
そう言って俺は自分のベッドへと腰掛ける。
立ちっぱなしも何だと思い、俺はサカマタさんに適当に座ってもらうことにする。
だがサカマタさんはそんな俺の前へと来ると、突然床に膝をついて俺へと跪いてくる。
何だ何だと俺が驚いているとサカマタさんはおもむろに、赤い宝石のついた金の指輪を取り出す。
「メイ……これを受け取って欲しい。」
そうしてサカマタさんは俺の左手をそっと取ると、俺の薬指へとその指輪をはめてくる。
見た感じ指輪のサイズはかなりぶかぶかに思えたが、少しすると自動で俺の指のサイズぴったりにリング部分が変化した。
これって魔法の指輪?すごいな。
俺はシンプルに凄い技術だと指にはめられた指輪を眺めていたが、そこでサカマタさんが真剣な目でこちらを見ている事に気がつく。
「えっと、これは……?」
よく見ればこの指輪には見覚えがある。確か例の大会の2位の賞品だったはずだ。
それによく考えればこの指輪の位置は……。
俺はサカマタさんの行動の意図が掴めず、左手薬指にはめられた指輪とサカマタさんの顔を交互に見る。
「ふむ、やはりメイには良く似合うな。」
サカマタさんは俺の手をそっと握るようにしながら、はめた指輪を目を細めて嬉しそうに眺めている。
それってあの、そういう。いや待て早とちりするな。
「確か先日、メイが前に居た世界では男が女へと指輪を送る風習があると言っていたな。」
思い出したように語り始めるサカマタさんに、俺はいよいよもって挙動不審となる。
待て、待て。冷静に考えろ。
確かにそんな話をしたが、サカマタさんは女性だ。
なんなら俺だって今は女の子だ。
だからこの指輪にはそういう意図は無い、はずだ。
「……実は竜人にも似たような風習があってな。」
そんな事を言いながら少し照れたように笑うサカマタさんに、俺の心拍数は地獄門防衛戦の時より激しく上がる。
なんで急に!?全然そんな感じじゃなかったじゃないですかサカマタさん!?
俺は激しく動揺しながら、左手で自分の胸を押さえる。
「……まぁ、戦友の証のような物だと思ってくれれば良い。きっとメイの役に立つはずだ。」
サカマタさんのそんな言葉に、俺は感情をめちゃくちゃにされる。
良かった。良かった?良かったか?いや、良かった。
俺が早とちりしかけたような意味ではなくこれは、あくまで共に戦う仲間である戦友の証だ。
極限の緊張状態から一気に解放された俺は、油断すると口から魂が出そうな気さえする。
「……どうした。顔が赤いようだが……熱でもあるのか?」
そんな状態で不意にサカマタさんが顔を近づけて、俺の額へ額を合わせてくる。
俺はサカマタさんのその行動に色々と耐えられなくなり、キャパオーバーでベッドへぶっ倒れた。
「……メイ!?どうしたのだ!?メイ!?」




