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それでも俺は妹が一番可愛い。  作者: 上羽みこと
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幕間【私の気持ち】

幕間【私の気持ち】


地獄門ヘルズゲート防衛戦から数日後。

魔界の統治者である魔王が住む、相変わらず凍ったままの魔王城。

その玉座に魔王アルシエラの姿はなく、彼女はあの日以来ずっと自分の部屋へと閉じこもっていた。


「……ぐすっ……。」

相変わらずの薄着のまま一番気に入っているふわふわのドラゴンぬいぐるみを抱きかかえ、ぼんやりとした顔でベッドへ横になっている。

その目元は涙で腫れ、声もこの3日泣き続けて少し枯れていた。


「お兄ちゃん……私、どうしよう……」

アルシエラは仰向けに寝転がるとぬいぐるみを両手で高く掲げ、ぬいぐるみへと問いかけるように呟く。


「お兄ちゃんと仲直りシヨウヨ!」

突然ぬいぐるみのドラゴンが喋り始めた。

アルシエラはかなり驚いたようで、手にしていたぬいぐるみを自らの顔面へと落っことしてしまう。

そしてゆっくりとぬいぐるみを退ければ、じとっとした目で部屋の入口を見る。


「じい……何してるの……?勝手に入らないでって言ったじゃん……。」

先程の声は、いつの間にか部屋の入口へ立っていたじいの声だったようだ。

アルシエラは少し枯れた声で拗ねるように、じいに文句を言う。

じいはもう3日も泣き続けて部屋にこもりっぱなしのアルシエラを心配して、様子を見に来たのだ。


「しかしですな、アルシエラ様……多少別人になっていたとはいえ、折角兄君に再会する事ができたのでしょう?」

じいはあの日泣きながら浮遊城へと戻ってきたアルシエラから、あらかたの事情を聞いていた。

最愛の兄が死んでいて、しかも女の子に転生していて、それも因縁ある血筋の勇者になっていたなんて。

ショックを受けても仕方がないことだと、じいはしばらくアルシエラをそっとしておくことにしていたのだが。


「……あんなのお兄ちゃんじゃないもん……。」

拗ねたようにじいに背を向けて、再びぬいぐるみを抱えて丸くなるアルシエラ。

あれが自分の兄である事はなんとなく理解できる。それでも、認めたくないのだ。


「お兄ちゃんはあんな風に女の人に囲まれてたりしないもん……」

あの時兄の周りに集まってきた仲間らしき女性たち。

いったいどんな手を使って()()()()()()()に取り入ったと言うのか。


「お兄ちゃんは……う……ぐす……私が泣いてたらすぐに来てくれるもん……絶対2()0()()()()も放ってなんかおかないもん……。」

前の世界での優しい兄との記憶を思い出す度に、じわじわと涙が溢れてきてしまう。

それも随分と懐かしく、遠い日の事のように感じる。

一番好きな人に久しぶりに会えたと思ったら、全然別の人になってるなんて。

そんなの、どういう気持ちで受け止めれば良いのかわからない。


「あーあー、またそんなに泣いて……せっかくの可愛らしいお顔が台無しですぞ。」

じいはハンカチを持ってアルシエラの涙を拭ってやろうとするが、アルシエラはそれを寝返りで拒否する。


「……私もう……どうしたらいいのかわかんないよ……。」

突然の異世界召喚からの、凄まじい力を手に入れてあっという間に魔王にまでなった。

憧れていた魔王もなってみたら案外退屈で、つまらない。

ここ最近はお兄ちゃんに再会したい一心で頑張ってきたけれど、それももう必要ない。

だって私の知ってるお兄ちゃんはもう。


「……そうですな。想定とは違った結果になりましたが、無事に目的の地獄門も奪還できましたし……どうでしょうか、魔界を離れ兄君と共に暮らすというのは。……以前はそうしてらしたのでしょう?」

最大の懸念点であった地獄門が手に入ったのだから、後は魔王アルシエラの力が無くとも魔族はなんとかやっていける。

この小さな少女に魔王という大きな責任を背負わせ続けるのは、もう良いだろうとじいは考えていた。


「でも……私が居なくなったら、魔界はどうするの……?」

普段ならそんな心配なんて、嘘でもしないアルシエラが心配そうな目でじいを見つめる。

魔王という統治者を失った魔界がどうなるかは、じいが一番良く知っているはずだ。


「ほっほっ……わたくしはこれでも先代魔王様の側近ですぞ?魔界の1つや2つ、治めて見せましょうぞ。」

それができなかったから、自分を召喚したことをアルシエラは知っている。

自分のような操りやすそうな子供を召喚し、人間相手にしか使えない禁術を用いて力を与え、魔王という名の傀儡かいらいとする事で魔界を統治し平和にしようとしたのだと。

結果としては本来とは違った形での統治にはなったが、それでも魔王不在の時代に比べれば随分と治安も良くなったという事も。


「……じいは嘘つきだね。」

アルシエラは涙を拭って小さく笑う。


「何をおっしゃいます、私程の正直者は魔界のどこを探しても他に見つかりますまい?」

蓄えた自分のヒゲを撫でながら、得意げに笑うじい。


「じゃあ地上侵略の話は……?私が居ないとできないでしょ……?」

だけどまだ自分には役目があると言うように、地上へと宣戦布告をした話を持ち出すアルシエラ。


「私は……実を言うと、地上にはさほど興味が無いのです。先代の魔王様は、随分と地上世界を手に入れることに固執していらっしゃいましたが……それが何故なにゆえだったのかまでは、結局最期まで話してくださいませんでしたな。」

もちろん古代遺物研究者としては遺跡に興味はあるのですが、とじい笑って付け加える。


「だ、だったら……仇は?勇者デソルゾロットには、先代の魔王を倒された恨みがあるんでしょ?」

そのデソルゾロットの子孫というのが自分の兄の生まれ変わりなのだが、それでもどこか焦るようにアルシエラは問いかける。


「確かに、仇ではあります……ですが先代勇者かのじょもまた、自らの住む世界を守るために戦ったのだと……歳を重ねた今なら理解できるのです。……それに復讐とは、自らの手で果たすものですよ。」

だからもうデソルゾロットの人間を狙う必要は無いのだと、どこか寂しそうに笑うじい。


「……そっか。じゃあもう、私はいらないんだ……。」

じいの言葉を聞いて、自分の役目がもう無い事に少し落ち着こんだようにアルシエラは俯く。


「……そうですな。ですから、もっとアルシエラ様を求めていらっしゃる方の所へ行くべきなのかもしれませんな。」

じいはアルシエラの言葉を否定すること無く、遠回しな言い方をする。


「……明日になったら、もう一度お兄ちゃんに会ってくる……それで、ちゃんとお話して……そうしたらまた、魔界ここに戻ってくるね。」

アルシエラは少し考えて自分が今どうすべきなのか、何をしたいのかを考える。

まずは世界を越えて巡り会えた最愛のひとに、自分の気持ちを素直にぶつける所から。


だがその願いは、()()()()()()()()()

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