ヘイルムの実力
内界中心部
会社や役所が集まる、都市の中枢が集中した場所
そこは今地獄とかしていた。
至る所が燃えており、いつもなら多くの人で賑わっている広場には人の気配なんて全くない。
いや、いなくなったという方がいいのだろうか。
彼は新宿の政治家たちを皆殺しにした後都市へと繰り出し、建物を燃やし回り、彼に出会った市民は無差別に燃やされ、駆けつけた異能大隊の超能力者たちはなすすべなく殺されていった。
今も広場には彼らだったものの焼け跡が残っており、焦げた臭いがあたりに立ち込めている。
そんな中、白夜の夢三叉根が一人ヘイルムは広場にあるベンチに一人座り、ひとりタバコを吹かしていた。
そこに烈火が現れる。
その表情は怒りに満ちており、ヘイルムに向かって殺気を放っていた。
それでもなおヘイルムはいつもと変わらない佇まいでその場から立ち上がった。
「意外と速かったな。俺の残りの仕事はお前を殺すことだ。北条烈火」
そういいながらヘイルムは後ろにある大きな二つのビルに視線を向ける。
その二つのビルは新宿中央都市役所と異能大隊本部。
この新宿の中枢をなす重要な建物だ。
そこが今燃えている。
「あのビルの中にいた人たちはどうした」
烈火はあの建物を燃やした張本人であろう目の前にいるヘイルムに尋ねる。
あそこにはこの都市を運営していた多くの政治家、そして多くの超能力者の警備員がいたはずなのだ。
「燃やしたよ。下っ端は知らないけどふんぞりかえっていたお偉いさんはビル燃やす前に殺したから生きていないよ」
都市の中でも優秀な超能力者や銃が配備されていたはずだが、目の前の彼にとっては障害にすらならなかったのだろう。
「お前が首謀者か」
「いいや、俺は実行犯のリーダーと言ったところかな」
「そうか…ならお前を倒して首謀者とやらについて聞かせてもらう」
「まさか、俺に勝てるとでも思っているのか?俺はお前はそんなに愚かじゃないと評価していたんだが」
ヘイルムは自分に勝とうとしている烈火に対して呆れの表情を向けた。
烈火についての情報をある程度得ているヘイルムは、彼が愚かではないことは分かっていた。
夢幻極致を会得していない彼が自分に勝つことはできない。
それでも自分たちの仕事を妨げる存在になるのではと注意していたが、まさか正面からぶつかってくるとは思ってなかったのだ。
烈火もまたヘイルムに対して怒りの感情を持っているが、同時に冷静に相手の力量を測っていたため相対した時から分かっていた。
自分はヘイルムには勝てないと。
(戦ったら確実に俺が負けるだろう。……でも)
「ここで下がるという選択肢は俺にはないんでな」
自分がここに来るまでに異能大隊の超能力者たちが彼に挑んで負けたことは周りにある死体を見ればわかる。
もしまだ戦える超能力者がいても足手纏いになるだろう。
つまりヘイルムを相手にできるのは自分しかいない。
まだ住民が安全な場所まで避難しきれていないはず。
だから、そちらに意識を向けないために烈火は自分の身を犠牲にして時間を稼ごうとしていた。
「そうか、なら俺を倒してみろ英雄!夢想〈募り揺蕩う恵み〉!」
「夢想〈悪戯を燃やす白火〉!」
ヘイルムと烈火、二人の熱が広場一帯に広がっていき、そして衝突した。
〜〜〜〜〜
二人の戦いが始まって少し時間が経ち、戦いの場を広場から市街地へと移していた。
「《灼熱の針》!」
烈火が放った炎の針がヘイルムに向かって放たれる。
「《コールフラワー》」
ヘイルムは持っているライターを着火させて火を付けるとその火が一瞬で消える。
すると、彼の近くにソフトボールサイズの火の玉が形成されると《灼熱の針》へと放たれ、触れた瞬間に爆発する。
その衝撃で烈火の夢幻は消滅してしまう。
「《ヒートバースト》」
「っ!くそ!」
烈火は急いで柱の後ろへと身を隠すとそこにヘイルムの夢幻が衝突する。
火炎放射のように放たれた夢幻の威力は凄まじく、烈火の隠れている柱を半分以上を溶かしたところでその夢幻は止まった。
「《コールフラワー》」
「っ!」
烈火の目の前に火の玉が形成される。
彼は急いで避けようとしたが位置が近いこともあり爆風に煽られてしまう。
そして、そのままヘイルムの前へと戻ってきてしまう。
(時間が経つ毎に火力が上がっている。どういうことだ)
《コールフラワー》は戦い初めの時は小さな爆発しか起きず、《灼熱の針》で突き破ってそのままヘイルムに攻撃できていた。
《ヒートバースト》も初めは簡単に相殺ができており、烈火の有利に進んでいた。
だが、時間が経つ毎にヘイルムの火力が上がっていき、今となっては《コールフラワー》は《灼熱の針》と簡単に相殺され、《ヒートバースト》は避けるしかなく、今となっては防戦一方となっていた。
「やっとあったまってきた」
「どうなってやがる」
初めは存在力を引き上げているだけと考え、早いうちに想力が尽きると思っていた烈火であったが、一向に想力が尽きる様子のなく、それどころか調子が良くなっていくヘイルムを見て焦りの表情を浮かべていた。
「なにか策があるのかと思ったが、自己を犠牲にした囮だとは。よほど俺を都市から離したいか。…まあいいか。………夢幻極致〈後番ノ陽炎〉」
「っ!?《紅火炎塵》!」
烈火は何か分からないがヘイルムがやったことが自分にとって最悪なことであると感じ、彼に向かって最大火力の夢幻をぶつけた。
