無双の破壊僧
大晦日です。
もう今年も終わりです
〈カムイ〉が砂浜で集まっていた時と同時刻
ところ変わって剣翁の家から遥か西にある森の中
そこでは長時間に及ぶ戦闘が行われていた。
『ガアアアアアアア!!』
一方はクマに似た体躯にツルツルした体表を持ち、6つの尾を持っている寓話獣〈イワサラウス〉
『ぬううううん!』
相たいするは黒を基調とした僧兵の格好に白の袈裟を頭部に覆い、腰に軽甲冑をつけている寓話獣〈弁慶〉。
2体の寓話獣は両手で相手を押さえ込み取っ組み合っていたが、〈弁慶〉が力を入れると〈イワサラウス〉は組み倒されてしまった。
『ふん!』
『ガアア!?』
〈イワサラウス〉が倒した隙に近くに地面に突き刺していた薙刀を引き抜き、そのまま〈イワサラウス〉を両断する〈弁慶〉。
『ギャァ!!』
『他愛無い』
そう言いながら薙刀を仕舞う〈弁慶〉の周りには様々な武器が散らばっていた。
全て〈弁慶〉の武器だ。
『これで全てか』
ことの発端はたった1匹の小さな寓話獣。
〜〜〜〜〜
突然〈弁慶〉へと襲いかかってきた鳥の姿をした寓話獣であり、その存在力の小ささ故に〈弁慶〉に気づかれることなく近づけたのだが、存在力の遥かに高い〈弁慶〉に突撃したところで傷一つつけられることなく、逆に自分が怪我を負う結果となってしまった。
突撃されて初めてその存在に気付いた〈弁慶〉であったが、大怪我を負っているその寓話獣を一目しただけで興味を失う。
それが〈弁慶〉を今の状況に追いやった。
『モォォォォォ!!!』
その鳥の姿からは考えられないほどの肺活量で発された鳴き声。
それがただの鳴き声ではないということはすぐに判明する。
『ん?』
周りにいた寓話獣が一斉に〈弁慶〉へと向かってきていたのだ。
〈弁慶〉へと突撃を仕掛けた寓話獣の名は〈イワエチシチス〉。
《山で呼ぶ者》という意味を持つその寓話獣は単体ではそこまで強くはないがその鳴き声でマーキングをしたモノへと周りの寓話獣を引き寄せる性質がある。
今回、〈弁慶〉へとマーキングされたためそちらへと寓話獣が殺到する形となった。
普通であれば絶体絶命の状況
それなのに
『良い機会だ。己に力を示してみよ!挑戦者共よ!!』
〈弁慶〉は不敵に笑っていた。
〜〜〜〜〜
そしてたった今、襲ってきた寓話獣の群れの最後の寓話獣であった〈イワサラウス〉を倒したのであった。
その体は一切消耗していない。
『全くもって弱者ばっかりだったわ』
散らばっていた武器全てを背負っている籠に回収した〈弁慶〉は落胆しながらも歩き出そうとしていた。
その時
『ピイイイイイ!!!』
『ぬ!?』
突然聞こえてきた甲高い声。
一瞬、また〈イワエチシチス〉の鳴き声だと思っていたがその鳴き声を聞いた瞬間、体の自由が効きにくくなったことで別の寓話獣だと悟る。
『これは…その鳴き声か!』
『ピイリリリリリ!?』
グルンッと首を回した〈弁慶〉に背後の上空に飛んでいる鳴き声の主、夜鳥の姿をした巨鳥の寓話獣〈イワオロペネレプ〉は驚いていた。
〈イワオロペネレプ〉はその声を聞いてしまうと、聞いた人は死んでしまうといわれており、その鳴き声は岩すらも破壊するほどの威力を持っており、ただの生物がそれを浴びれば体が破裂するほどのものであった。
だが、〈弁慶〉はただの生き物ではなかった。
〈イワオロペネレプ〉の鳴き声は〈弁慶〉の体の内部まで響いており、それによって体の自由が効きづらくなっているが、言い換えればその程度。
ほとんど効いた様子の〈弁慶〉に驚いていた〈イワオロペネレプ〉はさらに出力を上げるがそれも意味はない。
『ピイ!?』
『幻獣ごときの声で己が動きを止められるとでも?』
〈弁慶〉は籠から取り出した杭を放り投げて〈イワオロペネレプ〉を貫きそのままその姿を塵に変えていった……瞬間、〈弁慶〉を中心としてあたり一帯に氷の絨毯がひかれた。
『次から次へと』
『お前か。この付近で暴れ回っている阿呆は』
そう言いながら森の奥から姿を現したのは白装束を身につけた女性…いやここら一帯を縄張りとしている寓話獣〈雪女〉の姿であった。
『ガハハ!それは己のことだな!』
『ならば死ね』
〈雪女〉はそう言い終わると同時に〈弁慶〉の足元から氷が這い上がってくるが、〈弁慶〉はそれを薙刀で破壊して脱出し、その場から離れた。
『いいぞいいぞ!お前なら己と戦う価値がある!』
その顔を見ると楽しそうさ笑っている。
『ふんっ。その生意気な顔、すぐに青ざめさせてやる』
対して〈雪女〉の方は顔にありありと怒りの表情を浮かべていた。
だが、敵を倒す。
その一点だけは二体の間で共通した感情であった。
『悪夢〈鬼若〉』
『悪夢〈雪女郎〉』
〈弁慶〉は額に二本の角を生やし、〈雪女〉は水色だった長髪の髪の瞳が真っ白に染まる。
