神の威を宿すもの
今日は!!クリスマスイブ!!!
私は当然予定なし!!
クリスマスもイブもバイトしか予定のない悲しい生き物で御座います。
剣翁の家から更に更に東。
知床半島の先端。
そこは周りが高い崖に囲まれた小さな砂浜。
人の痕跡など一切ない、雨水と波の侵食によって何千年もかけて自然が作り上げた外から隔絶された天然の空間。
そんな空間には今、11体の寓話獣が集まっていた。
『…集まったか』
その中の一体、全身が鱗に覆われ、臀部から尻尾の生えた竜人のような体に巨大な鹿の角を持つ青年に見える男…ここにいないこの集団のリーダー、その代理である寓話獣〈キラウシカムイ〉が声を上げる。
『それで?ただ親睦会をしようなんて理由で私たちを集めたんじゃ無いわよね。もしそうなら爛れさせるよ』
そう〈キラウシカムイ〉に対して声を上げたのは、翼を生やした蛇体の姿に全身が薄い墨色で目と口の周りが朱色、大木のような胴体に対して頭と尾が細く、ノコギリのように鋭く尖った鼻先を持つ、寓話獣〈ホヤウカムイ〉だ。
そんな〈ホヤウカムイ〉の言葉に〈キラウシカムイ〉は動じることなく、ゆっくりと、確実にここにいる者たちに伝わるように口を開いた。
『我らの宿敵を殺せる可能性が出て来た』
『『『『『っ!!!!!』』』』』
その言葉にその場にいる10体の寓話獣―〈カムイ〉の名を冠する者のうちの半数である5体が劇的に反応を示した。
『〈キラウシ〉。それは真か』
そのうちの一体、二メートル近い赤い狐の顔とその周りに浮かぶ一本の尾を持つ寓話獣〈チロンノップカムイ〉が〈キラウシカムイ〉に声をかける。
『数ヶ月前から奴の住処に一人の男が住みはじめている』
『その男がどうした』
『そのから先は偵察に行って来てもらった〈ニシヲカムイ〉が話す』
その場にいた〈キラウシカムイ〉以外の9体の寓話獣が一斉に黒い靄のような、一見すると宵〈クロ〉に見えるがその間に内包されている存在力は宵〈クロ〉とは比較にならないほど高い、寓話獣〈ニシヲカムイ〉が口など見当たらない何も関わらず、そこから声が発せられた。
『ま……ちがい…ない……あのガキ………を殺せば…進化……で…きる…』
事前に知っていた〈キラウシカムイ〉と〈ニシヲカムイ〉以外の今この場にいる9体の反応は先ほど以上のものだった。
『何!?それは本当か!?ならそいつは俺が殺す!!』
その中の一体、姿だけを見れば普通の鷹のように見える生物が砂浜の上の崖の上から翼を広げながら大きな声を上げて叫ぶ。
この鷹の正体は寓話獣〈フリカムイ〉。
両翼を広げれば数百メートルもの大きさにもなる巨大な鳥の寓話獣。
特別な能力がある訳ではないが、羽ばたき一つで家が吹き飛び、その巨体からは考えられないほど軽快に飛ぶ。
そんな叫んでいた〈フリカムイ〉は突然その場から飛び立つ。
その直後、無数の吸盤のついた赤黒い触手が〈フリカムイ〉が先ほどいた場所へと通り過ぎた。
『うるさい』
そう言いながら海の中からのっそりと顔を出したのは巨大なタコの姿をした寓話獣〈ラートシカムイ〉。
〈フリカムイ〉と同様特別な能力がある訳ではないが巨体から繰り出される八本の触手からは途轍もない力を発揮することが出来る。
〈フリカムイ〉は先ほど自身に攻撃を仕掛けて来たのが〈ラートシカムイ〉だと知ると怒りをあらわにしながら怒鳴りかけた。
『何だと!?海では〈リヴァイアサン〉が大人しいから自由に動けるんだろうがなぁ!俺ら空に生きる者は〈ジズ〉のせいで自由に飛ぶことすら出来ねぇんだぞ!』
〈フリカムイ〉と〈ラートシカムイ〉