「無駄だ。もうお前の炎は効かない」
しかし、ヘイルムには一切効いてなかった。
「なんだその存在力は」
「夢幻極致。夢想の一歩先にある能力だ」
烈火は初めて感じる巨大な存在力に目を見張っていた。
「俺とお前、同じ【炎】の適性を持っているが方向性はまるで違うな。お前は炎の熱さに重点を置いているようだが、俺は熱として捉えている」
ヘイルムは両手の掌に炎を形成する。
右手の炎がゴウゴウと激しく燃えているのに対し、左手の炎は静かにゆらゆらと燃えていた。
この二つと炎は烈火とヘイルムの夢幻を表しているのだろう。
「夢創者として大切な事はなんだと思う?イメージ力か?精神力か?…俺は想力の量だと思っている。だってそうだろ?どれだけ正確にイメージできても、どれだけ強力な精神を持っていたとしても、それを現実に、この世界に定着させるためには想力が必要だ。……そして、この想力はほとんど伸ばすことができない。…俺はな、その想力が少ないんだよ。だから、極力想力を使わないよう工夫にしてきた。炎ってのは総じて高い熱を持っている。そして、この世の全てのものは熱を持っている。氷でさえも低いながら熱を持つ。俺はなその熱を利用して夢幻を使っている。このライターのようにな」
ヘイルムは両手の炎を消した後、ライターに火を付ける。
そして、その火が消えると同時に反対側に手のひらに火が形成される。
「この夢幻は周りから熱を集めて自分の体に溜め込み、炎として形成している。だから、俺は熱を放出してくれる炎に適性を持つお前との相性は抜群にいいんだ。…そして、今から俺は全力で熱を溜めたあと一点に集めて放出する」
「っ!」
「《バーミリオン・サンナ》。『相手に説明する』『三分だけしか熱を溜め込めない』ことを条件とした夢幻だ。一度解き放てばここら一帯火の海どこらの騒ぎじゃなくなるだろうな。さて、今から三分間、お前はどう足掻く?」
「……神になったつもりか」
「なに、気取ってるだけさ。まあ気にせず攻撃してきてもいいぞ」
烈火は顔を顰めていた。
止めようにも攻撃しようものなら自分攻撃によって相手の火力が上がってしまい相手に塩を送ってしまうことになってしまうからだ。
周りの熱を利用しているとヘイルムは言っていた。
そんな話は嘘だと決めつけたかったが、改めて周りをよく見てみると熱気が全くないのことに気づいたのだ。
炎の夢創者同士の戦いであったため、自ずと周りの温度も上がっていくはず。
なのに感じる温度はいたって平温、むしろ少し肌寒いくらいなのだ。
そのことがヘイルムが周りの熱を利用していることの証明になっていた。
(どうすればいい)
自分が炎の夢幻で攻撃すれば逆効果になり、炎以外の夢幻で攻撃しようにも適正ではないため高が知れているし、そんな攻撃でヘイルムを止められるとは思えなかった。
それに、ヘイルムは自分が何もしなくても周りから熱を集めることができる。
八方塞がり
烈火がそう思っていた時
「あら、なら遠慮なく」
ヘイルムに向かって水の夢幻が放たれる。
ヘイルムにとって痛くもない攻撃であったが、体にかかった水が溜めている熱を冷やしていき、放出されていく。
いくら夢幻で熱を集めることができると言っても物理現象は無視できない。
「誰だ」
僅かながらも溜めていた熱を霧散させられたため怒りの表情を浮かべながらヘイルムは声のした方向へと意識を向ける。
烈火とヘイルムのある道と繋がっている横の路地、そこに一人の女性がいた。
西園寺瑠璃である。
「……君は」
「お久しぶりです。烈火さん」
烈火は瑠璃の登場に目を見開く。
瑠璃は第一異能学園でも優秀な生徒であり、夢創者を探すために何回か足を運んだ時に面識のあったため、烈火は彼女のことを知っていたのだ。
彼の今の思考はなぜ彼女がここにいる、であろう。
彼女は〈ハイドロキネシス〉の超能力者だと聞いており、炎の自分よりもヘイルムに対しては有効であるはずである。
だが、どれだけ相性が良かったとしても文字通り焼け石に水。
超能力者が夢創者に勝てるはずがない。
「瑠璃さん。君じゃ相手にならない!早く逃げなさい!」
だから烈火は瑠璃に向かって逃げるように声を上げた。
しかし、瑠璃は逃げることなく烈火の方に近づいてきた。
「いいえ、私も戦います。それに、……夢想〈秀麗流れる白滝〉」
「っ!!」
瑠璃の存在力が上昇する。
それはハッタリではなく、正真正銘瑠璃が夢想を発動している証であった。
「私は夢想を会得した水の自創者ですから炎の自創者とは相性いいですよ」
瑠璃は烈火に微笑みかけた。
〈バーミリオンサンナ〉
もう一つの太陽を作り出すことを目的として作り出された夢幻。
ヘイルムの体に熱を溜め込めると言っても、当然熱の影響は彼自身も受けているが剛身化で耐えている。
元々全力で熱を吸収すると三分ほどで剛身化きても耐え切れなくなるほど熱が溜まるのだが、わざわざ三分という時間制限を設けることでさらに存在力を底上げしている。
許容量ギリギリの上さらに制限解釈によって存在力を引き上げれば、普通ならヘイルム自身が耐えられないが、熱を吸収している段階では〈バーミリオンサンナ〉ではないとヘイルムが認識しており、熱を一点に集めた時に存在力が上乗せされるため彼は耐えることができている。