そして、二体の純獣が激突した。
〜〜〜〜〜
二体の戦いは数十分に及んだが、趨勢に関しては一貫していた。
『くっ!』
〈雪女〉が手をかざすと〈弁慶〉の周りに氷の杭が形成され〈弁慶〉へと殺到する。
そんな攻撃に〈弁慶〉は手に持った棍棒を振り回し、その全てを粉砕する。
その隙をつき〈雪女〉は〈弁慶〉の足元を凍らせる。
〈弁慶〉は棍棒を地面にただ叩けることでそれを破壊。
だが、〈雪女〉にとってその一瞬の時間が必要だった。
「《氷瀑》!」
〈弁慶〉の上空に現れた無数の氷柱がまるで氷の壁のように降り注いでくる。
『ガハハッ!いいぞいいぞ!』
〈弁慶〉は手に持っている棍棒に存在力を込める。
『ふん!!』
《彗恢颯》
〈弁慶〉の一振りで無数の氷柱を粉々に粉砕する。
その直後、〈弁慶〉へと急接近し、その無防備な胴体へと掌底打ちを放つ〈雪女〉。
すると〈雪女〉の打ち付けた掌から〈弁慶〉の体をだんだんと凍らせていく。
《凍凪》
『直接手で触れる』という条件をつけたことで存在力を底上げした〈雪女〉の夢想であり奥の手。
形成されれば一瞬で氷像と化す攻撃だ。
全身を凍らせた〈弁慶〉に〈雪女〉は勝ったと確信し、手を緩める。
パリンッ
『な!』
だが、氷に次第にヒビが入っていき、その中からは〈弁慶〉が出てくる。
流石に無傷とは行かなかったのか全身凍傷に似た火傷を負っているが、それも次第に治っていく。
その手にはいつの間にか棍棒ではなく鋸を手にしていた。
《歯解踪》
振り下ろされた鋸は〈雪女〉の右腕を切断した。
『くっ!』
〈雪女〉は右手を押さえながらその場から退く。
斬られた右腕を治すためだ。
寓話獣は体を怪我や欠損をしたとしてもものの数秒で全快する。
怪我が大きければ大きいほど治せば存在力が大きく低下してしまうという弱点はあるが、腕一本程度、純獣の〈雪女〉にとって大きな消費ではない。
だが、
『なぜ治らん!』
〈雪女〉の右腕はいつまで経っても戻らなかった。
『無駄だぞ。己の鋸で斬られたものは治らぬ』
『クソ!』
このまま戦い続けることはできないと判断した〈雪女〉は霧を発生させ、その隙にその場から離れていく。
いつの間にか悪夢が解けていても気にせず一目散に〈弁慶〉から離れていく―〈雪女〉は決して認めないが逃げていき、もうそろそろ大丈夫かなと気を抜いた。
そう、思っていた。
『……は?』
〈雪女〉の下半身が氷に拘束されていた。
別の寓話獣が襲ってきたのか、もしくは〈弁慶〉が氷の夢想を使えたのか、そんなことが頭に巡るはずだが、〈雪女〉の頭の中ではそんなことを一切考えていなかった。
『どういうこと。その氷は私のもののはず』
そう、この氷から感じる力は〈雪女〉の力そのものであったのだ。
そんなバカなと〈雪女〉も思っていたが、何故か氷の力を使えず、体に力が入らないことで次第に焦りを募らせていく。
『敗者は強者に全てを献上するべし』
そう言いながら木々の隙間から姿を現したのは〈弁慶〉。
すでに悪夢を解いている姿であるが、その手のひらからは冷気が漂っていた。
それを見て〈雪女〉は悟る。
自分の力が奪われたと。
『そんな…そんな理不尽な力!神が許すはずがない!』
相手の力を奪う
それも相手を殺すことなく
そんな理不尽な力あるはずがない
〈雪女〉はそう考えていた
伝承から生まれた寓話獣だと言っても全ての伝承通りの力が使えるわけではない。
もちろん純獣となれば制限もある程度は解除されるが、あまりに強大すぎるものは制限があったり、もしくは使うことすらできない。
〈雪女〉は〈弁慶〉のその力は制限されるはずの力、そう思ったのだ。
『そんなもんお主の技量が足らんだけだろう。己がいた場所ではこの程度理不尽とは呼ばん』
その言葉に〈雪女〉は〈弁慶〉がどこから来たのか察する。
『まさか……お前は穴の向こうの…』
その穴から漂ってくる強大な力を〈雪女〉は知っている
次元門の向こう側に化け物がいるのは〈雪女〉にとって容易に想像できることであった。
同時にその怪物がこちらの世界に来ることはないという安心感もあった。
その安心感が今、崩れ落ちた。
〈雪女〉の浮かべた恐怖の表情を見て〈弁慶〉はニカリと笑う。
その手には氷で作られた鉞を持っていた。
『己は純獣の〈弁慶〉!その名!生まれ変わっても永劫覚えておれ!』
そしてその鉞が〈雪女〉を切り裂いた。
『この世界の寓話獣は弱者ばっかりだのう』
塵となって消えていく〈雪女〉を見ながらそう呟く〈弁慶〉はふとある方角に視線を向ける。
その方角は戦う前〈弁慶〉が向かっていた方角であった。
『己の倒すべき強者はそこにいる』
再び歩き出す〈弁慶〉
その方角は、剣翁の家のある方角であった。
それでは皆さん良いお年を




