落日の夜空 幹部 レイナ
鳥が止まっていた
木の枝や建物の屋上にではない
空に、羽ばたくことなく止まっていた。
まるで写真を見ているかのようにその鳥は微動だにせず止まっている
視線を動かせば落ちている木の葉もまたその身を空中に止まらせていた
視点を広げていっても何一つ動いているものはいない
そんな凍った世界のなか、刻、いやカイただ一人が何事もなく動いていた。
「ああ、久しぶりの感覚だ」
姿形、声は刻となんら変わらない
だが、白と黒が反転した両目、そして、圧倒的存在感をもたらす雰囲気が彼が刻ではないという証明になっていた。
「この夢幻、想力の消費でかいな」
『以前より安定して使えているようだな』
カイの頭の中からクウが声をかける。
クウもまた脳内に直接語りかける形でカイとの意思疎通は可能であった。
「この前のは自棄になっていたからな。それに技名言わねぇとまだ安定しねぇ」
『その力は基本そんなもんだよ。技名を言ったり、陣を使わないとまずまともに使えない』
「そうか…それより、使えるか?」
『いや、《凍刻》にリソースを割きすぎている。一旦解除しないといけないな』
「そうか」
そう言いながらカイは足元にあった拳大の石を持ち上げる。
『…いいんだな』
具体的な言葉な一切ない抽象的なクウの言葉
カイはそこからクウの言いたいことをすぐに理解した
『ああ、俺たちはもう間違えない』
『…ならいい。先にここら一帯を隔離させとけ』
クウはカイのその答えを聞き、自分の中に燻っていた疑問が解消され、自分の力をカイに使わせる決心がついた。
『どれくらいいる?』
『三人。あと操られているのが二人だな』
『あれ?もう全員集まってるのか?』
『いや。おそらく誰かの天則だ。そいつからの介入を防ぐ』
『了解』
世界は再び動き始める
同時に
「《半歩離れた届かぬ故郷》」
カイは次の夢幻を形成した。
カイの周辺では何も起こったか分からないそれはさまざまな場所で影響を及ぼしていた。
〜〜〜〜〜
「アアアアアアアアァ!!!」
招き猫アジト前
髪で猫屋奏恵たちを締め付けていた上月麗美が突然再び苦しみだした。
これまで以上に血を吹き出していき、彼女の周辺に血の水たまりができるほどであった。
体がだんだん痩せ細っていくなかでも艶めいていた黒髪もだんだんそれが失われて、最終的には根本から白くなっていきその力をなくしていった。
〜〜〜〜〜
「ガアアアアアアアァ」
烏の饗祭のアジト前
鎧塚多田羅もまた上月麗美と同じく、再び苦しみ、痩せ細り、大量の流血をしながらその活動を止めた。
それは浩志に振り下ろされた千手修羅が剣を振り落とす寸前であり、間一髪のところにで多田羅が死んだことによりこの夢幻もまたその動きを止め、消滅していった。
浩志は突然のことにただ見ているだけしかできなかった。
〜〜〜〜〜
遠くでそんなことが起きているなんて知らないカイは続けざまに次の夢幻を形成する。
「《雷刻》」
カイの持っている石に幾何学模様が刻まれ、それを真上へと振り上げた。
「《妖精の悪戯》」
カイの頭上に巨大な太陽が現れる。
そう、それはヘイルムが形成した《ヴァーミリオンサンナ》であった
「俺の大切に手を出したんだ。覚悟しろよ」
そう言いながらカイは不敵に笑った
〜〜〜〜
烈火サイド
ヘイルムの形成した夢幻《ヴァーミリオンサンナ》が形成されたことによってヘイルムがこれを放てばここら辺一帯が焦土とかすこととなり、彼らは万事休すであった。
そんな時、なんの前触れもなく《ヴァーミリオンサンナ》が消えた。
「……え」
「……あれ?」
「……なんだ?」
「…………は?」
それにはこの場にいるみんなが何が起きたのか分からず呆然としていた。
特に夢幻を形成したヘイルムは一番この状況が飲み込めていなかった。
「…どういうことだ。…なぜ…なぜ俺の夢幻が消えたんだ!」
ヘイルムにとって意味がわからないことだろう。
突然消えた自分の夢幻
制限は破っていないはず
もし破っていたにしても一瞬で消えるなんてあり得ない
ヘイルムは自分の勝ちを確信していた。
だからと言って油断していたわけではない。
そんな中消えた夢幻。
