超能力者テル
「っ!!」
突然真後ろから声が聞こえて急いで身をひねることで躱したヘイルムは仕返しとばかりに後ろを振り返り殴りかかろうとしたがそこには誰もいなかった。
そして気がつくと烈火と瑠璃の隣に一人の少年がいた。
「あちゃあ。いけると思ってたんすけどね。威力より隠密優先した方がよかったっすかね」
少年はおちゃらけた態度をとっているが、奇襲が通じなかったことに僅かな悔しさが顔に滲み出ていた。
「君は…」
突然現れた少年に烈火は驚く。
初めは新たな敵かと思っていたが、ヘイルムを攻撃したこと、瑠璃が驚いていないことから烈火は彼が敵ではないと判断した。
瑠璃はここに来る前、様子見を兼ねてヘイルムと烈火を戦いを隠れて見ようとした時に少年が瞬間移動しているのを見ていたため驚くことはなかった。
「落日の夜空のテルっす!リーダーの手伝いが終わったのでこちらに加勢に来たっす!」
少年-テルは烈火の方に顔を向けながらグーサインをだした。
烈火は落日の夜空という聞いたことがないグループについて考えようとしたが、今することではないと考えることをやめた。
「お前たちがここに来ているのは聞いていた。全く姿を現さないと思ったら、それに〈テレポート〉の超能力者か」
「ノーコメントっす!」
ノーコメントといいながら嬉しそうさ胸を張るテル。
態度からして彼が〈テレポート〉の超能力者で丸わかりだ。
その態度を見てヘイルムは露骨に失望した表情をしていた。
「ああ!その顔僕が超能力者だからって舐めてるっすね!」
自慢するように誇示してしていたテルであったが、ヘイルムの超能力に対する態度が失望や舐めていること分かり怒っていた。
テルにとっては真面目に怒っているのだが、側から見ると少年っぽい見た目も相まって可愛らしい表情になっていた。
しかしそれもテルの次の言葉を聞き、そんなことを言っていられなくなった。
「夢創者はみんな超能力者を舐めてるっす!今のうちに余裕ぶっこいてろっす。夢想〈刹那交わる二者代替〉」
その瞬間テルの姿が掻き消え、ヘイルムの側に現れる。
その両手には銃が持たれていた。
他のことに意識を割かれながらも反応した、ヘイルムはテルの銃撃を避け反撃しようとするがそこにはもうテルの姿はなく、ヘイルムの反対側に移動していた。
一度同じ流れになっていたことからそれを予測していたヘイルムは先ほどの攻撃をブラフとしていたためスムーズに追撃を行うことができた。
しかし、そこにもまたテルはいなかった。
ヘイルムがそれを認識したその瞬間、彼のこめかみへとテルの撃った銃弾が着弾する。
気がつくとテルはまた違う場所からヘイルムへと発砲していた。
ヘイルム自身剛身化で存在力を高めていたためそれで死ぬことはなかったが、テルの持っていた銃もまた弾の存在力を上げていたため無傷とは行かずこめかみから出血している。
「ふふん!どうっすか。超能力は自由に使えないっすけど無意識に発動できるからこそ連発することができるっす!これで分かったっすか!超能力は決して夢幻の出来損ないじゃないっす!」
テルは自身を超能力者だからと侮っていた相手に負傷を合わせたことでかなり嬉しそうな表情をしていた。
対してヘイルムはテルに傷つけられたことについて怒っていなかった。
ただただ困惑、ありえないという思いが彼の頭に中で巡っていた。
その状態でテルの攻撃を避けて反撃してきたのだから流石であろう。
「超能力者が夢想だと?どういうことだ。夢想は個人の想いの結晶。超能力では不可能なはず……」
実は夢創者に刻まれる情報に超能力者に関するものは一切ない。
夢創者に刻まれる情報の中に夢幻の形成方法があり、存在力や夢幻の形を自由にできる代わりに一人で詳細に想像しなければならない独立観念と、ほぼ無意識に形成できるが存在力と形が決まっている大衆観念がある。
この大衆観念が超能力と酷似していることから超能力が夢幻の一種であることがほぼ確実な情報である認識されているのである。
そしてもう一つ、超能力者が夢幻を使えるという事象を彼らは見たことがなかった。
だからこそ彼らは超能力者の成り方を知らない。
わざわざなろうとする者が近くにいなかったからだ。
そして、超能力者でもかなり限定的だが夢創者同様夢幻が使えるということを彼らは知らない。
これは銃の適性を持つが夢創者としての才能に恵まれなかったテルが試行錯誤して行き着いたものである。
「超能力は楽っすよ。想力の消費も少ないし、いつ発動させるか考えるだけでいいんすから。才能がなかった僕にとってはありがたいことっす」
彼が銃に適性を持っていたというのもあるが、銃は存在力の割に攻撃力が高く、かなり存在力が上のものでもダメージを与えられるためこの武器を選んでいた。
「ああ。俺が間違っていたよ。まさか超能力者に傷をつけられるとは思ってもみなかった。お前は侮っていい存在ではない。あんたは俺の敵だ」
ここに来てヘイルムはテルの危険度を烈火よりも上げる。
今ここにいる中で彼が一番自分にとって脅威となると認識したのだ。
「だが、少し遅かったな」
