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夢想の創造 〜幻想世界に生きる〜  作者: 龍の使い
第二章 鋼の内、瞑想から幻想へ
68/73

時針が動く時 毀損の銑鉄 下

12時に投稿するの忘れてたので今投稿


ちょっとだけ短いです

 

『くそ!想定外だ』


 そう愚痴をこぼしながら森の木々のすり抜けながら走るのは〈キラウシカムイ〉


 その顔には焦りの表情を浮かべていた。


 彼の前にいる〈チロンノップカムイ〉の先導で〈キラウシカムイ〉と以下9体の〈カムイ〉は今物凄い速度で走っていた。


『〈チロンノップカムイ〉!本当にこっちであってるんだろうな!』


『ただの予想だよ。剣翁もガキもあそこにはいなかった。それに、〈コシンプ〉の言い草からいって今日だけという感じでもない。あいつらが遠出していくってなるとガキを送ろうとしてるってことだろ。なら行き先は『札幌』しかない』


『それが違っていたらどうするんだ!』


『それならまだ我々のテリトリー内にいる可能性が高くなるということだろう?』


『…………くそ!!』


 〈キラウシカムイ〉は悪態をつくしかなかった。


 〈チロンノップカムイ〉はあえて言わなかったが、もしこの予想が外れていたのなら彼らが〈カムイ〉のテリトリーを抜けている可能性の方が圧倒的に高い。


 〈カムイ〉たちもそれが分からないほどバカではなかったが、それを言ってしまえば自分たちが剣翁に勝つ確率が限りなくゼロになることを否が応にも突きつけられてしまう。


 剣翁によってこの地に縛られて数十年。


 我慢してきた


 いつかまた自由に動けるようになることを願って


 待ってきた


 我らのリーダー〈カンナカムイ〉が再び帰ってくることを


 だが……もう………我慢ならない…待っていられない


 いつまでも敗者のレッテルを貼られ続けている事に、寓話獣のプライドとして限界に達していた。


 それに最近は落ち着いているが、近年自身の力が緩やかに衰えていっていることを感じている。


 特に剣翁の強さを身に染みて実感している〈カムイ〉にとってその事実は絶望そのものだった。


 だからこそ、〈キラウシカムイ〉は剣翁の家にきた青年に関する情報を知った時は神に感謝した。


 すぐに動く事なく情報を伝えに来た〈ニシヲカムイ〉以外に情報を教える事なく慎重に事を進めていき、いざ実行しようとする直前に他の〈カムイ〉にも伝え、今日行動に移した。


 だが、慎重に動きすぎた。


 青年が『札幌』に行こうとしている。


 つまり、自分たちのテリトリーから出て行こうとしている。


 それまでに何としてでもあの青年を殺して進化し、そして剣翁を殺す。


 逃すわけにはいかない。


 逃がしてしまったのならもう自分たちは寓話獣として終わりなのだがら。


 そのために微かな痕跡も見逃さないように〈キラウシカムイ〉は広範囲にわたって夢幻ヴィジョンによる探知を行っていた。





 だからだろう


 それに初めに気づいたのは


 あるいは同じ雷だったからか誰よりも早く反応する事ができたのかも知れない


『っ!!止まれ!』


 〈キラウシカムイ〉がそう言った瞬間、〈カムイ〉たちの上空が激しく煌めき…轟音が鳴り響いた。









『へぇー。止めたのか』


 そう言いながら〈カムイ〉たちの前方にある木の枝の上に立った男が感心しながら視線を向けている先には、全身に火傷を負い、二の腕から先が無くなっている右手を空に上げながら、激しく息をしている〈キラウシカムイ〉がいた。


『ハァ… ハァ… ハァ………グッ!』


 他の〈カムイ〉を守るために上空から来た攻撃に対して、時間がなかったが出来うる限り全力の存在力を込めた雷撃で相殺しようとしたのだが、その程度では止められるわけがなく、それを察した〈キラウシカムイ〉は上空からの攻撃が雷だという事で自身を避雷針としてその攻撃を集中させた。


 だが、その雷に込められた存在力が尋常ではなく、雷に関する伝承を持っている〈キラウシカムイ〉を持ってしても重症、さらにはその身から雷がいつまでも消える事なく纏わりつき、遅々としてその身体が治ることがなかった。


 そんな状態の身体で〈キラウシカムイ〉はなんとか周りにいる他の〈カムイ〉たちを見渡す。


(見える範囲で特に怪我を負った者もいないな……だが上空にいた〈フリカムイ〉の気配がない。あの存在力だ…もう生きてはいまい………それより…)


