青空の空
私立暁学園。創立35年。男女共学3年生。延700人近くの生徒が通う名門ではない進学校。
地元の中学から遠い県からはたまた外国の子までいくつもの人種、個性を持った生徒が通っている。
珍しく、けやき通りの段丘をのぼり、町の中心で全体を見渡せるところに暁学園は建っている。西洋の趣を感じさせる校門に、堂々と構える本館。レンガ造りの壁には傷や汚れが時代を感じさせる。学校敷地内には本館、別館、体育館、グラウンド、図書館、礼拝堂まであるキリシタン信教が感じられ、礼拝堂にはパイプオルガンまでもが存在する無駄に金のかかった学園である。生徒たちはきっちりとした制服を身に纏い、礼儀正しく登校する、のだ、が・・・・。
「やっべー!! 間に合うか!!」
「間に合わせる!!」
「・・・・」
ここに礼儀も何もない生徒3人組が勢いよく校門めがけ突進する。
「おはよう、春野さん」
「うん! おはよう!!」
華奢な身体付きで、スカートをひらつかせ、手を振りつつ、駆け足で校門に入る。
彼女の名は、春野明日華。暁学園の2年生。真面目で、明るい、リーダー的存在。赤みがかかった髪は短く切りそろえられ、身体は細身で、可憐が似合う女の子。
「おい! ちょっと待てって!!」
「あんたが遅いのが悪い!!」
明日華に怒られているのが鈴木智貴。マイペースで能天気、ただ判断力がとても優れ、信頼されてはいるが、普段がおとぼけてるので、基本馬鹿にされている。単髪の男の子。
「まぁまぁ、焦るなって。ここまで来たら焦ることもないだろ」
落ち着いているのがこの作品の主人公、御前帝。大層な名前の持ち主だが、お偉いさんの息子でもなく、貴族の子孫でもない。ただ名前がすごいだけなのである。冷静だが熱血漢。涙もろい部分も多いが、不真面目でめんどくさがりや。そしてなにより喧嘩っ早い。
「なのね!急がないとだめって言ったの帝だよ!! 今は何でそんなに落ち着いてるの!!」
「なんでって・・・間に合うから」
「あっそ。なんかもうどうでもよくなってきたなコイツ」
「流石は明日華。よくわかってるじゃないか」
「解りたくもない!!」
いつもの日常がこれなのである。
普段ゆっくりしているのが帝で、明日華がなんでも仕切り、苦労しているのは智貴で、智貴はいつも泣かされそうになっている。なんで、このようになっているかと言うと、幼いころ智貴は明日華に喧嘩を売りぼこぼこにされて、それ以来、明日華には歯向かわないようにしているのだという。それを超えるのが帝である。帝は若干半不良で、不良たちに絡まれ、こちらもぼこぼこにした・・・という噂だ。実際は誰も知らない。
「でもまぁ、間に合うならいいんじゃない?」
「そうだけど・・・いい! 健全な生徒であるものきちんとした生活を送るべし!!」
「「なにそれ?」」
急に止まり、ニ人に指差して意気込む。無論、二人は止まるのだが、意味がわからずにただ立っているだけ。その顔に明日華は若干呆れ気味に説明する。
「何って・・・生徒手帳に書いてあるじゃない。生徒心得18の第3条よ。知らなかったの?ああ~そっか。あんたたちって生徒手帳見ないもんね~。いやいや実際持ち歩いてるのかさえ疑うくらいだからね~。・・・・で、知ってた?」
「知らなくても何も支障はないだろ?」
「まぁね」
「ならよし。第一生徒手帳なんてものは証明書だろ?資格でも何でもない証明なんてただの紙切れ同然だよ。そんな証明なんて一つあれば他はいらなくなるだろ?この学校には学生書があるんだから、生徒手帳なんてそれを保管するものになり下がったくだらないものだよ」
まさかの発言に明日華と智貴は顔を見合わせ、溜息を洩らす。
「帝・・・・あんた何気に学校に喧嘩売ってない?」
「失敬な。学校に喧嘩売ったら誰と喧嘩すればいい?第一それは俺に圧倒的不利だ。そんな負け戦誰もやらないだろ」
「お前やっぱり利口だな」
「そうか? そこらへんの不良どもが頭悪すぎなだけじゃね?」
三人はそのままゆっくりと校門を抜ける。遅刻のちの文字も出てこないほどの余裕登校。他の学生と共に暁学園へと踏み入れたのである。
3人は同じ教室へ向かう2年3組。3人とも小学校から同じクラスで一回も離れたことなどない。誰かの陰謀とも考えられるが、もう奇跡でいいということに話はまとまっている。それでも席はかなりはずれこれもまた一度も近い席になったことはない。
各々鞄を置き、帝の席に集まってくる。そんな中、一人の生徒が帝の席に寄ってくる。長髪メガネで、顔立ちは整っており、美形に入る。身長は175前後と言うところだろう。漆黒の綺麗な髪は後ろでまとまっている。
「よう。お前もおんなじクラスだったのか。何たる偶然」
