白夜の夢の目的
「目的?」
「まず……寓話獣と宵がどうやって生まれたのかは分かっていますか?」
「まぁ、大体の推測はできている。夢幻と似たようなものだろ?」
この場にいる4人に代表して浩志が答える。
寓話獣と宵が夢幻と似ていることは夢創者ならばほとんどの人が察しがつく。
もちろんこの場にいる他の3人もそのような事は推測していた。
「ええ。なら、こういう考えを思いつく人もいるのではないですか?………寓話獣や宵が人為的に創れるのではないかと」
「っ!!まさか!!」
奏恵が勢いよく立ち上がる。
その衝撃で椅子が倒れてしまうが誰も気にしない。
それほどまでに4人の顔は驚きに満ちていた。
奏恵たちも多少考えた事はある。
寓話獣を創ることはできないのか。
そうすれば寓話獣や宵のこともある程度分かり、自分たちの危険を減らせるのではないかと。
だが、すぐに無理だという結論に至った。
寓話獣と夢幻はあくまで似ているというだけで同じではない。
やろうとしても寓話獣の不完全体だと考えられている宵すら創れないのだ。
加えて新宿の外界では以前、獣創者が自我に呑まれて暴れ回った過去があるため、生物に関する夢幻は慎重になっている。
だからこそ、出来ないと考えていた。
だが、もしそのようなことが可能なのだだとしたら。
「最強の寓話獣、三王すら超える存在を創り出し、我が物とすることでこの世界を支配する。それが白夜の夢の目的です」
「……そんなことできるの?」
奏恵はそう尋ねた。
寓話獣を創る、そんなことを考えているのならできるという確信がないとそんなことを目的にしないと考えたからだ。
「そこまで簡単な話ではありません。奴らもそのために数年もの時間を掛けているのですから。ですが、ある一定の条件さえ揃えば、おそらく可能です」
「一定の条件っていうのは?」
「…全ては分かっていませんが、私たちが把握している条件は一つ……寓話獣を創る為の器、生贄が必要なことです。誰でもいいというわけではないようですが、生贄となる人の目星はつけているようです。正直、もう時間がありません」
「……生贄…だと?」
浩志には『生贄』という単語が途轍もなく聞き覚えがあったのだ。
正確には少し前に烈火が連れてきた狐月凛が贄と呼ばれていたことを浩志は知っていた。
今回の話と凛が結びついたのは至極当然であろう。
「おや、何か知っているのですか?」
浩志の反応に何か知っているのではないかと考えた『I』が浩志に尋ねる。
「この前白夜の夢が『生贄』と呼んでいた少女に会ったことがある」
「本当ですか!!彼女は無事ですか!?」
Iはこれまでで一番表情が変化させ、驚きながら浩志に詰め寄った。
「…知っているのか」
浩志はIがここまで劇的に反応するとは思っていなかったが、彼が『彼女』と言っていたことから狐月凛のことを知っていることを察した。
「…ええ、知っていますよ」
「ならなんで保護なり一緒に行動なりしない。その方が安全だろ」
知っているのならそのように思うのは当然だろう。
彼女は白夜の夢に狙われているにもかかわらず白夜の夢と敵対している落日の夜空と一緒にいないのが気になることだろう。
「いやー。落日の夜空も彼女から敵視されてましてね」
「なんでだ?」
「……申し訳ありませんがノーコメントとさせて頂きます」
「……そうか」
Iは悲しそうな顔を浮かべ自嘲するように言った。
浩志も踏み入ってほしくない話なのだと理解し、そこで話を切る。
「横から悪いけど、その子って強いの?」
さっきまで黙っていた奏恵がその―白夜の夢が追いかけている少女を一人にしても問題ないのかを尋ねる。
「かなり強いですよ。何年も白夜の夢の刺客を単騎で退け続けていますし」
「なら問題ないんじゃないの。彼女の方が強いんでしょう?そのうち諦めるんじゃない?」
もし白夜の夢に捕まる可能性があるのなら強引にでも保護した方がいいのではないかと考えていたが、何年も一人で退けてきたのならそこまで問題ではない。
むしろ、何年間も捕まらないのなら白夜の夢も諦めるのではないかとさえ思っていた。
「白夜の夢の執念を甘くみない方がいいですよ。たった一人の、あくまで可能性があるという少女に対して白夜の夢のリーダー、副リーダーが海を渡って追いかけてきたのですから」
「ちょっと待ちなさいな、海を渡ってきたってことは……」
