第十五話 村を脱出
「おい! あんたら! なんでンな事やってんだ!? やめろ! やめろぉ!」
叫びながら、俺が飛び込んでいって、棒切れを振り回している男の肩を掴むと、
「危ねえっ、下がれっ!」
「えっ?」
喧嘩相手を棒切れで叩きのめしていた男は、あの最初に俺に声をかけてきた奴だ。
そいつが俺に叫んだ。
分らなかったんで、俺が一瞬ぽかんとすると、一人の村人の男が俺に跳びかかってきた!
吃驚して、腰を地面まで落とした。
村人の男が、様子がおかしい!
顔が兎に角恐い!
俺は両足を胸元へぐっと引き付けて溜めると、のしかかってきた男の腹を一気に蹴り飛ばした。
「ふんっ!」
襲ってきた男が後ろへ吹っ飛ぶ。
すると警告してくれた男が、その男の頭を叩き潰したぁっ!?
「なあっ!?」
驚愕して、凶行の犯人を見上げると、そいつが息を荒げて
「オイお前! こいつら化け物だぞ!」
「なんだと!? 村のモンだぞ!?」
「知るか! こいつらなんだぞ! 仲間の村人を食い殺したのは!」
「なにィッ!?」
愕いている俺に構わず、男が更に別の村人を棒で突き飛ばし、蹴り飛ばした。
ああ、それはいつも井戸端で挨拶していた小母さん!
まだ混乱している俺の目の前で、別の村人の男が地面からむっくり起き上がる。
村人は俺に目を向けると、黙って近づいてきた。
その顔に表情は無い。
まだ状況が呑み込めずに地べたに腰を下している俺へ、村人が掴みかかってきた。
思わずその腕を組みとめる俺に、村人が口を開けて噛み付こうとする!
「わああ!?」
思わず腕を突っ張って相手を押し遣ると、また思い切り蹴飛ばしてしまった。
男がまともに俺の蹴りを受けて、後ろへすっ飛び、そのままばったり倒れる。
暫くそのままで居て、またむっくり起き上がった。
今度は俺に警告してくれた男の方が近いと見るや、そっちへ近づいていく。
男は様子が怪しい他の村人たちと闘っていて、手が回らない。
さすがに今度は俺もこれはいかん、と気がついて、彼めがけて寄って行く村人の成れの果ての背中に両手で掴みかかり、力の限り引っ張る。
そうして無理矢理に村人の向きを変えると、背中から押して走る。
躓いた。二人して地面に倒れ込む。
俺は倒れた村人を踏んづけて立ち上がると、警告してくれた男の方へ走って戻った。
俺はその男ともう一人別の男の二人と一緒に身を守って、今や化け物と成り果てた村人たちをどうにか滅ぼした。
それから二人について走り、男の一人の家へ飛び込んで、まだ無事だった男の妻子を連れ出すと、全員で長老の小屋へ急いだ。
まさか病院で職員や看護師相手に暴れたりしてないだろうな、今のリアルの俺……。
ふと、我に返ってそう思ったが、脚に力を入れて走り続けた。
俺が寝泊まりさせて貰ってる長老の小屋は村の隅で、長老も普段居るか居ないか分らないような静かな生活をしているので、この騒ぎに巻き込まれておらず、襲撃をまだ免れていた。
良かった。
安堵していると、男たちが
「すぐに出るぞ、畑と水田はやばい! 裏山へ逃げるぞ!」
「え、なんでだ?」
「おい余所者、お前にゃ教えてなかったが、この村の大半は一旦死んでる連中なんだ」
「なんだと……」
「偉い魔法使いさんが、滅ぶ手前のこの国を死人起しの術で保たせてくれてたんだよ」
「どういうこった、なんだそれ」
「とにかく! もう時間が無え! 説明はあとだ! すぐに用意して逃げるぞ!」
見ると、仙人のような長老も頷いてる。
「わかった、そうする」
俺達は長老の家に準備されていた非常用の荷が収まっている背負い籠や背負子を背負うと、杖や棒切れを手にして、すぐに出た。
男の妻は杖をついて、先行する夫を追っていった。
俺は裏山で途中、男に一声かけて待ってもらい、さっき集めた薪を載せた背負子を見つけに行った。
それをサンドイッチマンのように身体の前側に抱えて戻り、長老を抱えて先行する男を追って、待っていてくれた男と一緒に急いだ。
「いつかこういう風になるんじゃないかと恐れながら暮していたんだよ」
「ああ、だからこんな荷物を長老の家に備えてあったのか」
「そういうこった。使わないで済めばそれに越した事ぁ無かったんだけどな」
「しかし、なんでこうなったんだ。いきなりじゃないか」
「分らねえなあ。魔法だからなあ」
「俺達には縁がないよな」
「おっと、ここだ」
俺が見ていると先へ行けと促されたので、少し先で待っていた。
男は石刃で何かやっていたかと思うと、道を遮るように細い木の束が転がり落ちた。
「これでよし、と。 おいおい、待ってくれてなくて良かったんだぜ。 行こうや」
「今更だが、あの村にはもう他には誰も居ないんだな?」
「ああ、お前が来た時には、他の生き残りはもう手遅れだったのさ」
俺達は、死人の村と化した場所からその日のうちに充分に遠ざかり、予め用意されてあった避難場所に辿りついた。
そこは山の中で不自然に大きな木が生えていない場所で、土塁の跡と空濠で囲まれていたが、中には小さな細い木や草が生茂っていた。
近くの斜面の下には小川が流れていた。
長老を倒木で休ませておき、俺達は草を刈り払い、生えていた細い木を切り倒して、避難小屋を作った。
俺はそれから周囲の草を刈り払い、細い木を折り取って、三角柱状のフェンスを量産すると、土塁の跡に並べて横たえて防壁代わりにした。
それが済むと土塁と空濠の修繕を行った。
最初の男が周囲の警戒に立ち、別の男一家は総出で生活用の設備を調えていった。
その夜、避難小屋の中で炉の火を囲んで即席の寝台に寝転がり、子供たちと寝ている女を見ながら、今後どうするかを訊ねると、男たちは
「こうなった以上この国は終りだ」
「他所の国へ逃げるしかない、厳しいところばかりだがな」
「たしかに厳しい。だが、このまま山ン中で過ごしても朽ち果てるだけだ」
「とにかく生きてこの國から脱出しないと始まらん」
「まだまだ遠いからな。特に長老と嬶にはきつい」
たしかに。
俺達だけ男衆だけならまだしも、仙人じみた長老と、身重の奥さんには辛かろう。
「このまままっすぐ隣国を目指すのか?」
「そうだ。だがその前に、此処で食糧を得てからだ。持ち出せた食糧は少ないから」
「この森は豊かだからな。塩は持ってきてるぞ」
まだ暫く話をしていたが、
「明日も早い。そろそろ休め。見張りは俺達三人で一人ずつ休みながらやる。お前はあとで起すから先に寝ろ」
そう言われて、すぐに眠りに就いた。
仮眠をとると夜中に起され、その後交代で仮眠をとる二人の男と夫々組んで見張りを続けた。




