伝承領域
前回言ったように今話から2000字で投稿していきます
〈カンナカムイ〉は〈コシンプ〉の言葉を聞き、少し時間をおいた後静かに口を開いた。
『最強に取り憑かれた俺にとって、強さによる存在証明をするしかなかった。あいつとはライバルという関係を築くことしかできなかった。だから、こんなにも愚かな選択しか取れなかったんだよ』
その後流れる静寂
遠くから聞こえてくる微かな虫の鳴き声すら聞こえて来そうなほど静かな時間が過ぎてゆく
その間二人は一切動く気配がなかった
たった数秒なれど続いた静寂は〈コシンプ〉の一言で破られた。
『知るかそんなこと』
その言葉を聞いた〈カンナカムイ〉は呆れた目で彼女を見るしかなかった。
『……そっちから聞いたんだろ』
〈コシンプ〉はなぜそんな目で見られたのか理解できないという様相のまま言葉を続けていった。
『私はただ疑問に思ったことを言っただけだ。ジジイに仇なす存在。その事実だけで十分。それだけで私が相手を葬り去るのに十分な理由だ。お前が何を抱いていようが関係ない。相手の意義?使命?そんなもの私にとっちゃあクソ喰らえだ。それとも何か?同情してほしいのか?その程度で揺らぐ意思ならそんなもん捨てちまえ』
『………愚問だったな。そうだな………愚かしかろうが俺は俺の意思を貫くだけだ』
〈コシンプ〉の言葉に苦笑しながら〈カンナカムイ〉は解いていた戦闘形態を再び取り始め、それを察した〈コシンプ〉もまたそれに追従し、その場は話の場から再び戦闘の空間へと戻っていった。
『お前、名は何と言う』
『……〈コシンプ〉』
『そっちじゃない。真名の方だ。あるだろ?』
『…言うわけねぇだろ』
『それもそうか』
それを契機として二人は再び動き出した。
〈コシンプ〉が前進し、それに対して〈カンナカムイ〉はあたり一面にばら撒くかのように放電しながら後退していった。
〈カンナカムイ〉の雷の雨とも言えるような攻撃に対して〈コシンプ〉はまるで最初から攻撃の来る場所が分かっているかの如く、当たることも掠ることなく彼との距離を縮めていく。
そしてその距離が数メートルに縮まった時、〈コシンプ〉は一瞬両足のみ存在力を高めることで瞬間的に先ほどとは比べ物にならない速度で彼の目の前に踏み込み、そのまま勢いを殺すことなく彼へと蹴りを放った。
それに対して〈カンナカムイ〉は接近される直前にスピードを上げ距離を詰めてきた彼女にタイミングをずらされることになったが、なんとか腕を挟み込む形で防御を行ったが、踏み込みが甘くそのまま後ろへと吹き飛んでいく。
『すまんな。今の私にとって時間は味方だ』
そして〈コシンプ〉はその後も一切止まることなく怒涛の勢いで攻めていった。
対して〈カンナカムイ〉も彼女の攻撃に対処しながらも反撃を行なっているのだが、行動や攻撃を読まれているのか尽く回避や防御、最悪の場合カウンターされる事もあり、何とかしようと動こうにも木々が邪魔で思うように動く事もできず、次第に防戦一方な状態となっていた。
身体に纏っている『悋気霹靂』による相殺や存在力を上げている事で喰らった攻撃に対してダメージ量は大したことではないがいつまでも攻撃され続ける訳にはいかなかった〈カンナカムイ〉は自身の腹目掛けて放たれた拳を防御せずにダメージ覚悟で受けつつ作ったタメで全方位無差別に雷を撒き散らした。
それでも〈コシンプ〉はある時は回避し、ある時は存在力を上げた四肢で防ぐことで無傷でそれらを凌いでみせた。
それらをどうにかすると確信していたのか〈カムイカムイ〉は両手に雷を纏いながら超速で彼女の背後へと既に近づいていた。
そして、先ほどの攻撃を回避した直後で空中にいるため回避も出来ずかつ彼女の背後に向かって〈カンナカムイ〉はその両手で掌底を放つ。
だが、まるで分かっていたかのように〈コシンプ〉は空中で体をくるりを180度回転させ、彼のその攻撃を両腕を交差させることで受けたが、地面に足がついていなかったため踏ん張りが効かず、そのまま彼女は吹き飛んでいった。
ようやくまともに当たった〈カンナカムイ〉の攻撃だが、当の本人は不満げな表情をしていた。
『これでもほぼ無傷か』
『んな訳ねぇだろ』
そう言いながら彼女は黒くなった両腕ぶらぶらさせながら歩いて来た。
『いつつ……この両腕見ろよ。存在力上げてたのに両腕とも丸焦げだし動かねぇ。あんなに頑張って攻撃したのにほとんど効いてないのに私は一撃でトントンどころか倍返しされたんだけど』
『その程度俺ら寓話獣の中じゃ軽傷だ』
『存在力が低い私にとっちゃあ十分負傷だよ』
そう言いつつもあっという間に両腕を元の状態に戻した〈コシンプ〉に〈カンナカムイ〉は驚くことはなかった。
『で?さっきの俺の思考の制限と動きを予測することがあんたの領域の力か?』
『…あらら、気づいちゃったかー』
『流石にあんたの動きが俺にとって都合の悪いことが多すぎだし、先読みしたかのような動きが多かった。何かの夢幻だと思っていたが、あんたの動きにそれらしいものはなかった……事前に夢幻を形成している可能性もあったが、時間が経つごとに徐々にだが強化されていたことから考えて伝承領域しか考えられん』
先ほどの攻防、自分の行動は尽く上手くいっていないのに対して相手はあまりにも思い通りに動けて過ぎていた。
それほどの技量を相手が持っているという可能性は捨て切れないが、自身の行動にも普段ならしないミスが多かったことから何かしらの夢幻を形成していると考え、〈コシンプ〉の『今の私にとって時間は味方だ』という発言からようやく〈コシンプ〉が悪夢復古発動による伝承領域を展開しているという結論に至った。
〈カンナカムイ〉にとってあの剣翁に育てられたと言っていたためか、彼女のことを戦闘タイプの寓話獣だと思って行動していたため、搦手を使ってくる寓話獣ということが完全に盲点となっていたのだ。
声に出すことはなかったが、更に警戒度の上がった〈コシンプ〉を見て自身の考えが正しかったことを知ると同時にこれまでの状況から、彼女が自分と接触する以前から悪夢復古を発動していたことが分かり、よくもまあそんな長時間発動して無事なもんだと感心していた。
『いつ気づいた?』
対して〈コシンプ〉は自分の態度から自身が領域を展開している事を確信されたと悟り、もはや隠す事なくどうやってそれに気づいたのかを問うた。
『防御に徹している時に全身の存在力を上げたら、少しだけ思考がクリアになったことで少し気になって頭の方の存在力を更に上げたことで、自分の思考が制限されていたことに気づいた』
この回答に『やっぱりそこか』と〈コシンプ〉は呟いた。




