日常の青
世界中に広がるこの大きな青空。その海に泳ぐ白い雲という魚。日本じゃ白く気持ちよさそうに泳いでいるこの魚も世界の何処かでは黒く、死んでいるかのように浮いているのだろう。そう考えると日本というこの平和な空間は満更でもないのかもしれない。逆に考えると平和過ぎるのも問題か。そんなことはどうでもいいか。
現代国語の教諭が熱い授業を生徒たちが嫌になるくらい行っている中、春麗らかな風が明いた窓から流れ込んでくる。その風を肌に感じつつ、帝は何も考えず、ただ青空を見上げていた。
中々教諭は黒板を書こうとはしない。ただ、拳を握りしめ、熱弁している。そのせいか、生徒たちはやりたい放題やっている。ゲームをする者、手紙を交換する者、居眠りを始める者、国語とは全く関係のないことをしている者、一番端にいる帝からは全て見えていた。ただ、横は見ることはできないが。
(なぁ、帝。次なんだっけ)
智貴が教諭ところか隣にいる帝に聞こえるかも怪しい声でたずねる。
すると、帝はノートの端をちぎり、何かを書き始める。その紙を教諭が見えない位置を考え、見せる。
"数学"
その二文字は智貴を潰すのには十分だった。
見たくないと、首を紙からそらす。「そらみろ」。呆れたように溜息をつき、また青空を見上げる。
それを見ていたのは、眼鏡が光り、その顔が見えない亮だった。
ブリッジを指であげ、睨みつけるとまた黒板に目を向けた。
そして帝を見ているのが明日華である。不服そうに頬を膨らませ、亮と同じく黒板に目を向けた。
授業終了の鐘がなる。
それと同時に大半の生徒が教室をうろつく。それでもまだ熱弁している教諭を5~6人の生徒が廊下へと追い出す。廊下の端へと追いやられても教諭は熱弁している。これはこれで教師の鏡か。
「先生、邪魔」
生徒が嫌悪している。やはりだめか。
帝の席には常に人がいる。彼だけではなく、必ず誰かが彼のそばにいるのだ。今回は彼を含め3人。
名前だけは立派な人。ゲーマー。天真爛漫小僧。
その手にはゲーム機が握られていた。
「どうする? 続きやるか?」
「どうせもうすぐ死ぬだろ」
「つか、あとは一人だろ」
結局、某ゲーム会社の狩りゲームの相談である。
「砦蟹は完了するし、何行く?」
「ひとりで行け。俺は天鱗が足りないんだ」
「あっそ、さすがはゲーマー。帝~何行く?」
「トイレ」
「トイレ?そんなクエあったっけ?」
「リアルだボケ」
「ちぇ、いってら~」
ゲーマーと馬鹿をほっといて、帝は教室を後にする。
この学園の廊下は長い。学校の敷地が長方形のせいか横に校舎が伸びている。
無論廊下に接するトイレも遠い。そのため、他のクラスメイトとの交流も深い。
人見知りしがちな帝でも交流がある。
そう、同級生ならまだいい。しかし、帝たちの教室から一番近いのは3年生の教室前。
上級生徒の面会だ。
「よう! 御前! ひさしぶり」
「お久しぶりです。元気でしたか先輩」
「元気元気!! 元気すぎて逮捕されそうになっちまった!」
威勢のいい上級生は満面の笑みで頭をかいている。
この上級生。中学のころは大層名のある不良だったが、中学1年時の帝にぼこぼこにされ、それ以来帝には頭が上がらないのである。しかし、帝は見下すことなく先輩として扱っている。
「むちゃは厳禁ですよ。あなた喧嘩で捕まったことあるんですから」
「いやはや、あんときはもうだめかと。御前がいたから助かったんだよな~」
「そうでしたっけ? 覚えてません」
そのまま、我慢の限界に近いトイレへと直行するのだった。
そうして、トイレから帰ってきたとき教室は戦場だった。
飛び交う暴言と教科書。その中で意気揚々とゲームをし続ける眼鏡。そう、明日香と智貴の喧嘩である。ぼこぼこにされて懲りてはいるはずだが、たまにこうなる。
「なにがあった?」
「・・・・よくわからん」
飛んでくる教科書が帝の頭に激突する。その瞬間、暴言も教科書も飛ばなくなったが、教室は冷気と恐怖が漂っていた。
「み、帝?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その沈黙の長さは恐怖をあげるのに十分すぎるほどだった。
その後、明日香と智貴は休み時間めいいっぱい帝に怒られるのであった。
数学の授業の最中、堂々といびきをかいているものが約一名。チョークを握りしめ、怒りのパラメーターとして教卓の上にはすでに5本のチョークが折られていた。何度起こそうと、その人物は1分後には机の上につぶれていた。
「鈴木ぃ~・・・・・いい加減にしないと先生キレるぞ~」
「zzzzzz」
「す~ず~きぁ~!!!! いい加減にしないか!! 今は授業中だ!! 睡眠なら別の授業にせんか!!」
「zzzzz・・・・それはむり」
この神がかった寝言には流石に限界突破なされたようで、拳は真っ赤に燃えてその怒りの炎を大炎上させていた。そうこれこそ!
「まさか!ゴット・フィ●ガー!!」
「指でしょそれ」
「突っ込みどころが多すぎて話にならん」
そして、数学教師の手には銀色に光るシルバーが・・・。
「ちょっ、先生! それはまずいって!!」
「死ねぇ! 鈴木!!」
一直線に智貴に向かうナイフとフォーク。
しかし、智貴は机の上で頭だけで寝返りを打つという神がかった摩訶不思議行動で全てをよけた。
さすがの教諭も拍手を送っていた。
「・・・・いや、起きろよ馬鹿」
冷静な帝の声は拍手喝采の中へとかき消されていた。