彼はあり得ない事態に遭遇しその場に立ち尽くしてしまう。
そんな彼にさらなる悲劇が襲う。
「あああ!」
ヘイルムが右腕が消滅したのだ。
何が起きたのか
その答えはヘイルムの足元にあった
そこにはカイが持っていた幾何学模様の刻まれた石があった。
その石がヘイルムの足元にまるでクレーターかのように地面に埋まっており、その下には血で赤黒く染まっていた。
そう、ヘイルムの右腕はカイがあの時投げた石によって引きちぎられ、潰されたのである。
突然、それも強引に右腕を引きちぎられたヘイルムはあまりの痛さに右腕があった場所を抑え蹲っていた。
だが、ヘイルムへの悲劇はまだ終わることがなかった。
いや、運良く死ななかったからこそ悲劇は終わらなかったと言えるだろう
〜〜〜〜〜
「あらら、外れちゃったか」
カイはここから離れていてもヘイルムの状況を把握していた。
そして、次なる一手を繰り出す。
「《全てを貫く剣の舞い》」
カイは手元にある《ヴァーミリオンサンナ》はヘイルムの手元から離れたためか安定性を欠き今にも爆発しそうであった。
それをカイは剣など何も持っておらず動いてすらいないにも関わらず、何メートルもあった《ヴァーミリオンサンナ》の火球が三つに分裂された。
「生きているのならこれも返さねぇとな」
そして、それらはカイの手元から消える。
『他のやつも助けるのか』
『力の把握のためだよ。それ以上でもそれ以下でもない』
そう言っているカイであったが、その時彼は1人の女性のことを頭に浮かべていた。
クウはその情報を共有していたがあえてそれを見なかったことにした。
何も知らない者からすればそれはまるで災害のように、この一連の戦いを嘲笑うかのようにカイの手元から消えた火球は様々な場所へと影響を及ぼした。
〜〜〜〜〜
三つに分かれた火球のうち最も大きな一つは西の外界、ヒカリたちに迫っている寓話獣たちに襲いかかった。
ヘイルムが三分間熱を溜めていただけあり、八割程度でも数百匹いた寓話獣がほぼ全滅、無傷なものがいない大きなものであった。
それを見ていた紡志と巧は追いつかれると思った瞬間に彼らが燃やされたのを見て驚きのあまり呆然とし、数分後には自分たちが助かったのだと実感し安堵していた。
彼らはその後少し休憩した後外界へ向けて進んでいった。
〜〜〜〜〜
もう一つ最も小さく分かられた一つはイデアの隣人のアジト前、錦の形成した夢幻《大きな魁偉の破壊兵》へと着弾した。
それだけにとどまらず、近くにいた《小さな魅惑の傀儡兵》、そしてそれを相手にしていた硯の仲間たちにも燃え広がる。
硯の仲間たちはどうにか回避することができたが、あまりの火力に何人かは火傷を負ってしまう。
「《冴えた荒法師の懺悔》!」
さらに、硯にも火が広がっていったが、夢幻によってなんとか火の勢いを弱らすことができたため硯とその後ろにいた純は無事であった。
「っ!!なに?」
突然のことに錦は驚いてしまう。
火の夢幻なら硯の仲間にもいたが、そんな動きをしているなんてことはなかったし、自分の最大の夢幻を一瞬で燃やせるほどの実力ではないと思っている。
実はそれが間違いだったということも考えたが錦は勘でそれは違うと考え、何か自分では理解できないことが起きていると考えた。
「うーん。潮時かなー。逃げよ」
錦はこれ以上戦ってもその得体の知れない何かに攻撃される恐れがあるし、自分の夢幻は本調子になるまで時間がかかりすぎること、そしてイデアの隣人に全く思い入れがないことからその場を去ることを決めた。
錦の行動は速く、そう決断してから少し荷物を手に持ち、着の身着のままその場を去った。
錦が逃げたことを知らない純と硯は姿が見えなくなった錦の攻撃をその後数分間警戒していたがいつまで経っても何も起きないことから、彼が逃げたという結論に至り、怪我人の治療を始めたのだった。
〜〜〜〜〜
そして最後の一つ、それはヘイルムへと戻っていた。
「ぎゃあああああ!」
腕がなくなっていた彼に何も知らないでそれをすぐにどうにか出来るわけもなく体をその火に焼かれていく。
ヘイルムの手元から消えた《ヴァーミリオンサンナ》と比べるとかなり小さくなっていたが、それでも人1人を燃やすのには訳ないほどの熱量を持っていた。
