第八話 再び眠り込む
気がつくと、明るくなっていた。
寝てしまっていたらしい。腹ペコだ。幻なのに。
長い幻だ。リアルではどれほどの時間が経過しているのか知れないが。
腹ペコなのも幻覚だろう。気にしないことだ。
幻覚の中でできるのは、坐るか、寝るか、それだけだ。
他のは、自発的に動くことは、総てリアルでは障害の元だ。
排泄は、まあ、しかたない。
やけにリアルな幻で、正直目が醒めた時が恐ろしいが、これほど強烈な生理的欲求に衝き動かされては致し方あるまいよ、とて、ちてたー、とてちてたー。
心を無にして、再び寝る。
身体は坐り疲れて、あまり回復した感じがしない。少し消耗を覚えている。
幻覚か定かでは無いが、どうあれ今は寝るか坐るか。
坐れないなら寝る。
簡単な話だ。
寝る。
身体を叩かれて、起きた。
「んあ?」
「おい、昨日からずっと寝てンのか?」
あ、まだ幻覚見てんだ、俺。
「去れ、幻よ。現前せるは幻影、現実にあらず」
「何だ、まだキマってンのか……しかたねえな、保護するしかねえか」
こうして話しかけてくる男の幻影というのは、現実においては、救急医が話しかけてるのだろうか?
俺は現実では中毒症状で意識不明というやつだろうか。
「幻にしても、俺が自分で動くのではなく、幻影の方が俺を勝手に動かすというのなら、別に現実で不都合が生じることもあるまい、好きにすればいい……」
「ヤクじゃなくて、単にキチガイって線もあるか」
周囲を見ると、今日は男一人だ。
「よし、なら荷車に乗ってくれ、立てるな?」
「俺が自分で動くと、現実で沮喪をする惧れがあるから、この幻の中で、俺は自分で移動したりはせんぞ、幻よ。 動かしたいなら、好きにすればいいが、俺は決して自分から動いたりはせんぞ」
「なんてこった。マジキチかよ……じゃあ、暴れないでくれよ?」
「暴れたりしたら現実で何が起きるかしれたもんじゃない、暴れるわけがなかろう。 寝るか、坐るかしか、今の俺にとれる選択肢などないんだ。 それにしても何だって俺は誰かがそこに居るかのように会話してんだろう?」
「よっこしょっと、なんだか、云ってることが完全にあっち側の人って感じだがな……」
俺は男に担がれ、荷台に寝かされた。
「おい、荷物はないのか?」
「あるわけないだろう。俺は自分の部屋のベッドで寝てたんだぞ。幻覚の中に都合よく荷物なんか持ち込めるわけがあるか……」
「ぶれねえなぁ。よし、行くぞ」
そうして俺はこの幻覚世界の中で、どこかの村へ連れて行かれた。