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暁の空  作者: 駕籠の鳥
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迷宮の紺碧

屋上に当る日の光は春先を温かく照らし、暖かな気候を与えてくれる。そこに清らかな風が春の匂いを運び、人は春を実感しつつ、居眠りをしてしまう。そんな麗らかな午後。しかし、暁学園の屋上は今にも戦争が始まるのではないかと張り詰めた空気がただよっていた。

 煙草をふかしながら青空を見上げる赤石徹教諭。帝の視線も気にならないようであざ笑うかのように煙草の煙で円を描いていた。帝も根気勝負と感じたのか視線を一切そらさずに睨みつけていた。沈黙の時間は春の風によっていっそう強調され、時間が長く感じた。

 しびれを切らしたのは帝。


「どういうことだよ? 2年前って・・・」

「ありゃ、1分半。意外と短かったね~。お前って短気なの?」


 腕時計を付けているわけでもなく、ましてや時計なんてものは視界に映るところには存在しない。鳥たちが羽ばたきを見せているだけ。


「なにごまかしてんだよ。2年前ってなんだよ」

「2年前は2年前だ。お前にとって重要な年だろ? それとも違うのか? まぁそうだよな。お前にとって誰かが死んだそれだけだもんな」

「あんた…何言って」


暑くもないはずなのに、勝手に汗は流れ落ちてきた。手も汗ばんでいるのがわかる。鼓動が速くなり、葬儀の景色が鮮明に脳内に映し出された。そう、確かに2年前は御前帝にとって重要な年である。天条院雪を亡くし、天条院奏という存在を知らされたあの日。あれ以降、帝は不良をやめた。


「知らないとは言わせないよん。なんたって大企業の娘が死んで、あんたが不良紛いをやめた年なんだからさ。そう、未だに覚えているはずだぜ? 天条院雪をさ」


天条院雪。その名前を聞いただけで、身体が暑くなり、なぜ知っているのかと怒りが芽生える。脳は痺れて麻痺を起し、何も考えれなくなる。なぜ? なぜ? と同じことを繰り返し唱えている。


「なぜ? そんなもん決まっているだろ? ・・・ふ~・・・俺は天条院雪・奏姉妹の叔父だからだよ」


何を言っているのか理解できなかった。いや本当は理解していた。だが思考回路が現実に着いていけていないのだ。ずっと拒否していたい。しかし、目の前にあるのは紛れもない真実。逃げ場なんてどこにもない八方ふさがりの状態に帝は一瞬で立たされた。


「ん? なんだ? その間抜けずらは。ああ、あれか? 仰天しすぎて何も考えれませんてか? ハッ、とんだお子様だな。鬼の名が泣くぜ?」

「コノッ!」


拳が身体に当たる鈍い音がなる。帝は一歩も動いていない。いつ動いたのかわからない間に智貴が赤石徹に殴りかかっていた。智貴の俊敏な動きも人外として思えるが、実際に驚くべき事実はその誰もが予想外の智貴の拳に赤石徹が反応して、受け止めていた事だ。煙草を口に咥えたまま智貴を見降ろす。智貴はかなり力が入っているのか、歯ぎしりが聞こえてきた。


「あぶっね~。鈴木お前卑怯だろ? んん? 第一教師に手を出すってどうよ?」

「ふっざけんな!・・・あんたそれでも教師かよ。教師が生徒に絶望与えてどうすんだよ!!いや!教師以前だ!!あんた人間として頭どっか逝ってるぜ?!」

「俺も智貴に賛成だな。今のは少しでは補えないほどの言葉の暴力だ。正当防衛として受け止めることも可能だと俺は思うがね。無論それは子供の言い訳かもしれない。完全に手を出したのは智貴が先という事実はひっくり返ることはないが、それでもあんたは教師としてやってはいけないことをやったこともまた事実。PTAにでも訴えればいいのか? それとも校長、いや、理事長にでも話せば穏便に済むが。・・・どちらがいい?」


 ゲームをしまい、反論の意を唱える亮。言葉の殴り合いは亮が一番適している。亮が言ったことはすべてが正論で、迷うことなき事実である。

これだけの批判を受けてなお、赤石徹は微動だにせずに煙草をふかし終いには笑いだした。


「やれやれお前は本当に敵に回したくないな。別に俺は学校を敵にしてお前達を絶望に追い込みたいわけじゃない。ただの忠告だ」


「忠告? それこそ馬鹿げてる。俺には喧嘩を売ってるようにしか見えねぇよ。舐めてんのか?」


眉間に皺がより、限界が来ている智貴。それに対してガンを飛ばしたまま動かない帝。まるで何かを見分けるかのように。冷静でいた。


「別に先生が誰の知り合いだろうと俺には関係のないことです。俺の中で雪も奏も・・・」

「違うな。同じ存在と言いたいんだろうがそれは勘違いだ。いいか? お前の中で2人は同じじゃない。現にお前は奏を見ても何も感じなかった。だからこそ奏がお前に近寄っても素っ気ないんだよ。お前が孤児のころ出会って惹かれたのは確かに奏だ。けどな、月日が経つにつれてお前の特別は雪になってるんだよ」

何も言葉が出なかった。悔しいからでも苛ついているからでもない。真実だからだ。赤石の言葉は的を獲ていて返す言葉が見つからない。だから言えることだけを言うことにした。


「先生、貴方の言う通りです。俺の中で雪は物凄い大きな存在なんです。雪が死ぬ前も後も俺の記憶に心に雪がいるんです」

「だろうな。なら何故墓参りに一度も来ない」

「俺の中に雪がまだ笑っているから。死んだと確信したくないだけ。怖いんです。自分の中の雪が消えることが。迷っているだけ。皆がいてもいなくてもずっと迷い続けているんです。孤児の俺を友達として外に連れ出してくれた智貴も明日華も特別だけど、雪はそれ以上に特別になってしまった。ただ何もかもが幼い自分はそれを認識していないだけで、確かに俺は彼女のことが好きだった。・・・いや、今でもかな」

「お前の考えは良く分かった。だがな、亡き者を亡き者として見ずにいるのは死者への冒涜だ。それは分かっているのか?」

「自分でもわからない。迷っていてどうしたらいいのか。どうすればいいのか迷ったままここまで来たんだ。昔は最強の不良なんて言われていたけど、それだってまやかしだ。ただ、迷ってどうしたらいいのかわからないから力に任せて・・・だけど何も得るものはなかった」


煙草を吸い終わり、携帯灰皿に力任せに吸いがらを押し込む。


「迷えよ。17なんて迷ってなんぼのもんだ。俺らみたいな大人だって迷って悩んで生きてきた。今でも迷っている奴だっているだろうよ。俺だって悩んださ。あの家っつうか家系が嫌で家を飛び出して、んで一目ぼれして、そのうちその子が転校することになって、連絡先を聞こうかと迷って・・・結末はサヨナラ。どんな奴だって迷うんだよ。自分だけと思うなよ。人生まだ先は長いぜ? 高校で迷宮入りはしないもんだ。たった3年だ。今を楽しめよ」


高笑いしながら赤石は去っていく。今もまだ過去に囚われ続けている少年たちを屋上という自由に最も近い場所で何かを伝えようとゆっくりを背中を沿って扉を閉めた。箱庭に閉じ込められた3年間。少年たちはどう迷い進んでいくのだろうか。

いろいろ忙しく投稿できませんでした。時間はかかるかもしれませんが少しずつ投稿します。お楽しみに!!

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