「・・・偶然? 笑わせるな、お前らほどじゃないが、5年連続お前たちと同じなんてありえないだろ。お前らは必ず仲のいいものを集めるとみた。でなければ、確立的にも天文学的にもありえない」
「はは。流石は鵺ね。なにその理論的考え。だからメガネは理論的に考えられるって思われるじゃない?」
「・・・・対外そうじゃないのか?」
それが当たり前と思っているのか不思議そうな顔を見せる。
「お前だけ」
「・・・・・・・・マジで!!」
「久しぶりに見たなお前の驚いた顔。いつ以来だ?・・・・考えるだけ無駄。思考停止」
「お前のその失礼な態度は減点ものだな」
「俺なん点?」
「ん~50?」
「-300」
「-100000」
「智貴ひどっ! 亮もっとひど!」
「お前なんてそれで十分」
鵺亮。中学からの友達で、何でもかんでも理論的に考えてしまうたちだが、そのうち飽きるという飽きっぽい性質。運動神経は悪くないが、基本は動かない。メガネは本物で、コンタクトは一回だけしたみたいだが、あまりにも人が寄ったので、メガネに戻したという経験がある。
「まぁ、それは置いといてだ。お前ら今度の生徒会長聞いたか?」
「生、徒・・・会長? 誰だっけ?」
「帝知らないの! あの望月早苗先輩を!」
「望月・・・早苗・・・」
「どうやらかなりの重症らしいな」
胸ポケットに隠し持っている手帳を広げ出す。
「2年1組望月早苗。容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備の超お嬢様。彼女はあのMOONWORKERSの長女で政界融資の大富豪。だが、彼女事態はお金持ちというところは一切強調せず、逆に言えば我々に好意を抱き、普通の生活に憧れているという面を見せる。故に金持ちにある“孤高”とう印象を一気に覆す業界の中でも有名人。去年までは如月家の次期当主がいたためにあまり目立ってはいなかったが、それでも3年の如月、1年の望月と学校内でも評判だった。現在学籍生徒の中でも主席。喝、美人としても有名。・・・・・以上、彼女に関する情報だ」
「・・・・・どっから出てきた情報だそれ?」
「秘密だ」
「あっそ」
「ところでだ」
なんだよ」
「暇だ」
「知るか!!」
机を叩き、勢いよく立ちあがる帝を、知っている顔からまるで見たことない顔の者が一斉に着目する。彼らを知っているものは大体流れを感じることが出来るのだが、始めての者は動揺を隠せない。ざわついた教室を宥めたのは、新任の担任だった。
「あ~、お前らいいか?目立つのはとても構わないが、ホームルームをぶち壊さないでくれるか?いい迷惑だ」
その冷たい一言はざわついた教室を凍らせて尚、静まりかえらせ、生徒に恐怖を与える新しい教育の仕方だった。これで生徒が校長へ、保護者が教育委員会へ抗議を荒立てないのが不思議なくらいの教育方針である。
「・・・・はい、すみません」
「うむ、自覚が出来ることは素晴らしいことだ。あとで飴ちゃんでもあげよう。職員室に来なさい」
「いえ、結構です」
「む?そうか・・・結構本気だったんだが・・・まぁ、いい、ホームルーム始めるぞ~」
そのような奇想天外な担任といかにも可哀想としか言えない生徒たちのホームルームが始まった。
朝礼の終わりを告げる鐘が鳴り、生徒たちは次の授業の準備を始める。クラスのやんちゃどもは終わりの鐘と同時に教室を飛び出し、我先にと何処かへ行ってしまった。真面目な優等生は綺麗に授業の準備を終わらせ、予習をこなし、今か今かと待ちわびている。多くの女子たちも雑誌や化粧品をいじりながら、話を咲かせている。そんな中、一段となにをしているのか解らない集団もいたりする。それが帝たちのグループである。まぁ、学校というものは集団生活の中でもさらに集団を決めつけグループ化する一般常識だよねこれ。
「なぁ、たるくね?」
「今更だな、智」
「ゲームするか?」
「PSP?」
「モ●ハ●は?」
「いいぜ?何狩る?」
「白い砦」
「蟹か!!」
「たる~」
「亮だけだ」
「うんじゃまぁいくか」
「「おう!」」
三人は意見があったと机をひっぱり、陣を作る。誰ひとり止めようとはしない。ただ例外を除いては。
「おう! じゃない! あんたたち何してんの!!」
「何って・・・・狩り」
「ここ学校よ!! それ解ってる? そんなのをする所じゃないの!! 学生が将来に向けて勉強するところなの!! 解った?!」
机を固め、戦闘態勢に入った3人を優等生生徒会長肌の明日華がとめる。しかし、それは遅く某ゲーム会社の虜になった3人はおなじみのBGMを少量で鳴らし、電脳世界に突入していた。そう彼らはまさにハンターなのだ!!