「それにリーダー、副リーダーって」
「ええ。白夜の夢も落日の夜空も発端は海外です。…気をつけた方がいいですよ。リーダー、副リーダーの二人ともここにいる皆さんより遥かに強いです」
白夜の夢と落日の夜空が海外のグループである。
その事実が4人にとって大きな衝撃だった。
新宿の外から来たというのは分かっていた。
しかし、日本の他の都市から来たのだと思っていた。
普通に考えてそうとしか思えないのだ。
空想侵略により都市間での移動などほとんど不可能となった今、夢幻を会得した者しかまともに移動できないくらい外は厳しい環境になっていた。
そんな中、海外―島国の日本に来たという事は海を渡ってきたということになる。
もちろん海にも寓話獣はいる。
そのため碌に動くこともできない船に乗りながら寓話獣を退けないといけないのだ。
誰が予想できようか。
だが、改めてIを見ると確かに日本人らしくない髪色と顔立ちが彼らが海外から来たということの証拠になっていた。
「…それは聞き捨てならない」
「俺たちはこれでもこの都市でトップクラスに強いんだがな」
純は両手足を獣に一瞬で変形させて近づき、Iの喉元に爪を突きつけていた。
浩志は床や机から剣山を生み出しIの周辺を囲っていた。
確かに驚いた。
あり得ないと思った。
それよりも、自分たちが負ける、つまり弱いと言われたことは我慢ならなかった。
新宿最強と言われていた伊神新内程ではないが、ここにいる4人は新宿の外界でもトップクラスの強者である。
自分たちは強いという自負がある。
もちろん全員夢想を会得している。
特に純と浩志の二人は強さに対する想いから夢想を会得しているのだ。
だからこそ、自分たちの夢幻も知らないのに負けると言われるのは納得できなかった。
「ほう、すごく存在力が高いですね。それに安定している」
だが、Iはこのような状況下でも一切焦らなかった。
むしろ彼らの夢幻を見て感嘆する余裕さえあった。
二人の夢幻は存在力の安定性、生成のスピード、無駄のなさ、どれを取っても高水準であった。
「ですが」
「っ!!下!」
「樹木の根か!いつの間に」
それでもIにとって敵たりえない。
床を突き破るようにして数本の木の根が現れた。
その一本一本の根の太さは人一人が両腕で囲めないほど大きなものであった。
純は奏恵を守るために一旦引いて爪で引き裂こうとし、浩志は刀を生成して木の根を切ろうとする。
だが
「かっったい!」
「切れないだと?」
表面を傷つけるだけで全く切れる気配がなかった。
普通爪や刀で木を傷つけることすらできない。
それができるのは二人の存在力が現実の物質よりも高いからだ。
そして二人の夢幻の存在力は並大抵のものではない。
それなのに切れないのだ。
Iの夢幻で形成した木の根はかなりの存在力であると言える。
「足りないのですよ。奴らの夢幻はあなたたちの上の次元にいる。もちろん私もね。あなたたちなら理解しているはずです。まだ自分たちの夢幻には先があると」
彼らは理解していた。
まだ夢幻には、夢想には先があると漠然にではあるが感じていた。
訓練をした、色々と試行錯誤をした、だが届かなかった。
その先にIは立っている。
その事を先ほどの攻防で彼らは思い知った。
「ねぇ、海外にはあなたたちと同じくらいの実力の夢創者がたくさんいるの?」
さっきまでの攻防を眺めていた奏恵は一つ疑問に思ったことがあった。
それはIのレベルが海外では普通なのかということ。
「いえ、大体あなたたちと同じくらいの実力者が多いですね。白夜の夢は夢幻の存在力を引き上げる方法があるから強いんです」
「……なんですって?」
「……なに?」
「ああ、自分たちも実践しようなんて思わない方がいいですよ。高確率で精神を壊しますし、命を削りますから」
夢幻の存在力を引き上げる方法があると聞き、その情報を知れば自分たちの戦力を上げられると興味が湧くが、Iが言ったリスクが大きすぎるためすぐに興味を失った。
「……それにしても、こんな環境でよくここまで夢幻を鍛えたものですね」
「どういうこと?」
「この都市は特殊過ぎます。内界でしたっけ。まさか超能力すらまともに扱えないなんて…よく今まで生きていられましたね。ここまで戦力の差があるなんて滅多にないですよ。…それに新宿、あまりにも寓話獣の侵攻の頻度も少ないですしあまり強い寓話獣が来ませんからね」




