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夢想の創造 〜幻想世界に生きる〜  作者: 龍の使い
第二章 鋼の内、瞑想から幻想へ
57/73

剣振りの翁といふものありけり

 

『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』


 誰かが何か言っている。


 誰だ?よく見えない。よく聞こえない。


 でも、なぜか見覚えがある。聞き覚えがある。心が落ち着く。


 その人が近づいてくる。そしてその人は僕の隣に手を伸ばし、僕と同じ背丈の黒い靄がかったものの手を取り、離れていく。


 心がざわつく。


 その人の近くを離れてはいけない気がした。


「待って!」


 僕はその人たちを追いかける。しかし、追いつくことはない。むしろ段々と離れていくばかりだ。


「待ってよ!」


 僕は必死に手を伸ばす。

 しかし、その人たちは扉の向こうに消えてしまった。


「なんで・・・」


 僕は空をきった手を無気力に下ろす


「なんで、みんな僕の側からいなくなるの」


 あれだけ遠かった壁が目の前に迫ってくる。


 だが僕にはもう扉の向こうに行く気力が無かった。


 後ろを振り返って見ると来た道は崩れ落ち僕はもうどこにも行けなかった。


「なんで、僕はこんな目に遭うんだ」


 僕は蹲り、殻に籠った。



 〜〜〜〜〜



「…はっ!」


 知らない天井だった。


 剥き出しの木の梁や屋根裏。


 刻が体を起こして周りを見渡してみると畳張りの部屋、そして木材の柱や壁や襖が目に入る。


 いわゆる古民家のような内装をしていた。


「ここは…」


 刻は初め見知らぬ場所にいることに戸惑っていた。


 だが、すぐに別の事が頭をよぎる


「あれは…夢幻ヴィジョンなのか?」


 ミーミルとカイの戦い。


 刻はカイが表に出て来てからも意識を失う事はなかった。


 まるでこれからの戦いを見ろとでもいうように。


 実際、ミーミルとの戦いは圧巻だった。


 ミーミルの使った夢幻極致プライマルアーツ、そしてカイの使った夢幻ヴィジョンと呼ぶには余りに特異な力。


 本当に自分の体でやった事なのか実感を得ることができなかった。


 夢幻ヴィジョンの情報が刻まれている刻の知識の中にもあのような力に関するものなんて一切なかった。


 おそらくカイはこの力を見せるために自分の意識をそのままにしていたのだろうと刻は思っていた。


 そしてミーミルの胴に風穴をかけた瞬間、刻の意識は途切れた。


「あの力が…僕の中にある。彼は一体なんなんだ?」


 インヴィジブルに殺されかけた時は助言するため現れ、ミーミルに殺されかけた時は表に出て戦った。


 そのどれもが自分の成長を促しているように刻は思えた。


 まるで、先の戦いの力を早く自分が使えるようにするために。


 一体なんのために


 そんなことを考えていると、部屋の扉がガラガラと開く。


「起きたようじゃな」


 刻は声の主の方へと顔を向けるとそこには白髪にヒゲを生やし、和装の姿をした一人の老人がお盆にお茶を乗せながら入って来ていた。


 刻は気絶していたため知らないが、彼はあの時(かける)をここまで運んできた人である。


「……誰?」


「おおそうじゃな。わしの名は………はて、わしの名前はなんだったかの?……うーん……あかん!何十年も名乗っとらんせいで忘れてしもうた!」


 ガッハッハっとどうしたら笑いだした老人を刻はどうしたらいいのか分からず見ていることしかできなかった。


 老人の方も刻がついて行けていないことに気づきゴホンッと咳をして気を取り直す。


「そうだなぁ。…とりあえずわしのことは剣翁けんおうとでも呼んでくれ」


「はぁ」


「それで、お主の名は何という?」


「………」


「まさか!わしと同じで自分の名を忘れたか!?」


 名を聞かれた刻が少し黙ったことで老人-剣翁は彼も自分の名を忘れたのではないかと慌て出す。


 実際は今自分がいる場所と剣翁の格好が今の時代にはまず見ない、本でしか見たことがない遥か昔の日本のものであることに物珍しさから眺めていただけである。


 剣翁の慌てた声にやっと今の状況を理解し、刻も慌てながらに自分の名を言った。


「い、いえ。黒鉄(かける)といいます」


「…ふむ、刻か。なかなかいい名じゃな。…それで刻よ、お主なぜあそこで倒れておったんじゃ?あそこは『()()』からも遠いし強力な寓話獣が跋扈しておる危険地帯じゃぞ?」