「学校? 集まってみんなでゲームや娯楽をし、休日の成果を見せる場だろ? だから、日々こうしてゲーム媒体を鞄に忍ばせ、こっそりPlay中だ」
「亮、絶対違うから」
「否、あっている」
「・・・もう知らないから」
ゲームが白熱していく中、廊下を走っている音が響く。
学校内を走るのは原則禁止ではあるのだが、基本守る者はほんの一握りで、対外は守ることはない。それは教師とて同じことで、ここにも生徒の見本とは程遠い教師がいる。新任教師2-3組担任の数学教師である。
「遅れてすまない!」
「ほら来たわよ。さっさと・・・止めて・・・?」
目を見開く光景がそこにはあった。先ほどあった熱がいつの間にかなくなっている。周りを見渡すと、机は元に戻り、あたかも何もなかったように各々散っていた。そう、今立っているのは春野明日華ただ一人。
「!!」
帝は寝たふり、亮はメガネをあげ知らんぷり、智貴は明日華を見て苦笑い。まさに脱兎のごとく、3人は己の席に着き、真面目を貫いていた。それに目がいくわけもなく担任は春野だけを注意する。
「おい、春野。速く着席しろ。お前だけだぞ?」
「なっなっなっ・・・・何でよぉーーーーー!!」
教室中に明日華の声が鳴り響いた。
1限目が終わり、2時限目が始まる10分間、また4人で集まっていた。その中、明日華だけが、うつぶせていた。先ほどの小事件のショックがまだ残っているらしい。その口からはその中、明日華だけが、うつぶせていた。先ほどの小事件のショックがまだ残っているらしい。その口からは魂が飛びぬけていた。
「何でよぉ。いつの間にそんな技編み出したの?」
「「去年」」」
「うっわ~、ひくわ~そのシンクロ。てか何で編み出しているのよ?」
「緊急脱出用」
「真面目に答えんなメガネ」
「・・・答えろと言ったのはどこのどいつだ」
「はいはい、うざったいわね~」
「明日華キレてね?」
「あれでキレないほうがすごいがな」
「ったく・・・ぶつぶつ」
小言を呟く明日香を黙ってみる帝。窓を見る。その先には雲一つない澄み切った青空が目の前を広がっている。心配なんてないよと空が皆に語っているかのようだ。それを象徴するかのようにその青空には雀や燕が気持ちよさそうに羽ばたいている。
「問題ねぇよ。お前はお前だ。そのままでいいよ」
「えっ?!」
その言葉は意外だったのか、明日香の頬には赤みがかかっている。じと~と目を細める智貴。口元は少し曲がっていて、いいものを見つけたと顔が笑っていた。
「あっれ~? 帝~妙にやさしいじゃん。もしかして~~」
「えっ!? そ、そうなの!? わ、わわわ、私・・・帝・・・」
「別に今のままが一番だったから、それでいいと思ったんだよ。それでいいじゃん」
「ちぇ、つまんね」
「・・・・そ、そんな」
何気ない一言だったが、ある者は喜び、ある者は落ち込むなど、ばればれな態度が入り混じった。そんな曖昧な空気の中、授業開始の鐘がなる。己の席へと散りじりになる中、明日香はさみしそうな顔で、帝を見ていた。
「・・・・・・・」
それを見ていた亮は眼鏡をあげて、席に着いた。