この二体は伝承の中でも争っていたが両者の力が拮抗しており決着が付かなかったという内容があり、その伝承に漏れず2体は犬猿の仲であり、顔を合わせるたびに揉めていた。
『2人とも騒ぐな』
その言葉に〈フリカムイ〉と〈ラートシカムイ〉はピタッと止まる。
声をかけたのは〈キラウシカムイ〉だ。
あのまま行くと取っ組み合いの喧嘩になり、今回の集会の意味がなくなる可能性があったため止めたのだ。
普通なら〈キラウシカムイ〉の言葉など無視して取っ組み合いの喧嘩になるところだったが〈キラウシカムイ〉から放たれる強烈な気配に2体共その動きを止める。
『〈フリカムイ〉。確かにお前は〈ジズ〉のせいで満足に空も飛べない。奴を殺したい気持ちは分かるが、あいつとの盟約の一つに我ら〈カムイ〉がこの地から出ることを禁じられている。今はあいつを殺すことだけを考えろ………〈ラートシカムイ〉もそんなに〈フリカムイ〉に喧嘩を売るな』
2体が特に反論することがないのを見た〈キラウシカムイ〉はその視線を〈ニシヲカムイ〉へと移す。
『〈ニシヲカムイ〉。お前と一緒に偵察に行っていたはずの〈ラプスカムイ〉はどうした』
『あ…いつ……は…おそら……く…あの男………に殺……された』
『………そうか』
〈ニシヲカムイ〉の返答に〈キラウシカムイ〉は軽く目を閉じたあとゆっくりと開き、周りにいるカムイを見回した。
『相手はかつて神威の名を冠する我らが束になっても敵わなかったやつだ。我らの中でも上位の強さだった〈ラプスカムイ〉でさえ殺されている。だが、我々はいつまでも弱者でいるつもりはない。あいつとの盟約を無くすためにも何としてでも宿敵……剣翁を殺す』
そう言った〈キラウシカムイ〉の瞳には強い意志が宿っている。
〈キラウシカムイ〉だけではない。
かつて剣翁との戦いに参加していた他の数体のカムイも同様であった。
『プッ……アハハハハハ!!』
そんな中、突然笑い声を上げる者がいた。
その声に周りにいたカムイたちが声の主に視線を向ける。
『あー面白い。〈カムイ〉での集まりがあると聞いて何の話かと思えば………一緒に皺枯れたジジイ一人を殺そうだって?』
そんな視線を向けられた声の主…〈パウチカムイ〉はそんなことを気にすることなく笑みを浮かべていた。
『私よりも先に進化した先輩方を尊重して黙って聞いていたけど…まっさか、こんなにも腑抜けた連中の集まりだったとはね』
そんな〈パウチカムイ〉の言葉に少しの静寂のあと、静かに聞いていた〈キラウシカムイ〉が口を開く。
『お前は奴の強さを知らない』
『ええ、私はそのジジイの強さなんて知らない………でもたかだか死にかけの人間ごとき何を警戒する必要がある訳?』
そう言った〈パウチカムイ〉の〈キラウシカムイ〉、そして周りにいるカムイを見つめる目には隠すつもりがないのか侮蔑の感情が現れていた。
『それに、あいつと共にいるコシンプは私の下僕よ。あんないち精霊の寓話なんて、神である私に逆らえるわけないじゃない。私が殺せと命令すればすぐに終わるのに……でもそんなんじゃ楽しくないわ』
『おい、どこへいく』
『あなた達はせいぜいそこで指を咥えて待っていなさいな。あの皺枯れたジジイは私の歌で呪い殺してあげる。そしてそのガキをなぶり殺して、私は更に進化する!そうすれば〈カンナカムイ〉のいない今、次のカムイの長はこの私、〈パウチカムイ〉様の物よ!アーハッハッハッ!!』
そう言い残し、〈パウチカムイ〉はその場から離れていった。
『いいのか?放っておいて』
〈パウチカムイ〉がその場を去った後、〈キラウシカムイ〉に声をかけたのは白い熊の姿をした寓話獣〈レタル・カムイ〉だ。
『いい。純獣に進化したくせにあいつは自分の伝承に縛られすぎている』