『誰だ!!』


 目の前に現れた男に〈カムイ〉たちが戦闘体勢に入る中、〈チロンノップカムイ〉が代表して声をかける。


 全員がいつでも動けるように存在力を上げ、戦闘形態をとっている。


『止まれ!』


 だが、それを〈キラウシカムイ〉が制止する。


『意味が分からんな。こいつは私たちを攻撃した』


 だが、誰一人それを聞くものはいなかった。


 そんなやり取りをいつの間にか地面に降りていた男は静かに眺めていた。


 その表情には僅かに笑みを浮かべている。


『今のリーダーは〈キラウシカムイ〉になっているのか。だが、あまり人望は無いようだな』


『〈カンナ……カムイ〉……なのか?』


 〈キラウシカムイ〉が震えた声で言ったその内容に、周りの〈カムイ〉は驚愕、もしくは疑惑の表情を浮かべる。


『〈カンナカムイ〉だと?何言ってんだ。姿形も気配もどう見たって違うだろ』


 〈レタル・カムイ〉の言っていることは〈キラウシカムイ〉は分かっている。


 〈カンナカムイ〉は龍の姿をしているが目の前の男はどう見たって人の姿をしているし、気配だって違っている。


 だがその気配のほんの一部、片鱗が〈カンナカムイ〉とあまりにも酷似していた。


 そして目の前の男…いや〈カンナカムイ〉が笑みを深めたのを見て〈キラウシカムイ〉はそれが事実だと理解する。


『まさかバレるとはな…さすが()()()()()()()()()()()()()()()〉だ。まだ生きているようで安心したぞ……それに、何体か増えているようだな』


 その言葉に目の前の男が〈キラウシカムイ〉の言う通り〈カンナカムイ〉なのだと理解した他の〈カムイ〉たち。


 念願のリーダーと出会って嬉しいはず


 歓喜しているはず







 それなのに






『会いたかったぞ』




 何故か全員寒気が止まらなかった



 〜〜〜〜〜



「………師匠?」


 突然消えた師に刻はなぜ彼が消えたのか理解できなかったのだが、特に慌てる事なく引き続きその周辺を警戒し始めた。


 “寓話獣の跋扈する領域では正直わしでも何が起きるか予想できん。それこそ突然別の空間に囚われるなんて事もあり得る。だからこそ、もしそうなった場合は無闇に慌てるな。そんなんで事態は好転せん。周りを見渡せ、見極めろ。一刻も幻纏を解くな。それで異常が無ければ一目散にその場から離れろ。わしがそばにいても構うな。自分の生に執着しろ。それが出来るようにならねばお主を『札幌』ヘは連れていけぬ”


 〈とにかく生き延びろ〉


 それが修行での剣翁の教えだった。


 負ける事は恥では無い。


 敵わないと思ったのなら目の前に因縁の相手がいたとしても、親しいものが殺されたとしても、とにかく生き続けろ。


 夢幻ヴィジョンは想いの結晶


 勝ちたいと言う想いや復讐心によって夢幻ヴィジョンはいくらでも強くなれる。



 だからこそ刻は周囲の状況を透夢幻ステルスヴィジョンで確認し、異変が見当たらないことを確認した後すぐにその場から離れて言った。


 向かう先は『札幌』


 刻達の目的地であり、手助けしてくれる誰かがいる可能性の高い場所


 以前見せてもらった地図と今の位置からどこに向かえばいいのかは記憶している刻は迷うことなく真っ直ぐに『札幌』へと向かって行った。


 「っ!!」


 刻は正しく行動できていたと思っている。


 師匠である剣翁が目の前から消えても慌てる事なく、教えられた通りに動けていたと思っているし、もし隣に師匠がいたとしても合格を貰える対応だと思っている。


 もし刻が目の前の光景に対して今の心情を吐き出そうとしたのなら間違いなく『ふざけるな』と言いたいところだろう


『ん?なんだお前は』


 刻の向かった先


 その先にいたのは


 たった一体の寓話獣


 そして、その寓話獣の名は〈弁慶〉と言った。


 一目見て悟る


 自分は今こいつには勝てないと


 間違いなく目の前の寓話獣は以前〈コシンプ〉が言っていた進化した個体なのだと、その身から溢れ出る存在力の高さがそれを物語っていた。


 対して〈弁慶〉


 彼は目の前の青年を見て思う


 この青年が神から溢れんばかりの寵愛を受けている事に


 そしてこの青年を殺せばその寵愛は自分の糧となることを


 彼は青年を見て悟る


『何故かは知らんがお前を殺せば己は更なる高みに辿り着けそうだ』


 〈弁慶〉は笑いながら手に持っている薙刀を上段へと上げていき


『ガハハハ!すまんな小さき青年よ。己の糧となってくれ!』


 勢いよく振り下ろした。



 〜〜〜〜〜



「咲!本当にこっちで間違い無いの!?私近づきたく無いんだけど」


「それはみんな同じ!でもあっちに人の気配があるの」


「それ、寓話獣ってオチないよね。なんか強大な存在力を感じるけど」


「………」


「…おい。何でそこで顔をそらす」


「あんまり無駄口叩かず気を引き締めろ。もし人間なら俺たちが探している人である可能性が高いんだからな」


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