「…『札幌』?ここは新宿じゃないんですか?」


「お主こそ何を言っておる。ここは知床の近く。北海道と中でも東に位置してあるところじゃぞ?」


「………え?」


 その言葉に刻は呆然とする。


 当たり前だろう。


 ほんの数時間前まで自分は新宿にいたのだ。


 それが意識を失っている間にそんなところに移動しているなんて思わないだろう。


 それにイデアの隣人に襲われた夢幻の杜のみんなの状態を知りたい刻としては一刻も早く戻りたいと思っていた。


「なにかあったようじゃの。ほれ茶でも飲みながら何が起きたのか話してみなさい。誰かに話すだけでも頭の整理になることもある」


 刻の表情になにかあると感じた剣翁は刻に事情を問う。


 刻も特に秘密にすることもないため彼にこれまでのこと、夢幻の杜に入ってから今に至るまでのことを話した。


「…なるほどのう。つまりお主はその夢幻の杜という部隊の一員で、敵に襲撃された時にお主の中にいるという人格が出て来て気がついたらここにいたと」


 刻の話が終わると、剣翁は髭を触りながら刻の話を整理していた。


「……信じられませんか?こんな荒唐無稽な話」


「いや。信じるぞ。ここで嘘をつく理由もないし、お主の澄んだ瞳を見れば嘘をついとらんことくらい分かる。そもそも今の時代、あり得ないなんてことはあり得ないからのう」


 自分で説明しておきながらもこんな話信じられるのかと不安を感じていた刻は一先ず信じてくれたことにほっとした。


「あの、僕としては今すぐにでも新宿に帰りたいのですが、どうしたらいいですか?」


 そう刻が言うと剣翁のすこし言いずらそうな表情をしていた。


 なにか刻に対して言うべきか否か葛藤しているのだろう。


 だが、近いうちに分かることであったことから剣翁はこのことを話すことにした。


「今のお主にとっては悲報なんじゃが……お主、ここから出ることが出来んぞ」


「………え?…それは……どういう」


「正確に言えば、お主の実力じゃあここら辺の領域を抜け出すことは不可能じゃ。この地には北海道でも最強格の寓話獣〈カムイ〉がいるからのう。出会った時点で逃げることすら出来ずに殺されるのがオチじゃろう」


 剣翁の言葉に刻は呆然としてしまう。


 刻としては一刻も早く新宿に帰ってみんなの無事を確認したい。


 だが、剣翁の言う事が本当なら下手したら一生、新宿に帰る事ができないと言う事なのだから。


「…あの、剣翁さんがここから僕を連れ出してくれることは出来ませんか?」


「……厳しいのう。一対一なら負けることはないのだが、守りながらとなるとのう」


「そう……ですか」


 一縷の希望を乗せて剣翁に連れ出して欲しいと頼む刻だが、剣翁はそれを受けることはなかった。


「そこで提案なんじゃが、ここで出会ったのも何かの縁。カムイと戦っても生きて逃げられるように、わしがお主を鍛えようではないか」


 剣翁はその提案に絶望の表情を浮かべている刻はバッと顔を上げる。


 刻にとってその提案は魅力的なものであった。


 先日のミーミルとの戦いでまるで相手にされなかった刻はもっと強くなりたいと思うようになっており、剣翁の言っている〈カムイ〉と戦えるように、もしくは勝てるようになれば強くなれるのではと思っていた。


 だが、それがいつまで掛かるのか分からない早く夢幻の杜のみんなに会いにいきたいと言う思いもあるためどうしようか刻の中でせめぎ合っていた。


「お主がカムイと戦っても数十分耐えれるようになれば、わしもお主を連れて札幌までは連れて行く事ができる」


 そして、その一言で刻は剣翁の提案を飲むことにした。


「………なら、その提案を飲みます。よろしくお願いします。剣翁さん」


「ハッハッハッ!そうかそうか!ならわしのことは師匠と呼びなさい」


 そう言いながら剣翁は右手を差し出す。


「は、はい。師しょ……」


「おいジジイ!いつまで掛かっている!ガキは起きたのか!?」


 刻もまた右手を差し出して握手しようとすると、突然バンッ!と扉が開かれる。


 扉の向こうから現れたのは、一人の少女だった。


 120センチほどの背丈に肩まで伸びたオニキスのような長い髪、くりくりとした眼、ぷにぷにとした頬。


 とても可愛らしい少女であったが、その表情はやんちゃ小僧のようにニヒルに笑っていた。


 そんな扉の向こうにいる少女を見て、刻は目を見開き、剣翁は呆れていた。


「静かにせんかコシンプ。さっき起きたところじゃ」


「ん?おお、起きてるのか!」


 そんな剣翁の言葉を無視して少女は刻へと近づいていき、その顔をじっと眺める。


「どれどれ…フツメンだな」


「憑くなよ」


「誰が憑くか!憑けるのは一人だけだ!」


 そんなやりとりが刻の目の前で行われていたが刻は余りの衝撃について行く事ができなかった。


「…っ寓話獣フィクート?」


 そう、刻は目の前にいる少女が寓話獣だと認識していた。


 同時に今まで見て来た寓話獣と比べ余りにも違いすぎるため、本当に寓話獣なのか確信が持てなかった。


 刻が少女を寓話獣だと思ったのはその存在が人間と違って、曖昧であったから。


 だが、少女の存在の揺らめきはよくよく感じてみないと分からないほどで、大抵の人は見逃してしまうほど弱いものだった。


 さらに目の前の少女は普通に喋っているのだ。


 それが刻が少女を寓話獣だと確信を持てない理由だ。


「なんだお前、私が寓話獣だと分かるのか!なら自己紹介しないとな!私は〈コシンプ〉!憑いた人間に悪事をもたらし、良い運命に導く精霊だ!」


 刻の呟きを聞いた少女は、盛大に胸を張りながら自己紹介をする。


 その様子はガキが必死に大人ぶっているようにしか見えないが言わぬが吉だろう。


「本当に……寓話獣なのか?」


「そうとも!私はすごい寓話獣だからな!」


「こいつのことは無視していいぞ。調子に乗るからな」


「なにをぉ〜!」


 刻は一瞬、少女が自身のことを寓話獣だと認めたことで夢幻ヴィジョンで攻撃しようとしたが、剣翁と普通に話しているのを見てその気はなくなった。


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