〈レタル・カムイ〉の言葉に〈キラウシカムイ〉は特に気にしなさそうに答えていたが、その雰囲気はそんなに穏やかなものではなかった。
『〈カムイ〉の名を冠していたから我が手助けして進化したというのに調子に乗りよって』
そう、湖畔にいた〈パウチカムイ〉を〈キラウシカムイ〉は同じカムイの名を持っているからと進化を手助けし、闘いを指南していたのだ。
それもこれも全ては剣翁に勝つため。
強力な仲間を集めるために。
結果〈パウチカムイ〉は調子に乗ってしまった。
いや、伝承に性格が引っ張られてしまったのだ。
自身の思い通りにいかない結果となってしまったことに〈キラウシカムイ〉は苛立ちを隠すことができなかった。
『それで?儂は新参者で当時いなかったから分からないんだが、〈パウチカムイ〉は勝てるのか?』
〈キラウシカムイ〉がそんな状態になっているのを尻目に隣にいる〈レタル・カムイ〉に声をかけたのは老婆の姿をした火神である寓話獣〈アペフチカムイ〉。
『無理だな。戦いにすらならん。純獣だろうが何だろうが、あいつにとっては有象無象でしかない』
そんな〈アペフチカムイ〉の問いかけに〈レタル・カムイ〉は淡々と答える。
『我らだってただ怯えて隠れていたわけではない。力をつけていたのだ。あいつに勝てるようにな。正直、まだ勝てるヴィジョンが見えないが、そのガキを殺すことができればそれも現実味を帯びるだろう』
2体のやりとりを聞いていたのか〈レタル・カムイ〉と同じく熊の姿をした焦茶色の毛に一回り小さな体躯を持つ寓話獣〈キムンカムイ〉が会話に加わる。
『確実に勝てる…とは言わないんだね』
〈キムンカムイ〉の言葉にこれから戦わなければならない敵に対して気を引き締める〈アペフチカムイ〉。
『それより〈カンナカムイ〉はまだ見つからないの?あいつに勝つには〈カンナカムイ〉の力は不可欠だとおもうんだけど』
〈ホヤウカムイ〉の言葉にその場は再び静寂に支配される。
〈カンナカムイ〉
それはかつて〈カムイ〉を集めコミュニティを形成した長であり、盟約が結ばれる直前、剣翁に単独で闘いを挑みにいき、そのまま行方知らずになった寓話獣だ。
言い換えれば〈カンナカムイ〉を失ったからこそ当時〈カンナカムイ〉の代理だった〈キラウシカムイ〉は剣翁を盟約を結ぶことにした。
消滅するよりも、今ここで敗者というレッテルを貼られても、いつかきっと剣翁に勝つために、近いうちに再び復活するであろうリーダーの居場所を守るために。
『まだ見つかってない。あの日、あいつと戦って死んでいたとしてももう復活していてもいいはずなんだが…』
だが、今の今まで〈カンナカムイ〉が〈キラウシカムイ〉たちの前に姿を現すことはなかった。
『〈カンナ〉が見つかろうが見つからまいが我々はもう負けたままでいるのは我慢できん。〈パウチ〉の実力じゃあジジイは相手にせん。おそらくコシンプが相手になるじゃろう。あいつらが〈パウチ〉に意識を向けている隙に誰かがガキを殺して神獣に進化してジジイを殺す。いいな』
〈チロンノップカムイ〉のその言葉に誰も反論することなく、カムイは各々その場から散っていった。
すべてのカムイが去った砂浜
その端にある崖のとある岩肌
(ここにきて正解だ。今から楽しい楽しいイベントが始まる予感!……だが少し妙だな……大切な神の愛し子のイベントだ。シナリオに支障があってはいけない。少し調べるか)
カムイを観察しているものに誰一人気づくことはなかった。
この話を書くためにアイヌの神話について軽く調べたんですが、カムイって神様って意味なんですね。
というかカンナカムイしか知らなかったんですけど意外とカムイと名のつく神様が多くて驚きました。