それでもヘイルムにとって致命的ではない。
確かにテルはヘイルムにダメージを与えることができる。
だが、それはそこまで大きな傷ではなく、ヘイルムがわざと受けない限り到底彼を倒せるほどではなかった。
そして、一連の動きからテルの動きを予測できるようになるとさらに厳しくなる。
「それはやってみないと分からないっすよね!」
テルはまたテレポートしながらヘイルムへと攻撃していく。
しかし、やはりというべきか彼の動きに慣れてきたためか段々と当たらなくなっていた。
そして、テルへと反撃する余裕が生まれてきた時、ヘイルムに向かって水が迫ってきた。
バケツをひっくり返したような水量のそれを、ヘイルムはテルへと攻撃を優先し無視した。
だが、それは悪手だった。
ヘイルムにかかった水がみるみる凍っていき全身を凍り付かせた。
「あなたが熱を溜めているのは聞いてたから知ってるわ。だから私が冷やしてあげる」
ヘイルムに水を放ったのは瑠璃。
自身への注意が薄くかつ隙をついて彼女が放ったのはただの水ではなく過冷却水。
氷点下以下まで冷やした水であり、衝撃で凍る性質を持つ。
突然凍りついたことに驚いたヘイルムであったが、すぐに氷を溶かしていった。
そして、その隙に瑠璃は新たな夢幻を形成し、ヘイルムへと放った。
「《氷麗の静かな抱擁》」
それは先ほどだは比べ物にならないほど大きな、まるで津波なのようにヘイルムへと襲い呑み込んで行った。
そのすべての水は過冷却水であったため全て凍りつき、ヘイルムは氷の中に閉じ込められた。
「いやー。すごい規模っすね」
瑠璃のそばにテレポートしたテルがそう言った。
対して瑠璃は夢想を解除しながら息を整えていた。
「ふう。でももう想力がなくなってしまったので次は使えませんよ。あと、敵は生きてます。今のガンガン氷が溶かされてますからすぐ出てきますよ」
「いいっす、いいっす。元々一人で相手にしないといけないと思ってたっすから!」
ヘイルムが氷の中から出てくるまでの時間、テルは思いついた案を行うべく烈火へと話しかけた。
「えっーと君は、北条烈火君っすね。君に頼みたいことがあるっす」
「なんだ?」
「君には存在力の高い夢幻であいつに攻撃して欲しいっす」
「俺の夢幻は炎だからあいつには無意味だぞ」
「タイミングを考えれば大丈夫なはずっす」
「…聴こう」
「あいつが言ってたっす。『三分間しか熱を溜められない』って。だから、君にはあいつが熱を溜め終えた直後、夢幻を放つ前にありったけの存在力を込めた夢幻を放って欲しいっす。設けた制限以上熱を溜め込もうとすれば、あいつが自ら設けた制限を破ることになって夢幻は消滅、もしくは暴発すると思うっす。もし、攻撃を優先しようとしても君の攻撃をまともに喰らうことになるっすからどっちに転んでも美味しいっす」
「君の銃じゃダメなのか?」
「僕の攻撃手段はこの銃だけで攻撃力という点では乏しいっす。彼女ももう想力が尽きてるので厳しそうっす」
「…分かった」
テルの案に了承した烈火はそのまま攻撃のために意識を集中し始める。
同時にヘイルムも氷の中から溶かしながら出てきた。
見たところ目立ったダメージはないようである。
その後、テルがテレポートを繰り返しながら攻撃し、それをヘイルムが避けていく展開が続いた。
テルは先ほどとは違いヘイルムの妨害に重きを置いた立ち回りをしたためヘイルムは思うようにテルを攻めることができなかった。
そして
「時間切れだ」
ヘイルムの体の温度が急上昇していった。
その温度は足元のアスファルトを溶かすほどでありテルはその熱波で近づけず烈火の近くにテレポートしてきていた。
「今っす!」
「紅蓮火炎塵!」
烈火が時間をかけて存在力を込めた夢幻をヘイルムへとぶつけた。
ヘイルムはこれを避けることなく直撃する。
炎が燃え盛る中ヘイルムが動く気配がない。
その様子の見て彼らはやったかに思えた
だが、
「残念だったね」
燃え盛っていた炎が吸い寄せられるようにヘイルムに集まっていき、全てを吸収したヘイルムは何事もなくそこに佇んでいた。
「なんで、三分過ぎていたんじゃなかったんすか」
烈火たちは時間を測る手段を持っていなかった。
ヘイルムの動きからそれを予測しなければいけなかった。
そして、ヘイルムの体の温度が急上昇したことで三分経ち攻撃に移行したと思っていた。
そして、それはヘイルムの罠だった。
ヘイルムはこの夢幻の三分を超えた後、熱を吸収できないという問題点を把握していた。
彼らが自分を倒すならこの時に何か攻撃をしてくるだろうと予測していたし、テルの動きからそれがほぼ正しいだろうということは確信していた。
だから三分経つ直前、わざともう時間が経った風な動きをすることで彼らに時間が経ったということを誤認させた。
ヘイルムの方が一枚上手であったのだ。
そしてここにヘイルムが溜め込んだ熱を一点に集めた夢幻〈バーミリオン・サンナ〉が形成される。
まるでもう一つの太陽かのようにその夢幻は、この都市を飲み込むが如く赤く燃えていた。
「終わりだ」




