寓話獣の侵攻
こんなに遅くなってほんとーーにすみません!
ちょっとリアルが忙しかったのもありますが、少し執筆に飽きが来ていたので離れてました!
ヒカリに向かって放たれた《強酸水》
それが突然現れた布に包まれる。
そして、その中で《強酸水》が消滅したことを三水は知覚した。
「……なんだ?…っ!!」
自分の夢幻を無効化した布、そして、目の前で立ち上がろうとしている紡志に目を向けていた三水は、嫌な気配を感じてすぐにその場から移動する。
「ちっ!惜しい」
三水は意識を向けるとそこには悪態をついている巧がいた。
三水は突然上がった存在力、そして二人の表情から、二人とも夢想を会得したことを悟る。
「まじかよ」
三水はげんなりとした表情をした。
強者のいない楽な仕事だと思っていたのに急に二人が夢想を会得したのだ。
勘弁して欲しいというのが彼の本音であった。
「《強酸溜まり》」
一先ず先ほどまで夢幻が使えなくなっており、想力が満タンのはずの紡志に向かって夢幻を放つ。
それはかなりの広範囲に広がり、ヒカリを巻き込む形で夢幻を放たれていた。
紡志の性格を考えて、ヒカリを見捨てる事なく迎撃するはず。
さっきの夢幻から紡志が布系統に適性があると見当をつけた三水は自分の酸と相性が悪い夢幻だと迎撃できたとしても想力をかなり消費と考えた。
「《封幻布》」
しかし、紡志の形成した布によって酸を一滴も余すことなくその布で包み込んだ。
「なに?」
三水は布から感じた存在力からしてその程度では無駄だと思っていた。
しかし、その想いに反して包み込まれた三水の夢幻は跡形もなく消滅する。
紡志が形成したのはただの布ではなく物を包み持ち運んだり収納したりする風呂敷。
それを拡大解釈によって風呂敷の包む対象を夢幻にまで広げた夢幻が《封幻布》である。
そして、これは紡志も想定していなかったことであるが、この布に包まれた夢幻は維持、操作するためのパスが途切れることによって夢幻が消滅するのだ。
(さっきの時は驚いて自分で消したのだと思っていたが……あの大きさも包み込めるとなると厄介だぞ。……だが)
「《強酸散弾》」
三水の周囲に数十個もの酸の塊が形成される。
「さっきの君の夢幻、包まないと消滅させられないよね」
一斉にではなく時間差をつけながら紡志たちに向かって放たれた。
三水の言う通り《封幻布》は風呂敷を拡大解釈して形成した夢幻であるため『包む』というプロセスが必要となる。
そして、紡志は夢想を会得したばかりであり、夢想をそこまで使いこなせていないため、封幻布も一枚しか形成することができない。
確かに三水のように持続的な攻撃とは相性が悪い。
だが、それは紡志が《封幻布》しか形成できないという前提がつく。
「《目醒めの暗幕》」
紡志の目の前に大きな一枚の黒い布が形成される。
はたから見ればたった一枚の薄っぺらい布で防げるはずがない。
しかし、紡志の形成したこの夢幻は雨のように浴びせられた三水の攻撃を全て防ぎ切った。
《目醒めの暗幕》
紡志が自身からは攻撃しないことを条件として存在力を上昇させた夢幻。
その存在力は三水の攻撃を完全に無効化するほどであった。
ただひたすらに相手の夢幻をいなし、無効化する。
言うなれば紡志は夢想によって防御型に分類できる夢幻へと変化していた。
外界にも数は少ないが防御型と呼べる夢創者はいるため三水は紡志の夢幻が防御型だという事は察することができた。
そして防御型の特性も
(防御型はとにかく硬い)
防御型はとにかく夢幻、特に剛身化によって身体に込められる存在力がおそろしく高い。
防御型は剛身化との親和性が高いというのもあるが、大抵が相手に何も攻撃できない関係の制限解釈をしており、これらは基本強力な制限であるため他の夢創者と比べて存在力が高いのだ。
自分が攻撃される事はないが、こちらも相手にダメージを与えることができない。
とにかく防御型が相手だと短期決戦ができないのだ。
(どうする?防御型の夢創者を崩すとなるとこちらの消耗も無視できない………なら)
そう三水が思考していた時、気配を感じてその場から移動すると、先程まで三水がいた場所に水浸しになった。
三水はその攻撃を仕掛けた巧へと意識を向ける。
「今更ながら俺は過去に固執していたらしい」
巧はこれまで形成した毒を念力に混ぜ込んで使ってきた。
しかし、今の攻撃は毒をそのまま操作して三水に放った。
なぜ今まではわざわざ念力に練り込んで操作していたのか。
それは毒を操作するなんて非現実的な分かりやすくイメージするために念力の方がやりやすかったというのもある。
だが、第一に巧にとっては毒という夢幻を単体で使いたくなかったのだ。
巧は毒という夢幻があまり好きではなかった。
攻撃力がないという理由で毒の夢幻を使わないようにしていた。
嫌でも自分があいつの息子だと自覚させられるから。
だから、少しでも父親とは違うということを言い聞かせるように念力を使い続けていた。
でももうそんな事はどうでもいい。
初めて自分の真の友達になってくれるかもしれない人、ありのままの自分を曝け出してもいいと思える人たち、彼らがピンチになっているのなら、喜んで俺は毒を使おう。
「申し訳ないけど君の一人語りを聞く気はない…よっと!」
巧の話を聞く気がないとばかりに三水は《強酸溜まり》を巧に向かって放つ。
殺さないように手加減しているとはいえ当たれば皮膚が激しく爛れるほどの酸。
巧はこの攻撃を前にして動こうとしない。
「《強アルカリ水》」
巧の放った夢幻が三水の夢幻とぶつかり大部分は巧に当たらなかったが、完全には阻止できなかったのか多少はかかっしまう。
三水の酸がかかった部分の皮膚がひどく爛れるかに思えた。
だが、巧の皮膚が爛れる事はなかった。
(剛身化で耐えた?いや、俺の酸を中性化したのか!)