しかし、初めは苦しんでいたヘイルムであったが、それもだんだんと収まっていった。
「あははは!誰だか知らないが俺に熱を与えてくれてありがとう!」
カイはヘイルムが熱を吸収を知らなかった。
そのため追い討ちのために送った火球が彼を強化するとは思っても見なかった。
それでも度重なる負傷によって体に溜め込める熱量は激減しており、今もその熱によって体を焼かれていた。
「俺はもう死ぬ!だが、一人では死なん!お前たちも巻き込んでやる!」
そう意気込んでいたヘイルム
しかし、それは無駄に終わる
「《グレイシャルベリエル》」
ヘイルムの足元に現れた陣
そこから氷が現れていきヘイルムを凍らせでいった。
初めはその身に溜めていただけ熱で溶かしていたがそれもすぐに尽きだんだんとその体を凍らせていきついには顔以外が氷に閉じ込められた。
「寂しがりなの?私はまだ生きたいの。一人で死んでちょうだい」
ヘイルムの後ろから1人の女性が歩いてくる。
肩で切り揃えた水色の髪にロングコートを着た女性であった。
「貴様はぁー!レイナ!貴様もここに来ていたのか!」
「レイナさーん!やっと来てくれた!」
彼女を見たヘイルムは怒りの表情を、テルは喜びの表情を浮かべていた。
彼女の名前はレイナ
落日の夜空の幹部の1人にして氷の自創者ある。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!」
レイナを見たヘイルムは彼女に向けて何度も暴言を吐いていく。
ヘイルムはなんとか氷を溶かそうと足掻くが、だんだんと顔も凍らされていき
「ほら、さっさと死になさい」
完全に氷に閉じ込められた。
それを見届けたレイナはテルたちの方は顔を向ける。
「ごめん遅れた」
そう言いながら瑠璃の方へと歩いていきその頭を撫でる。
「あ…あの…」
なんの前触れもなくさっき初めて会った人に頭を撫でられたことに瑠璃は警戒するまでに困惑してしまう。
「レイナさんレイナさん。初対面の人の頭をを突然撫でるのはダメですよ!」
「いつの間に」
無意識に撫でていたレイナは自分の行動に驚きながら瑠璃から手を離す。
「さっきのは誰の仕業?あなた?」
レイナの言葉が《ヴァーミリオンサンナ》が形成された後の出来事であることは誰もが分かった。
そして、この中で唯一レイナと面識のあるテルがそれに答える。
「僕たちも分からないっす。何が何だか」
だが、テル自身も何が起きていたのか何もわかっていなかった。
レイナ自身もあの出来事を見ており、彼女自身何が起きたか分かってなかったため後でリーダーに報告することを決めた。
「……そう。まあ、この話は後回しにしましょう。それより、あなた」
「俺?」
「そう俺です。最後の攻撃はあなたの意思がやったもの?」
「あ、それ僕が指示したっす」
「そう」
それを聞いたレイナはテルへと近づくと無造作に彼の頭にチョップした。
「いってぇ〜!」
それを喰らったテルは頭を抑えてうずくまる。
レイナは表情が乏しくてよく分からないから、それでも怒っていることが分かる。
「あいつが熱を吸収するのは知ってるでしょ。だから私が来たんだから。なのになんで彼に攻撃させたのよ」
「いや、あの時一番高い存在力の夢幻を形成できるのが彼だけだったっすから」
「倒すことに固執しすぎ。あの時はあいつを倒すことじゃなくて攻撃を阻止することを重視するべきだった。水や氷をばら撒くだけでも十分効果はあったはず。もっと戦術を学びなさい」
「ふぁ、ふぁい」
そうテルを叱っているレイナであったが、なぜかテルを叱りながら彼の頬をつまんで遊んでいた。
テルも周りの人もレイナが叱っていたため言い出すことができなかったが、彼らの頭の中ではハテナが浮かんでいた。
「あなたも。もっと考えて夢幻を使いなさい」
「は、はい」
「あの、レイナひゃん。ひゃんで僕のふぉふぉ(頬)をつまんでいるんしゅか?」
「…なんとなく」
レイナが叱り終わったタイミングでテルが彼女へとそう言うと彼女は不思議がりながらもテルの頬で遊び続けた。
「ぷにぷに」