巧が形成したのはただの水ではなく強力なアルカリ性の水。
そして、三水の形成した酸はもちろん酸性である。
その二つが混じり合ったという事はお互いが反応して中性化されるのが道理である。
「なあ、気になっていたんだが……なんであの時俺の攻撃を避けなかった。避けれただろ?」
三水はそれにぴくっと反応する。
彼が思い出したのは少し前、夢想を会得する前の巧の毒を真正面から受けても無傷だったところである。
「酸と毒って似てるよな。俺があんたの酸を中性化できるんだからなあ。……じゃあさ、お前も俺の毒を無毒化することができるよな」
三水は何も反応しなかった、いや、できなかった。
巧はあの時、自分の夢幻が効かないと分かった時点でヒカリの足を引っ張らないためすぐに土の夢幻に切り替えていた。
でも、今考えてみればおかしいことがあることに巧は気づいた。
「今思えばさぁ、気になっていたことがあるんだ。俺は毒を液体として形成する。だから、俺の攻撃が当たったのなら濡れているはずなんだ。…なのにお前は濡れていなかった」
そこまで聞いて、三水は巧が完全に気づいていることを確信した。
そして巧もまた三水の反応から自分の考えが正しいと確信する。
「お前、俺の毒効くだろ」
三水は巧の毒の存在力が低いことを知覚していた。
さらに、夢想を発動したことによって剛身化はしているため巧の夢幻はほとんど効かなかった。
だが、ゼロではない。
三水は剛身化をまだ使いこなせておらず、その存在力を変化させる事はできない。
そして、毒という性質上、多少の効き目でも手足の軽い痺れ持続的に続くことは予想できた。
それだとその後の動きに支障が出てしまうためできれば喰らいたくなかった。
でも、巧の攻撃だけ執拗に避けていれば相手に自分の欠点がバレてしまう。
だから三水はわざと喰らったかのように見せかけて、自分の夢幻によって無毒化し、いくら攻撃しても無駄だと巧に思い込ませた。
だが、それも今見破られた。
「《不可視の痺毒竜・一首》」
巧が形成した毒が一頭の竜をかたどっていき、そのまま三水へと突っ込んで行く。
念力に回していた存在力、そして夢想を会得したことによって上昇した存在力によって三水にとって十分に脅威となる存在となっていた。
「ああーもう!やりにくいなぁ!《青酸の月》!」
三水の手のひらにバスケットボールサイズの青い酸が形成され、巧の痺毒竜へと放たれる。
両者は一瞬拮抗するが、徐々に三水の夢幻が押していく。
巧はさらに存在力を込めることで再び拮抗状態に戻り、そのまま二つの夢幻は消滅していった。
巧はこの攻撃で残りの想力を使い果たしてしまい息も絶え絶えの状態であった。
「成り立てとはいえ夢想会得者三人を相手にするのはきついからな。ここで退避させてもらうよ」
目下三水にとって一番の障害だと思っていたヒカリは未だ気絶しているため問題ない。
巧もさっきの夢幻によって想力を使い果たしたのが息を荒くしながら片膝を地面につけている。
紡志の想力はまだ残っているが防御型であることを考慮して、微かに感じ取った気配からもうそろそろ来るであろう寓話獣に任せても問題ないと三水は結論づけた。
「君たちの始末は寓話獣に任せると……………え?」
だが、その選択は少しばかり遅かったようだ。
『キュキュ』
三水は突然激しく動き回る視界に驚きながらも、その動きが止まり視界に入ったのは首から上がない自分の体と一匹のイタチであった。
そのイタチは胴体は普通であったが、その鞭のようにしなる尻尾は胴よりも長く、刃物のように鋭く尖っていた。
寓話獣〈鎌鼬〉
それが三水の首を切ったものの正体である。
(うそだろ。早すぎる)
三水はなぜここまで近づかれて気づかなかったのか疑問に思った。
その疑問もすぐに解消されることとなる。
『『『『コンッ』』』』
何もない空間からまるで霧が晴れるかのように数多もの寓話獣が続々と姿を現していく。
そこには三水の首を切った個体以外の鎌鼬、大鬼、虎狼狸、水虎など多くの寓話獣がいた。
そしてその先頭にいる何匹もの狐の寓話獣〈妖狐〉
狐の妖怪として語られる存在であり、その特徴の一つとして幻術という人々を欺く術があると言われており、もちろん寓話獣〈妖狐〉もこれを使うことができる。
今回は自分と周辺の寓話獣の姿と存在力を隠蔽するためにこの幻術を使っていたのだ。
だから三水は寓話獣たちがここまで近づいてきているなんて思ってなかったのである。
(く…そが……)
それが三水の最後の思考であった。
〜〜〜〜〜
敵であった三水が死んだが、紡志たちは安心することができなかった。
「巧!動けそう!?」
「はあはあ……すまん。厳しそうだ」
紡志は寓話獣の一体一体が今日戦った寓話獣よりも強い存在感を放っていることを感じていた。
ヒカリも巧も動けない現状、彼らを守りながら寓話獣たちと戦っても負けるのは明らかだ。
そのため残る選択肢はこの場から逃げること。
紡志の布を使えばヒカリと巧を運びながら移動する事はできる。
だが、追いつかれる事は火を見るより明らかであった。




